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6 女神の剣(前編)

「待たせたわね、パーカー。盾は用意してある?」

「こちらで宜しいでしょうか? 魔族帝国時代、とある魔王が使っていたオリハルコン製の盾です」

 城の一階にある訓練室。

 倉庫から出してきた盾をお嬢様に渡しました。

 いつもなら、誰かしらが午後の訓練に使っている時間帯ですが、お嬢様が何をするのかわからないので念のために人払いしてあります。

 今、この部屋に居るのは私とお嬢様と、お嬢様が連れてきたユーニスの三人だけです。

 ……実験にユーニスの手助けが必要なのでしょうか? それとも、実験結果をユーニスに知らせておく必要がある?


「そうね。これなら問題ないでしょう」

「オリハルコンの盾……。実物を見るのは初めてです」

 普通の人間なら身体をすっぽり隠せるほどのサイズ。

 銅のような金のような不思議な色合いの大盾は外周に沿って魔石が何個か埋め込まれているだけで、過度な装飾は施されていません。

「見た目は地味ですがオリハルコンの力を完全に引き出してあり、永久に朽ちることがなく、物理的な攻撃は通用しません。埋め込まれた魔石の力で、攻撃系の魔法もある程度無力化すると言われています」

「では、パーカー。まずはあなたが試してみて。物理的な攻撃が本当に通用しないのか……。全力でやるのよ」

「了解しました」

 軽い口調で話をしながら、お嬢様は持っていた盾を、訓練に使う木製の人形に固定しました。


 お嬢様からリクエストされた以上、全力を出さねばなりません。

 右手を背中に回し、体内に仕舞ってあるレイピアを取り出します。

 ソウルイーター……。

 この剣を外に出すのは何年ぶりでしょう?

 扱う者の魔力を吸収することで、どこまでも切れ味が増す呪いの剣。

 普通の人間なら手にしただけで命の危機が訪れる代物ですが、魔力が余っていて呪いが効かない私にはぴったりの剣です。

 たっぷり魔力を吸ったソウルイーターなら、あるいは——

「それでは……。はあっ‼」


 ——キイィィィィンッ……


 いっさい手加減してません。

 私は全力で突きを放ちました。

 それなのに、乾いた金属音が響いただけで、何事もなかったようにオリハルコンの盾は変わらぬ姿を誇っています。

 全ての衝撃を吸収したのでしょうか?

 盾が突きに耐えたのはともかくとして、木製の人形が少しも下がってないのは異常です。

 今の突きには、山が動きそうなほど力を込めたのですが……。


「次はユーニスの魔法を試してみる?」

「いえ、私は止めておきます。……結果は見えてますから」

「そう? それなら……。ソウタ君が作った剣の出番ね」

 いかにも楽しそうに微笑んでいるお嬢様。

 その顔を見た瞬間、ユーニスを呼んだ理由がわかりました。

 ……ソウタ殿のすごさを理解してくれる観客が欲しかったのですね。


 腰に下げた鞘から、お嬢様がすらりと剣を抜きました。

 全体の長さは一メートルほどでしょうか?

 鞘には丁寧な飾り彫りが施されていますが、剣そのものはどこの街でも売っているような普通のロングソードに見えます。

 正直に言って、伝説の英雄が持つには地味すぎるのでは——


 ——ドンッ…… ドスッ……


「……えっ?」

「そんな馬鹿な……」

 お嬢様はただ、軽い素振りのような雰囲気で剣を振っただけです。

 まったく、何の気合いも感じられませんでした。

 ですがその瞬間、白い閃光が視界を縦に走り、重い響きが聞こえてきたときにはもう、真っ二つになった盾が床に転がっていたのです。


「こうなるだろうと予測してたけど……。やっぱり、びっくりするわね」

「何が起きたのか、説明していただけるでしょうか?」

「見ての通り、この剣は刃が潰してあって、このままでは紙一枚すら斬ることができないの。本気で斬ろう思ったときだけ刃が現れて、その時はすごく斬れるから、扱いに注意が必要なんですって」

「これはもう、“斬れる”というレベルを越えているのでは……?」

 オリハルコンの盾は元の位置に戻したらそのままくっつきそうなほど、滑らかに切断されています。

 何千年もの間、傷一つつかなかったオリハルコンの盾。

 現代では失われた技術で守りを固めた盾が、こんなにあっさり……?


「サラマンダーと戦っている途中で気が付いたのよ。この剣には魔力を乗せる必要がないって。これはまだ推測だけど、“斬る”っていう概念そのものが、ソウタ君の力で拡張されているのね」

「ちょっと待ってください、マルーン様! それは、魔法の存在を根本から覆してしまう考え方では」

「間違いなくソウタ君は、そこまで考えていないでしょう。優れた剣を作ろうとしたら、勝手にこうなっただけで……。まぁ、勝手にこうなってしまうのが大きな問題なんですけど」

「そんなこと……。そんなことが本当に可能なのでしょうか?」

「では、実験してみましょうか。パーカー、何でも良いから簡単には消せない結界を張ってみて」

「了解しました……。シールド!」


 お嬢様からのリクエストに応えて、訓練に使う木製人形の前に、魔力を多めに籠めた物理防御結界を貼りました。

 魔法を防げない代わりに、物理的な攻撃には強い結界です。

 どれほど優れた剣を使っても、二回や三回の攻撃では破れない——


「結界そのものを……。斬った?」

「……ありえない。長く生きてきたつもりですが、このような現象を目にするのは初めてです……」

「パーカーには悪いけど、この結果は予想できたわね」

 大量の魔力を使って、解呪された訳ではありません。

 ダメージが限界を超えて、破壊された訳でもありません。

 お嬢様の持っている剣で結界が斬られ、すーっと消えました。


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