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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十四章 穏やかな日々(?)
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閑話休題 英雄の戦い

 こんなはずではなかった……。

 ソウタ君に作ってもらった剣が嬉しくて、本気の打ち込みにも耐えてくれるヒイラギさんとの練習が楽しくて、思わず夢中になってしまいました。

 結果として、地下から近づいてくる巨大なエネルギーに気付くのが遅れてしまったのです。

 この魔力には覚えがあります。

 今から四百年ほど前、いきなり呼び出されて戦わされた相手。

 妖魔の森の原因となった、暴走精霊に間違い有りません。


 ……どうやらヒイラギさんも気付いたようです。

 チラリと視線を合わせただけで、互いの考えが伝わります。

 そうですね。この場で一番大事なのは、ソウタ君の安全ですね。

 急いで移動しましょう。



 割れる大地。噴き出す溶岩。

 ソウタ君に状況を説明している途中で、見覚えのある巨大な火トカゲが、地下から這い出てきました。

 ……前に戦った時より大きくなってる?

 ですが、本体の動きが遅いのは相変わらずのようです。

 単純に大きくなっただけなら、まだなんとかなる——


 巨大な火トカゲがこちらを見ました。

 赤い瞳の奥で、文字通り炎が燃えています。

 視線が合った瞬間、巨人族の本能に火が付くのを感じました。

 ……二週間ほど前から胸の奥がじりじりと疼いていたのは、この状況を予感していたのでしょうか?

 幸いなことに、ヒイラギさんとの練習で身体も暖まっています。

 前に戦った時は最後の最後で古龍に助けられましたが、あんな思いをするのは一度で十分です。

 お前をぶちのめす……。今日こそケリを付けてやる。


「……手伝っても良いですか?」

 ソウタ君の声を聞いただけで、乱れていた心が落ち着きました。

「そうしてもらえると助かるわ。でも、安全には気を付けてね?」

 古龍に助けられるのは二度とごめんですが、彼なら大歓迎です。

 ……この違いはどこから来るのでしょう?

 ずいぶん前に本で読んだ、惚れた者の弱みというやつかしら?

 ソウタ君なら、私の本当の姿を見せても大丈夫でしょう。

 そう信じられる何かを、彼は間違いなく持っています。


         ☆


 勢いよく伸びる炎の舌。

 口から吐き出される火の玉。

 鞭のようにしなる、太くて長い尻尾。

 火トカゲの攻撃の中で特にやっかいなのが炎の舌です。四百年ほど前、あの攻撃で腕を三本も持っていかれました。

 ……まさかとは思いますが、美味しい餌が近づいてきたと思って地上に出てきたのではないでしょうね?


 それはそうと、ソウタ君の耐火魔法はどうなっているのでしょう?

 見習いレベルの魔法使い(ソーサーラー)でも使える基本的な魔法のはずですが、私が使う耐火魔法より明らかに効果が高いのです。

 結界が分厚い? 同じ結界を何層も重ねて張ってある?

 おそらく、何か秘密があるのでしょう。

 あとでゆっくり話を聞かないといけませんね。


 戦いが始まってしばらくの間、巨大な火トカゲの攻撃は見覚えのあるものばかりでした。

 これならなんとかなる。

 私が危ない攻撃を引き受けて、オニキスさんが敵の体力を削り、タイミングを見計らって一気にとどめを——

 そう思っていたら、火トカゲの背中から炎の蛇が出てきました。

 太くて長くて舌と同じぐらい危ない蛇が何本も……。

 どうやら、身体が大きくなっただけではないようですね。


 炎の蛇が現れたことで、状況が大きく変化しました。

 オニキスさんは蛇の相手をするのが精一杯で、火トカゲの本体に攻撃する余裕はなさそうです。

 私の方にも蛇が何本か伸びてきて、舌や尻尾による攻撃を避けるのを邪魔してきました。

 さて、どうしたものか……。

 私が時間を稼いで、ソウタ君とマイヤーに転送魔法で脱出してもらう?

 冬の城をここに呼んで、防御障壁を盾として使う?

 気は進まないけれど、古龍に助けてもらう?


 吸い込んだだけで肺が焼けそうなほど熱い大気。

 岩が溶け、草が灰となり、立っているのも困難な大地。

 状況は悪くなるばかりで、好転する兆しはどこにもありません。

 それでも私は、剣を振り続けました。

 巨人族の姫として、ここで敗れる訳には——


「やー!」

 空を飛んできた氷の巨人が炎の蛇をメイスで殴り、凍らせました。

 ありえない。近くで見ても、とても信じられない現象です。

 氷の攻撃を受けて炎が消えるのならわかります。そうなるのが普通でしょう。

 しかし、氷の巨人の攻撃を受けた蛇は、炎の形を保ったまま氷の塊に変化しています。

 こんなことができる人は……。ソウタ君ですね。

 何の根拠もない話ですが、間違いありません。



 氷の巨人が参戦するのと同時に、戦況が大きく変わりました。

 降りだした雨。次々と凍らされる炎の蛇。

 頭を潰されても胴体を切られても、何度でも復活していた炎の蛇も、凍らされてしまうと何もできなくなるようです。


 いつの間にか、オニキスさんの身体も氷に変わっていました。

 ……離れた場所からソウタ君が手を加えたのかしら?

 それとも、オニキスさんが自分で身体を変化させた?

 どちらも常識的には考えられないことですが、ソウタ君なら有り得ます。

 これも、あとで詳しい話を聞かないといけませんね。


 炎の蛇を全て凍らせた二体の巨人は、その勢いで火トカゲの本体にも攻撃を加えていきます。

 尻尾と後ろ脚が動かなくなり、動きが鈍くなった火トカゲ。

 こうなってしまえば、負ける要素はありません。

 チラリと視線を向けると、オニキスさんが小さく頷きました。

 ……わかりました。とどめは任せてもらいましょう。


 四百年前は使いこなせなかった技。

 私だって、あの時から成長しているのです。

 お父様に教えてもらった最後の技。

 ヘカトンケイル族だけが使える最強の技。

 腕を大きく扇のように広げ、全ての武器に力を注ぐ。

「十の腕、百の波、千の渦が一つとなって、万の敵を討ち滅ぼす……。ボルテックスブラスター!」


 繰り出した斬撃が絡み合い、強大な渦となって火トカゲを貫く。

 ソウタ君が作った剣は、私の全力をしっかり受け止めてくれました。

 ……普通の人間には使えないはずだけど、ヒイラギさんならこの技もコピーできるのかしら?



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