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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十四章 穏やかな日々(?)
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12 暴走精霊(後編)

 火の玉を吐き出し、炎の舌を伸ばし、長い尻尾を振り回して、サラマンダーは巨人族の姫を執拗に狙い続けている。

 直撃こそ喰らってないが、見るからにマルーンは苦しそうで……。こんな表情のマルーンは初めて見た。


 オニキスはサラマンダーの背中から伸びてくる炎の蛇と戦っていた。

 頭を叩き潰しても、胴を引きちぎっても、すぐに復活して鉄の身体を狙ってくる何体もの蛇。

 魔法を吸収するマントが燃えてボロボロになり、腕や脚は噛まれて傷だらけになっている。

 ……どんな傷でも僕が治すから。もう少しだけがんばって……。


「やー!」

 サラマンダーの元に到着したダッシュが背中から氷のメイスを出して、オニキスに噛みつこうとしていた炎の蛇を殴った。

「炎が、凍った……?」

 驚きに満ちたマイヤーの声。

 蛇の頭が一瞬で凍り付き、そのまま動かなくなる。

 異変を察知したのか、サラマンダーの巨体がぶるりと震えた。

『魔力の凍結に成功しました。これであの蛇は、これ以上活動できません』

「よかった……。これなら、なんとかなりそうだね」

 メイスが根元から折れたけど、ダッシュは何事も無かったかのように、次のメイスを背中から取り出した。

 サラマンダーは大きいけど、少しずつ凍らせていけば——


「やー!」

 続けて、別の蛇に殴りかかるダッシュ。

「やー! やー!」

 炎の蛇を無視して、サラマンダーに殴りかかるオニキス。

 氷のメイスで殴られて、太い脚がピキピキと凍っていく。

「……あれっ? いつの間に……」

 ちょっと目を離した隙にオニキスも、ダッシュと良く似た氷の身体に変わっていた。


『ダッシュさんを見て、氷が有効だと判断したようです。オニキスさんが自分で自分の組成を変化させました』

 ……そんなことができるんだ。すごいね……。

『双子の姉妹のようなものですから。姉として、妹に負けてはいられないのでしょう』

 言葉にはならなかったけど、僕を守ってくれているヒイラギからも同じような雰囲気が伝わってくる。

 喧嘩になると困るけど、仲良く競ってくれるのなら良いよね。


『現在、オニキスさんとダッシュさんは魔力を過剰に投与することで、武器や身体の温度を限界を超えて下げて、炎の精霊に対抗しています。ですが、あまりにも魔力の消費が激しいので——』

 ……僕が魔力を用意すれば良いんだね? 前にマルーンの城で作った、あれでいいかな?

『はい。あの時と同じ魔水晶があれば十分です。あとは、私から二人に回線を繋いで魔力を供給します』

 あれなら一回作ってるし、すぐにでも準備できるはず。

 鎧の上から腰のポーチに左手を当てて、握っていた右手をゆっくり開く。

 それだけで、右の手の平に水色の魔水晶が出現した。

 ……ヒイラギを着ててもポーチからダッシュを出せたんだから、魔水晶も出せるだろうと思ったら……本当にできた。これは便利だな。


 あとは前と同じように、サイズと材質を変化させるだけだ。

 水色の魔水晶を粘土に戻し、バランスボールぐらいのサイズにして、白い魔水晶に変化させる。

 今回はヒイラギが助けてくれるから、重すぎて落とす心配も無い。

 問題があるとしたら、大きすぎて邪魔なところぐらいか。

『ありがとうございます。それでは、いただきます』

 全体が白かった魔水晶が、上の方から徐々に透明になっていく。

 どれだけ魔力を使っているのか……。細かいことはわからないけど、リンドウに任せておけば大丈夫だろう。

 足りなくなったら、また作れば良いんだし。



 身体の半分が燃えていて、残りの半分が凍っているトカゲ。

 僕が魔水晶を作っている間にも背中の蛇をどんどん凍らされて、サラマンダーはおかしな現代アートみたいな姿になっていた。

 魔力の心配は無くなったし、これでオニキスとダッシュは大丈夫だろう。

 後ろ脚と尻尾もほとんど凍ったみたいで、サラマンダーの動きがかなり鈍くなっている。

 ずっとサラマンダーの頭を相手にしていたマルーンは、周りの地面が溶けてマグマになって、立っているだけでも大変そうな状況だけど……。

 少しは助けになったのかな?

 表情に余裕が戻ってきたような気がする。


「ソウタ様。その……差し支えないようであれば、何が起きているのか説明していただけないでしょうか?」

 マイヤーは魔水晶が気になるのかな?

 離れたところで戦っているマルーンたちと僕が持っている魔水晶を、交互にチラチラ見ていた。

 ……そう言えば、何も説明してなかったっけ。

 いつもマイヤーは僕の邪魔をしないように、控えめな位置で見守っててくれるから説明するのを忘れちゃうけど、この状況は不安になるよね。


 サラマンダーを大人しくさせるために、ルビィとトパーズを召喚して雨を降らせようとしていること。

 雨が強くなるまで時間がかかりそうだから、ダッシュの身体を氷にして、オニキスとマルーンを助けに行ってもらったこと。

 炎の蛇を凍らせてるのを見て、オニキスも自分の身体を氷に変えたこと。

 サラマンダーを凍らせるために大量の魔力が必要なので、僕が大きな魔水晶を作って、リンドウに魔力を送ってもらっていること。


 マイヤーに状況を説明している間に、ポツポツと雨粒が降ってきた。

 あっという間に雨は勢いを増し、大粒の水滴に雹が混ざりはじめる。

 ゲリラ豪雨ってほどじゃないけど、真夏の夕立って感じかな?

 リンドウがシールドの魔法を使ってくれたみたいで、僕とマイヤーは濡れなくなったけど……。戦場はすごいことになっていた。



 オニキスやダッシュの攻撃に対抗してるのかな?

 サラマンダーのまだ凍っていない肌が、青白い炎に変わっている。

 口から吐いたビームが地面をえぐり、どこまでもまっすぐ伸びて、何キロも離れた森まで爆発する。

 燃えた地面に雨粒が降り注ぎ、水蒸気が勢いよく立ち上る。


 五組の腕に十本のロングソードを構えて、サラマンダーの正面でニヤリと微笑むマルーン。

 力を溜めてるのかな?

 全ての剣が白く光り、サイズも増しているように見える。


 ——ギイィィィィィン‼


 いきなり轟音が鼓膜を震わせ、凍った蛇が粉々に砕けた。

「トパーズ!」

 サラマンダーから少し離れた位置でホバリングしているトパーズ。


 ——アアァァオオォォォンッ‼


 目もくらむほどの稲妻が、サラマンダーの頭に降り注ぐ。

「ルビィ!」

 堂々とした態度で空中に立っているルビィ。


 オニキスとダッシュが素早くサラマンダーから離れる。

 次の瞬間。視線の先を、目がくらむほどの閃光が走った。


 ……そういう技なのかな?

 閃光の正体は、マルーンが出した攻撃だったみたいだ。

 サラマンダーの身体が光の柱に貫かれ、膨張し、爆発した。

 熱を帯びた暴風が辺りに広がり、森の木々をなぎ倒す。

 僕はヒイラギに入ってるから大丈夫だけど、マイヤーは——

 って考える暇も無く、リンドウの張ったシールドが光った。

 横に居るマイヤーまでまとめて、しっかり守ってくれたようだ。

 雨だけじゃなくて、衝撃にも対応してるとは……。

『マスターの安全が最も大事ですから』

 さすがリンドウ。助かるなぁ。


 爆発に巻き込まれたけど、オニキスとダッシュは問題なさそうだ。僕の方に手を振ってくれている。

 トパーズもルビィも自分でシールドを張ったのね。

 膝をついた姿勢で動かなくなってるマルーンが気になるけど——

『マルーンさんも、大きな怪我は見当たりません。現在は回復魔法を使っているようです』

 ……それなら大丈夫、かな?



 空を覆っていた雨雲が晴れ、太陽の光が降り注ぐ。

 美しい青空。なんだか空気まで綺麗になった気がする。

 粉々になったサラマンダーの残骸から青白い光が立ち上り、ゆっくり集まって太い柱となるのが僕には見えた。

 綺麗な虹を背景に、高く、高く、空へと昇っていく光の柱。


 マルーンから聞いた話だと、精霊が暴走したのは魔族大戦の時だっけ。

 三千年ぐらい前からこの地に居たことになるけど、まさか今日、こんなことになるなんて思ってなかっただろうな。

 ……精霊の時間感覚ってどうなってるんだろう?

 そもそも、精霊にも魂があるのかな?

 精霊が死んだらどうなるのか、いつか詳しい人に聞いてみよう。



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