8 妖魔の森へ
いろいろあったけど、アラベスとマーガレットの練習がはじまった。
アラベスはかなり力が入ってるように見えるけど、マーガレットの方は新しい剣が気になってるのかな?
どこかぼんやりとした雰囲気のまま、打ち込みを軽く流している。
うーん……。これはちょっとアラベスがかわいそうだ。
アラベスにも同じような剣を作れば良いのかな?
勝手に作ってプレゼントしても喜ばれるとは限らないし、あとでこっそり聞いてみるか。
アラベスとマーガレットの練習がいつもより早く終わり、次はヒイラギとマーガレットの番になった。
どちらもミスリル製のロングソードを手にして向かい合う。
ここ数日と同じように最初こそ大人しい打ち合いだったけど、徐々に速度が上がり、僕には残像しか見えなくなる。
まさか、新しい剣が砕けることはないと思うけど……。
——キイィィィンッ‼
強化ガラスが勢いよく当たったような音。
剣と剣が激しくぶつかり、広がる衝撃が周りの木を揺らす。
「これはちょっと……。止めた方が良いんじゃないか?」
「そうは言っても、ああなったマーガレット様を止めるのは……」
横に居るユーニスとアラベスの顔が青ざめている。
話を聞いているだけで不安になる。
ヒイラギとマーガレットは、楽しそうに剣を振るってるけど——
『緊急の連絡、失礼します。マスター』
いきなり頭の中に、女性の声が聞こえてきた。
……この声はリンドウだよね? どうしたの?
『二人の剣が今のペースで加速すると、私の魔法障壁でも屋敷を守れなくなる可能性があります。もっと安全な場所に移動することを推奨します』
……わざわざリンドウが声をかけてくるぐらいだから、本当の話だろう。
って、このままじゃ屋敷が危ないってこと⁉
「そこまでー‼ ストップ! ストーップ!」
僕が声をかけると、ヒイラギの動きがピタッと止まった。
少し遅れてマーガレットも、剣を振ろうとしていた手を止める。
「屋敷が危ないから続きは安全な場所で……。二人とも良いよね?」
「……そうね。周りを気にしなくて良い場所で、思いっきりやりましょう」
すっと剣を鞘に収めたヒイラギが小さく頷く。
心の底から楽しそうに、マーガレットが微笑んだ。
☆
前にエミリーさんから聞いた採石場に案内しようと思ったんだけど、マーガレットはもっと良い場所を知っているらしい。
妖魔の森の奥なら、どれだけ暴れても誰にも迷惑をかけない、と。
マーガレットはすぐにでも行きたがっていたけど、時間も時間だし、僕の屋敷でお昼を食べてから行くことにした。
月に一回は遊びに来て欲しいってパーカーさんから言われてたし、ちょうど良い機会だろう。
転送魔法で行くことにして、前みたいにパーカーさんを驚かせないように、マイヤーから先に連絡を入れてもらう。
今日は泊まらせてもらうつもりだから、その話もしてもらって、マイヤーには荷物の用意もしてもらって……。
あっ、そうそう。
マーガレットの世話をしに来ているメイドさんたちにも、一緒に行くか聞いてもらえる? あとは……他に何かあったっけ?
えっ? 全てマイヤーに任せれば大丈夫?
僕はゆっくり昼ご飯を食べてれば良い?
それじゃあ、あとは任せたよ。
……忘れないうちに、トパーズに言っておかなくっちゃ。
美味しいお昼ご飯を食べたあと。
マーガレットとユーニスとアラベスとマイヤーと二人のメイドさんを連れて、転送魔法で冬の城へと移動。
出迎えてくれたパーカーさんに荷物を預けて、僕とマーガレットは剣の練習に行くことになった。
正確に言うと、練習をするのはマーガレットとヒイラギで、ヒイラギは僕の護衛だから僕も一緒に行くことになった。
どんな練習をするのか興味があったし、僕ひとりなら守り切る自信があるってリンドウも言ってるし、大丈夫だろう。たぶん。
マーガレットが言っていた練習に良い場所は、冬の城から歩いて三日ほどの位置にあるらしい。
魔法で飛んでいけばあっという間?
僕が飛べるって話は……アラベスから聞いたのね。
抱っこしていたルビィをユーニスに預け、リンドウに頼んで翼を生やしてもらったタイミングで、マイヤーも背中から翼を出していた。
……マイヤーも一緒に来るの?
ボディガードだから離れる訳にはいかない? 大丈夫かな?
僕よりしっかりしてるのは間違いないし、大丈夫だろう。