7 マーガレットの剣
三日連続で木剣が砕けた。
屋敷の下働きが多めに用意してくれたのに、このペースだとあっという間になくなりそう。
毎日、中途半端なところで練習が終わって、マーガレットは欲求不満?
アラベスとの練習が激しくなってるのは、その影響だろう。
強がっているけど、このままだとアラベスの身体が心配……。
仕方がないので、僕が剣を造ることにした。
練習に使っても壊れないように丈夫な剣にするのは確定として、それ以外の部分はどんな剣がいいか、マーガレットに聞いてみた。
……ヒイラギが持ってるのと同じで良い?
なるほど。純粋に腕前だけの勝負がしたいのね。
あれはミスリル製で、刃が潰してあって、扱いが難しいと思うけど……。全く問題ない? 使いこなしてみせる?
マーガレットがそう言うのなら、大丈夫かな。
昼食後から作業を始めて、お茶の時間の前に新しい剣が完成した。
やっぱり、同じ物を二度作るのは楽だな。
思ってたより早くできたので、鞘に軽く飾りを入れておいた。
女性が使う物だから、見た目にもこだわって良いだろう。
……そう考えると、ヒイラギの方にも飾りを入れるべきか?
僕の体型に合わせて造ったから見た目は男物の鎧っぽいけど、作ってた時のイメージは強くて信念を持った女性だ。
……ヒイラギの鞘にも飾りを入れておこう。
基本となる図案は同じで、色を変えて——
マーガレットの鞘にはオレンジで、ヒイラギの鞘には白で、尖った葉っぱの模様を入れてみた。
ヒイラギも喜んでくれたし、これで良かったかな。
☆
翌日。練習がはじまる前に、マーガレットに剣を渡した。
「マーガレットさん。これをどうぞ」
「これって、昨日お願いした剣? もうできたの⁉」
「鞘の模様以外はヒイラギのと同じにしてあります。昨日も言ったけど、本気で斬ろうと思った時だけ刃が出るので、扱いには気を付けてください」
「ありがとう……。早速、試してみるわね」
マーガレットはロングソードを扱ったことがあるみたいだ。
慣れた手つきで鞘から剣を抜いて、横に居たユーニスに鞘を渡し、僕たちの居る場所から少し離れた。
片手で持って軽く振り回す。
両手でしっかり握って振り下ろす。
ミスリル製の剣は普通の剣より軽いけど、練習に使う木剣より重い。
……マーガレットにはこれぐらいの重さが良いのかな?
素人目にも、しっくりきているように見える。
エルフのお姉さんに武骨なロングソードはどうかと思ったけど……。これはこれで有りだな。似合ってる。
くるりと身体の向きを変えたマーガレットが、裏庭に生えている太い木に向けて剣を振った。
白い光が帯となって、残像が目に焼き付く。
落ちてきた木の葉が二つになり、さらに分かれて四つになる。
……今、剣で斬ったよね?
一瞬だけ本気になって刃を出して、元に戻した?
マーガレットはもう、新しい剣を完璧に使いこなしているようだ。
僕には使いこなせないんだけど……。そもそもの剣の腕が違うんだから、仕方がないか。
「剣聖が使っていた剣を試したこともあるけど、それと同じぐらい……。いや、ソウタ君の作った剣の方が格上かもしれないわね」
「それって、国によっては国宝になるレベルじゃないですか」
戻ってきたマーガレットがユーニスと話をしながら、鞘へと剣を収めた。
頬がほんのり赤くなってるのは、それだけ喜んでくれたのかな?
「国宝にならない方がおかしいレベルよ。でも、こんなにすごい剣をもらって良いの? 本当に?」
「元々、マーガレットさんに使ってもらうために作った剣ですから、どうぞ好きなように使ってください」
「ありがとう……」
「……あれっ?」
身構える暇すらなく、僕はマーガレットに抱きつかれていた。
ほんのり甘い香り。ふんわり柔らかい謎の感触。
前にもこんなことがあったなぁ……。
「ちょっと、マーガレット様!」
「マーガレット様‼ 抱きつくのは禁止だと言ったでしょう!」
「剣を作ってもらったお礼だから、これぐらい良いでしょう?」
「駄目です!」
「早く離れてください!」
「みゃあみゃあ〜」
ユーニスとアラベスが二人がかりでマーガレットを引き離す。
マイヤーの胸元から、ルビィが面白そうにこっちを見てるけど……。
いつの間にか、僕の腕から居なくなってたよね?
こうなるって予想してたのなら、教えてくれれば良かったのに。