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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十四章 穏やかな日々(?)
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6 ヒイラギと練習

 ヒイラギが完成した日の翌日。

 いつもなら午前中は工作室で何かしてるところだけど、今日は屋敷の裏庭でアラベスとマーガレットがやっている剣の練習を見学。

「アラベス、ちょっといいかな?」

「なんでしょう? お師匠様」

 練習が一息ついたタイミングで、アラベスに声をかけた。


「僕の練習にも付き合ってほしいんだけど……。良いかな?」

「もしかして、剣と鎧が完成したのですか?」

「あらっ。何か作ってるとは聞いてたけど、そんな物を作ってたの? 言ってくれれば城の倉庫から、ソウタ君に合うものを見繕ってきたのに」

 さっきまで激しく打ち合っていたのに、二人ともまだまだ元気そうだ。

 目を輝かせながら迫ってきて……。迫力がすごい。


「剣と鎧を作ってたのは間違いないけど、ちょっと違って……。って、見てもらった方が速いかな?」

 抱っこしていたルビィをマーガレットに預け、二人から少し離れる。

 腰のベルトに付けていたケースからナイフを抜くと、銀色の刀身がキラリと光った。


「ヒイラギ!」

 裏庭の景色がぐにゃりと歪み、持っていたナイフが姿を消す。

 次の瞬間、銀色の全身鎧が僕の横に立っていた。

「さすがお師匠様、見事な出来栄えです。ですが、これは……」

「ソウタ君、あなた……。新しいゴーレムを造ったのね?」

 わざわざ説明しなくても、何が起きたのか二人とも理解したようだ。

 ゴーレムとして仕上げるのは秘密にしてたつもりなんだけど……。変身の仕方がオニキスと同じだったから、そこでバレたのかな?


「はい。新しい相棒のヒイラギです。見ての通り、防御の固さには自信があるんですけど、剣の腕前がどれぐらいなのか僕にはわからなくて……。試してもらえるかな?」

「では、まずは私から……。お相手いたしましょう」


         ☆


 ——カンッ! カンッカンッ! カンッ!


 アラベスは最初から全力を出しているようだ。

 マーガレットと練習していた時と同じように、手にした木剣で何度も激しく打ち込んでいる。

 ヒイラギは全ての攻撃を木剣で受け止め、場合によっては受け流し、冷静に対応していた。

 ……僕が作ったロングソードじゃなくても、問題なく使えるようだな。

 ただ、金属製の足だと芝生で滑りそうでちょっと怖い。

 革で靴底を作るとか、考えた方が良いのかも。


「あの鎧……。ヒイラギさんって言うのよね? もしかして、相手の技をコピーできるのかしら?」

「わかるんですか⁉」

「だって私のクセまで再現してるんだもの。ほら、わかるでしょう? 木の剣を使ってても本物の剣と同じように、刃が当たる角度を意識してる」

 そう言われてみると、ヒイラギの動きがマーガレットの動きとそっくりに見えてきた。


「僕にはよくわからないんですけど——」

「また何か、面白いことを始めたんですか? ソウタ君」

「えっ? ユーニス⁉」

 マーガレットが立っているのとは反対側から、いきなりユーニスが声をかけてきた。

 その後ろにはマイヤーが、申し訳なさそうな表情で立っている。

 ……ユーニスに言われてこっそり近づいてきたのかな?

 マーガレットは気付いてたみたいだけど。


「あの鎧が、新しく造ったゴーレムね?」

「あっ、はい。そうです。名前はヒイラギです」

「すごいわね……。できたばかりでもう、アラベスと互角に打ち合ってる」

「本当にすごいのは、互角じゃないところだ」

「どういうことですか? マーガレット様」

「フェイントまで使ってアラベスは本気で崩そうとしているが、ヒイラギさんの方は完璧に対応している。それどころか、わざと反応を遅らせて、自分の動きを確かめているようだが……。まだまだ余裕がありそうだな」

「それは……。ソウタ君の造ったゴーレムなら、それぐらいできても不思議ではないですね」

「みゃあ〜」

 ……どうしてルビィが自慢げな表情になってるのかな?


 何本も続けてアラベスが打ち込み、呼吸が途切れたタイミングでヒイラギが打ち返す。

 木剣が折れるんじゃないかと心配になるほど激しいやりとり。

 ……あれ? 今、アラベスが変な動きをしたような気が——

「今のは剣を狙って斬って、相手の剣を落とさせる技よ。ヒイラギさんは技を見抜いた上で、わざと受けたようだが」

 マーガレットが楽しそうに説明してくれた。

 なんだか、アラベスがムキになってるみたいで心配なんだけど、マーガレットもユーニスも笑顔だから大丈夫……かな?


「ソウタ君のことだから、鎧の素材も普通じゃないんでしょう?」

「とりあえず、ミスリルで仕上げてみました。硬さと軽さのバランスが良さそうだったので」

「つまり、ヒイラギさんはミスリルゴーレムってことね。まさか動いているミスリルゴーレムを、この目で見られる日が来るなんて——」

「そこまで!」

 マーガレットの凜とした声が、ユーニスの言葉を遮る。

 音もなく斬り込んだヒイラギの木剣が、アラベスの首元で止まっていた。


「アラベス、代わってもらえる? 私もヒイラギさんの太刀筋を試してみたいから」

「はい……。あとはマーガレット様にお任せします」

 邪魔にならないように気を使ったのかな?

 マーガレットの腕から僕の胸元へとルビィがジャンプしてきた。

 戻ってきたアラベスが、マーガレットに木剣を手渡す。


「もっと剣の練習が必要ね。アラベス」

「ヒイラギさんはお師匠様の造ったゴーレムだからね。仕方がないよ」

 優しく声をかけるユーニス。

 ……アラベスは少し落ち込んでる? 悪いことをしたかなぁ。

「みゃあ〜」

 どうしてルビィが自慢げな表情になってるのかな?


         ☆


 ——カアァァァンッ! カッカッ……。カカンッ‼


 木と木のぶつかる激しい音。

 銀色の鎧とエルフのお姉さんの打ち合いは、出だしこそ落ち着いていたが徐々にスピードを上げて、残像しか見えなくなっていた。

「このスピードについて行けるのか……」

「マーガレット様。まさか本気を出すおつもりで……?」

 なんだか嫌な予感がするけど、二人とも楽しそうだからこのままで良いかな。

 ……いや、良くないか? 早めに止めるべき?

 僕が声をかければヒイラギは止まると思うけど、マーガレットは無理かな?

 だったら、気が済むまでやらせた方が——


 ——ビキィィィンンッ!


 砕け散る木剣。

 木から出たとは思えない音。

 濃密な時間は唐突に終わりを迎えた。


「残念。ここまでか……」

「もう十分でしょう? マーガレット様」

「明日までに、新しい練習用の剣を用意しておきますから」

 マーガレットに歩み寄り、言葉をかけるユーニスとアラベス。

 名残惜しそうな視線を、マーガレットは手に残った残骸に向けていた。

 木剣は途中で折れた訳でもなく、斬られた訳でもなく、粉々に砕けている。

 ……木ってこんな風に砕ける物だっけ?

 何か二人の力が影響したんだろうな。たぶん。



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