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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十四章 穏やかな日々(?)
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1 女神降臨

 ベッドに身を横たえたまま、女神像に意識を集中させる。

 深く深く、どこまでも沈んでいくイメージ。

 たとえ何万キロ離れていても関係ない。

 大事なのは精神と肉体の相性。

 これまでは人間から呼ばれて降臨したことしかなかったけど、自分から移動することも可能なはずだから——


「……あらっ! まさか、こんなに簡単に?」

 創多さんが住んでいる屋敷の、二階にある工作室。

 これまでは、ルビィさんの眼を借りて見ていた部屋。

 部屋の隅に設置された棚の一番上の段に、私は立っていました。


「何の違和感もないだなんて……。これも女神の土の力?」

 ゆっくり頭を動かして、薄暗い室内を観察する。

 自分の目で確認しながら、指を大きく動かしてみる。

 かつて、巫女の女性に降臨した時は、借りている身体を壊さないように、人の心を吹き飛ばさないように、細心の注意を払ったものでした。

 しかし、創多さんが造った女神像は、まるで生まれた時からこの身体で生活していたかのように私に馴染んでいます。


 小さな足で歩を進め、棚からぴょんっと飛び降りる。

 落ちる途中で身体を大きくして、普通の人間サイズになって、じっくり身体を確認する。

 ……初めて会った時からすごいと思っていましたが、創多さんは本当にすごいですね。

 長い髪も女神の衣装も、布の下の肉体まで完璧に再現されています。

「えっ? この記憶は……?」

 少し時間が経ったことで、意識が馴染んできたのでしょうか?

 女神像の記憶が流れ込んできました。


 女神の土を優しく捏ねる創多さん。

 歩いている姿を想像しながら脚を造る。

 腕を造る時は、何かを掲げている姿を想像していたようです。

 真剣な表情で粘土と向き合い、細部にこだわって製作を進める。

 私の指を、私の顔を、私の服を、創多さんは見事に再現しています。

 作業を進める創多さんからは職人的なこだわりを超えて、対象への深い愛情が感じられました。

 これはもう、神の愛(アガペー)と言っても差し支えないのでは?

 創多さんの指遣いを、女神の土も悦んでいました。


 これは……。これが、女神の土が持つ本当の力?

 こうして疑似体験することで、私はようやく理解できました。

 どれほどの力を創多さんが持っているのか。

 そして、どれほど私が愚かだったのか。

 失われた大陸。お母様の言葉。頬を伝う涙。

 女神の力をもってしても、時間を戻すことはできません。



 ……反省するのは帰ってからで良いでしょう。

 ここに来たのは創多さんについて、知りたいことがあるからです。


 遅くなりましたが、まずは状況の確認を……。

 外はまだ暗い時間ですが、創多さんの屋敷には、もう起きている人が何人も居るようです。

 一階で何かしているのは朝食の準備かしら? それとも警備役?

 創多さんの安全のためにも、私の心の安静のためにも、セキュリティはしっかりしてもらいたいものです。

 ……私は女神ですから、侵入しても問題ないですよね?

 駄目かしら? 念のため、後で創多さんに直接許可してもらいましょう。


 創多さんの私室は三階にあります。

 まだ、ぐっすり眠っているようですね。

 夜が明ける前に殿方の寝室に忍び込むだなんて、女神として恥ずかしい行為かもしれませんが……。

 今の私は創多さんの造った女神像ですから、問題ないでしょう。


 ゆっくり視線を上げて、創多さんが寝ている位置を確認。

 そのまま私は天井をすり抜けて、寝室へと移動しました。


         ☆


 ぐっすり眠っている創多さんと、枕元で丸まっているルビィさん。

「みゃあっ」

「おはようございます、ルビィさん」

 音を立てず、完璧に気配を消して寝室に移動したはずですが、ルビィさんは当たり前のように声をかけてきました。

 ……もしかして、工作室に降臨した時から気付いていたのかしら?


「ふみゃあぁ……?」

「そうです。創多さんを起こしに来ました。でもその前に、診察させてもらっても良いでしょうか?」

「みゃあ〜」

「ありがとうございます。それでは失礼して……」

 ぐっすり眠っている創多さんのおでこに手を当てて、気になっていた点を確認します。

 これだけは、ルビィさんの身体を借りても出来ない作業です。

 ……触れただけで胸がどきどきするのは、この身体の影響でしょうか?



 時間をかけてしっかり診察しました。

 身体の調子は問題ないようですね。

 楽しい夢でも見てるのでしょうか?

 精神的にも落ち着いているようです。

 そして、前から気になっていた創多さんの魂は——

「あぁ……。やはり、そういうことだったのですね」

「みゃあぁぁ……」

 私の考えていることがわかるのでしょうか?

 枕元で、赤い瞳がキラリと光りました。


 じっと私を見つめているルビィさん。

 サイドテーブルに置いてあるオニキスさん。

 右の手首につけっぱなしになっているリンドウさん。

 トパーズさんは森に作った巣で、ぐっすり眠っているはずです。

 オニキスさんを入れてある木の皿は創多さんの手作りでしょうか?

 シンプルな作りなのに可愛くて、妙に気になります。

 それはともかくして……。


 確認した結果、創多さんと彼の造ったパートナーたちは、魂の深い部分で繋がっていました。魂を共有しているとも言えるでしょう。

 ルビィさんやオニキスさんたちが成長して、それぞれの魂が増える。

 その影響で、創多さんの魂が増えているように見えたのです。

 いえ、見えたという表現は間違いですね。

 彼の魂は実際に増えているのですから。


 ……こんなことがあって良いのでしょうか?

 これから先も創多さんは、あらたな生物やゴーレムを産み出すでしょう。

 そして、それぞれが好きなように成長して魂を増やし、創多さんにフィードバックされる……。

 創多さんは永遠の命を手に入れたのでは?

 そして、彼が持っている魂の器は——


 この状況はもう、私の手に負える範囲を超えています。

 早急にお母様に連絡して、判断を仰がないと。

 ですがその前に、創多さんを起こしましょう。

 ……このまま、しばらく添い寝を楽しむのは駄目でしょうか?

「みゃあっ!」

「……冗談ですよ」



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