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閑話休題 先代魔王の疑問

 すごい勢いで東に向けて飛ぶロック鳥。

 その背中には、創多とその仲間たちが乗っている。

 一人残った先代魔王の口から、自然と大きなため息が漏れた。

「はあぁぁぁぁ……。まさか、こんな展開になるとはね……」


 掲げていた視線を下ろし、立っている場所を確認する。

 まぶしい日差しに照らされた深い森。

 風に揺らされて心地良い音を立てる木の葉。

 ほんの一時間ほど前、闇に包まれたとは思えない景色。

「まぁ、でも……。これはこれで良かったのかな?」


 元はと言えば南東地方に住んでいる古い友人から、妙な情報が入ったのがきっかけだった。

 ルハンナ伯爵がソウタ君を狙っている、と。


         ☆


 プライドの高い女伯爵は、バラギアン王国の北東地方を治めているディブロンク伯爵への対抗意識が特に強い。

 その手の話に詳しい部下からの情報によると、ディブロンク伯爵を意識していると言うよりも伯爵の元に嫁いだ妹を意識しているようだが、そこまで細かい話はどうでも良いだろう。

 とにかく、その流れでソウタ君に関する情報を得て、野良ゴーレム討伐の依頼を出したようだ。

 出来る訳がないと思っていた依頼を、彼はあっさり達成。

 女伯爵がソウタ君の情報を熱心に集めるようになったらしい。


 地方を治める立場にある女伯爵と、異世界から来た少年。

 国をも揺るがすレベルのゴーレムに魅力を感じた?

 平民など全員が自分の言うことを聞いて当然だと思っている伯爵には、ソウタ君の態度が新鮮だったのだろうか?

 とにかく、情報を集めるぐらいなら問題ないが、彼をこの国に呼び寄せる計画には問題がある。

 ……彼女はまだ、ソウタ君の危険性を理解していないようだ。

 やっかいなことになる前に、手を打って置いた方が良いだろう。


 僕が南東地方に乗り込んで、ルハンナ伯爵の計画を乗っ取って、ついでにソウタ君に恩を売ることができれば完璧だな。

 ソウタ君への依頼としては、死霊術師(ネクロマンサー)の話にガーディアンの情報を絡めて……。

 話の流れとしてはかなり強引だが、嘘は言ってない。


 ガーディアンが動き出す可能性は低いが、廃墟となった都市でアンデッドを作っているのは間違いないようだし、ソウタ君の出番もあるだろう。

 彼とパーティを組んでいるメンバーは不自然に思うかもしれないが、僕が直接依頼を出せば、裏の理由まで勝手に想像してくれるんじゃないかな?

 問い合わせが来たら、正直に話をすれば良いだろう。


 そんな感じでソウタ君を呼び出して、依頼を受けてもらうところまではうまく進んでいたのだが……。


         ☆


「陛下」

 ここまでの流れを振り返っていた僕の耳元で、急に声が聞こえた。

 周りに誰か居たとしても、自分にしか聞こえないような小さな声。

 ゆっくり後ろを向いて右手を挙げると、森の奥から男が一人歩いてきた。

 魔王の座を息子に譲ってからも、僕に仕えてくれている四天王の一人。

 賢者のライナバスだ。

 ……変装しているつもりなのだろうか?

 今日は魔族の青年らしい見た目で、狩人のような服装だ。

 弓なんて一度も使ったことがないだろうに、ちゃんと背中に背負っているのは何かのこだわりか?

 どれだけ容姿を変えても僕にはわかるから、問題ないと言えば問題ないが。


「まずは、無事に生き残ったことを喜ぼうか。お互いにね」

「……何が起きたのか説明してもらえますか?」

「いろいろと、予定と違ったことが起きたんだけど……。あの死霊術師、どうやら本物だったようだ」

「本物? 禁止される前の死霊術師ということですか?」

「その時代から生きているのか、どこかに残っていた知識を見つけたのかはわからないが……。それは、あれを調べればわかることだろう」

 城塞都市へと向き直り、閉じ込められた司祭に視線を向ける。

 僕の横に来たライナバスは、水晶の檻を見て驚愕していた。


「クリスタル・プリズン……。知識としては知ってますが、実際に使われているところを見たのは初めてです」

「二週間ほどで、魔法が使えない身体になって出てくるそうだ。細かい調査は君たちに任せるよ」

「全てお任せください。……念のためにお聞きしますが、水晶の檻に司祭を捕らえたのは——」

「伝説の英雄。ソウタ君が英雄の保護を受けているのは知ってたけど、まさか一緒に出てくるとはねぇ……」

「陛下……。これは、決して広めてはいけない情報ですぞ」

 よっぽど驚いたのか、ライナバスの口調に老人っぽいクセが混ざっている。

 こんな風にあっさり隙を見せるところが、上司としてはかわいく思えたりするのだが。


「その通りだ。まぁ、英雄が隙を見せるようなことはないと思うが、密偵部隊に目撃した者が居ないか確認しておいて。必要ならギアスで口封じを」

「了解しました。私の方からアレクに伝えておきます」

 アレクというのは密偵部隊を率いている部下。

 四天王の一人として、普段は僕に必要な情報を集めたり、まとめたりしてくれている忍者だ。


「ついでに、さっきの日食で影響が出ていないか調べておいて」

「ただの日食ではないと思いましたが……。何か情報を得られたのですか?」

「名前はラティオ・イクリプス。ずいぶん前に禁止された呪文で、アンデッドを強化する効果があるらしいが……。他にも何かあると思う」

「はあぁぁぁぁ……。自分では魔法に詳しいつもりでしたが、思い上がりだったようですな……」

「なぁに、知らないことはこれから知れば良い。……僕は面倒だから、君たちに任せるけど」

「陛下は昔から、相変わらずですなぁ……」

 僕が適当なことを言って、四天王が苦笑いする。

 この関係は、僕が魔王になった時から変わってない。


「ついでに言っておこうか。日食の魔法を解呪したのは、英雄ではなくてソウタ君だ。君なら、この意味がわかるだろう?」

「……魔力が尽きて効果が切れたのではなくて? あの規模の魔法を、個人で解呪したと?」

「実際に解呪したのはソウタ君のお供のゴーレムだと思うが……。彼がやったと言って、間違いないだろう」

「呪文を発動させるのなら、まだわかります。魔方陣を工夫して時間をかけて準備すれば、大規模魔法を個人で使うことも可能でしょう。ですが解呪するとなると、相手の魔力を上回る必要があって……。あの規模の魔法を上回る魔力を、何の準備も無しにいきなり?」

 ソウタ君の力を説明する、良い機会だと思ったんだが……。口で説明しても信じてもらえないか。

 彼と彼のゴーレムは、それだけ常識から外れているからな。

 いつか、四天王にソウタ君を紹介する機会を設けないと。



「陛下。アレクが合図を送っています」

 状況が終わったのを確認したのだろう。

 廃墟となった城塞都市の広場に、黒い衣装の男が立っていた。

「では、話の続きはあっちでしようか……。ウイング!」

 背中に漆黒の翼が生え、身体がふわりと浮き上がる。

 ちょっとした距離を移動する時に便利な飛行魔法。

 祖父に教えてもらってからずっと、この呪文がお気に入りだったが……。今は何故か、英雄が使っていた竜の翼が気になる。


 ドラゴンウイングと言えば英雄の代名詞。

 戦争を終わらせるために英雄は、この翼で世界を回ったと言われている。

 決して難しい魔法ではないしその気になれば僕でも使えるはずだけど、それでも使おうと思わないのは、英雄のイメージが強すぎるからだろう。

「……陛下。どうかしましたか?」

「いや、何でもない。ちょっと気になっただけだ」

 ライナバスは狩人っぽい服装のまま、別の飛行魔法で浮いている。


 ……ソウタ君は飛行魔法を使えるのだろうか?

 次に会った時、覚えていたら聞いてみよう。


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