表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/220

8 死霊術師の最期(後編)

 暗闇の中を飛んでいくマルーン。

 廃墟となった城塞都市に、黄色い光が増えていく。

 大きな光が二十個ほど。小さな光はもう、数え切れない。

 暗視の魔法に遠視の魔法を重ねてかけてもらって、何が起きてるのか確認しようとしたんだけど——

「ソウタ君、目を閉じて!」

「えっ?」

 いきなりユーニスが僕の前に来て、視線を遮った。

 その瞬間、闇に包まれていた森が激しい光に照らされる。


「……今、何が起きたの?」

「ホーリーライト。聖なる光の呪文をマルーン様が発動しました」

「今の一撃で下位のアンデッドは全滅したようです」

 ユーニスとアラベスが詳しく説明してくれる。

 直接見えなくてもまぶしく感じるぐらい強い光だったんだけど、ユーニスもアラベスも平気だったの?

 僕は気付かなかったけど、マルーンから合図があったのかな?


 ユーニスが横に動いて、僕にも再び城塞都市が見えるようになったけど、そこでは激しい争いが起きていた。

 門を抜けて街に入ったところにある、ちょっとした広場。

 勢いよく飛びながら、いくつもの魔法を使うマルーン。

 アンデッドの中にも魔法が使える者が居るようだ。

 味方がやられるのも気にせずに、魔法でマルーンを攻撃している。

 ……アンデッドって頭が良くないイメージがあったけど、魔法が使えるアンデッドも居るんだな。

 これが、死霊術師の力?


「敵もなかなかやるわね……」

「上位のアンデッドにはさほど効いてないのか」

 他の皆はマルーンとアンデッドの戦いをしっかり観察しているようだけど、僕は暗視や遠視の魔法に慣れてないせいか、それっぽい影を追いかけることしかできない。

 せめて、もうちょっと明るければ……。



 ……急に暗くなったのは、敵が魔法を使って日食を起こしたせいだよね?

 これって、解呪できないかな? リンドウ。

『呪文が発動した場所が、かなり高い位置にあるため……。あっ、いえ。大丈夫です。なんとかなりそうです』

 ……それじゃあ、解呪してもらえる?

『急いで準備しますので、少々お待ちください。……準備が整いました。発動は私が行いますので、タイミングはお任せします』

 どうやるのかはわからないけど、リンドウに任せておけば大丈夫だろう。

「解呪の呪文は確か……。ディスペル!」

「ピーウ‼ ピーゥピーゥ!」

 僕が呪文を口にすると、遙か上空からトパーズの声が返ってきた。

 ……敵の魔法を解呪するのを、トパーズも手伝ってくれたのかな?

 詳しい話は後でリンドウに聞いてみよう。


 カーテンを勢いよく開けた時のように、辺りが一瞬で明るくなった。

 雲一つ無い空。まぶしい太陽。

 なんだか、空気まで綺麗になった気がする。

「さすがソウタ君ね……。敵の大規模魔法をあっさり解呪するだなんて」

「アンデッドの動きが鈍りました。……マルーン様には、こちらに手を振る余裕ができたようです」

 ダイヤモンドランクの冒険者だから?

 それとも、目の作りからして違うのかな?

 僕の目が周りの明るさに慣れるのより早く、ユーニスとアラベスが状況を詳しく説明してくれた。



 あれは……。さっき、幻影の姿で話しかけてきた司祭かな?

 それっぽい人が広場の奥の方で、水晶の柱に閉じ込められている。

 他にそんなことをやりそうな人は見当たらないし、マルーンがやったんだと思うけど……。いつの間に? アンデッドと戦いながらやったの?


 明るくなったことで、アンデッドの姿がよく見えるようになった。

 男性もいれば女性もいて、年齢もバラバラのようだ。

 お葬式で見送る時の服装なんだろうか?

 全員が同じような白っぽい衣装に身を包んでいる。

 顔色が悪いのは……。アンデッドだから当たり前か。


「うわあぁぁぁ……。どっちもすごいな……」

 マルーンは戦い方を変えたようで、地上に降りて木の棒を振るっていた。

 子どもに蹴られたビーチボールのように勢いよく飛ばされて、壁にたたきつけられるアンデッドたち。

 痛みを感じないのだろう。

 何度やられても立ち上がり、マルーンへと迫っていく。


「日光に照らされて、アンデッドの動きが鈍ってます」

「この状況で動けるのは異常ですが……。それでも、時間の問題でしょう」

 ユーニスもアラベスも、マルーンの勝利を疑ってないようだけど……。なんだか嫌な予感がする。

 一方的にやられてるように見えて、アンデッドは何かを狙ってる?

 僕の気のせいかな?

「ふみゃあぁぁ〜」

「ルビィもそう思うの?」


 マルーンを取り囲むように、二十二体のアンデッドが円を描く。

 明るい太陽の下でもわかるぐらい、アンデッドの身体が黄色く光る。

 何をやろうとしているのかわからないが、何かを狙っているのはわかる。

 もちろん、マルーンも気付いてると思うけど……。笑ってる?

 これも全て、計算していた状況なのかな?


 手に持っていた木の棒を、マルーンが石畳に突き立てる。

 自由になった両手で、すっと弓を引くポーズを取り、太陽に向けて見えない矢を放った。

「全てを浄化する光よ……。ソーラーレイ!」

 マルーンの声が聞こえたような気がする。

 白く輝く矢が何本も降ってきて、アンデッドの手足を撃ち抜いて、石畳へと磔にする。

「……」

 続く言葉ははっきり聞こえなかった。

 四肢を貫いた矢が燃え上がり、アンデッドの身体が炎に包まれる。

 ぐるっと円を描くように並んだ、白くて美しい炎。

 炎が消えた時、そこには白い灰が残ってるだけだった。


         ☆


 気になることがあったのだろう。

 戦いが終わったあともマルーンは廃墟で何かしていたが、五分ほどで僕たちが居る場所に戻ってきた。

「ありがとう、ソウタ君。日食を終わらせてくれたのはあなたでしょう?」

「ええ、その通りです」

「私のお師匠様ですから!」

 僕が応えるより早く、ユーニスとアラベスが返事をする。

 二人とも微妙にドヤ顔なのが、ちょっと気になる。


「僕はただ、暗くてマルーンの姿が見えにくかったから、明るくしようと思っただけなんですけど……」

「ただでさえやっかいなブアウゾンビが日食で強化されて、面倒な状況になってたのよ。本当に助かったわ」

「それなら……。助けになったのなら良かったです」

 ブアウゾンビって何だろう?

 これは、帰ってからユーニスに聞けば良いかな。



 笑顔で話をしていたマルーンが、先代魔王の方へと向き直る。

「死霊術師は水晶の檻に入れておいたから、二週間もすれば、魔法が使えない身体になって出てくるはずよ。あとは任せます」

「了解しました」

「私が居たことは秘密にするように……。せっかくだし、全てソウタ君の手柄にしてもらおうかしら?」

「ええっ⁉ 僕は何もして無いですから、それはちょっと……」

「そう? じゃあ、そこはソウタ君の希望を尊重して、良い感じに話をまとめておいてちょうだい」

「では部下と協力して、私が捕らえたことにしておきます。その分、報酬に色を付けておきますので……」

「ええ。それで良いでしょう」

 なんだか不穏な会話が続いてる気がするけど、気のせいかな?

 これはもう、全部聞かなかったことにするのが正解か?


「あっ、そうそう。あやしい魔方陣を潰すついでに、毒を浄化して罠を破壊しておいたから。これは、ソウタ君がお世話になってる分のサービスよ」

「ありがとうございます。今後とも、お二人にはよろしくお願いします」

「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか。ソウタ君」

「あっ、はい。……ルハンナ伯爵への報告は、なくても大丈夫でしょうか?」

「そこも含めて、先代魔王がうまくやってくれるでしょう」

「全てお任せください」

 いつの間にか、エメリックさんが有能な営業みたいな雰囲気になってる。

 先代魔王ってすごく偉い人だと思うんだけど、伝説の英雄の前ではこうなっちゃうのが普通なの……?


「ピーゥピーゥ!」

 帰ろうとする雰囲気を感じたのかな?

 トパーズがすーっと降りてきた。

 ここからイムルシアは近いし、夕飯までに帰れそうだ。

 途中でベレス村によって、マルコやキアラさんに顔を見せてくるのも良いかもしれない。

 ……どうするかは、トパーズの背中で相談すれば良いか。

「それじゃあ……。みんなで帰ろうか」

「はいっ!」

 ひときわ大きな声でアラベスが返事をする。

 ずっと僕の後ろで警戒してくれていたマイヤーが、にっこり微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ