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6 打ち合わせ

「盗まれたのは魔族大戦より前の古い時代の遺体が中心で、中には歴史に名前を残すような人物……。生前は四天王だった人物の遺体も含まれていた。この状況を放置しておく訳にはいかないので、手っ取り早く遺体を隠してあるアジトを特定して、数日前に襲撃したんだよ」

「……どうやってアジトを調べたんですか?」

「ふふっ。私がよく知っている人物に、優秀な占星術師が居てね。遺物から現在の居場所を占ってもらったのさ!」

「なるほどぉ……」

 さすが異世界。

 犯罪捜査に占星術なんてこともアリなのか。

 僕の反応が予想通りだったのか、エメリックさんがドヤ顔っぽい表情になっていて、微妙にイラッとする。

 ……こういうところはアラベスと良く似てるなぁ。


「大胆なのか自信家なのかわからないが、犯人のアジトはここ、ルハンナの街にあった。そこで、街の事情に詳しい警備隊の者にも参加してもらって、アジトを襲撃したんだが……。首謀者に逃げられてしまってね」

「まさか、警備隊の副隊長まで買収されておったとは……」

 先代魔王の横に座っているルハンナ伯爵。

 街を治めている女伯爵が、沈痛そうな表情でつぶやく。

「済んだことは仕方がないよ。大事なのはこれから……。そこでね、ソウタ君にも協力してほしいんだよ」

「……どういう意味ですか?」

「犯人が向かった先はわかっている。今では廃墟となって、放置されている城塞都市の一つだ。今度こそ逃がさないように、僕が自分で捕まえに行くつもりなんだけど、その街にはガーディアンが残っていてね」

「なるほど。ガーディアンが動き出す可能性があるんですね」

「いやぁ……話が早くて助かるよ。デノヴァルダルの街で突然ガーディアンが動き出したのは、遺体を盗もうとした犯人が、偶然、封印の杖を壊してしまったのが原因だと思われる。あの時は偶然だったとしても、今では杖の力を理解している可能性が高い。……動き出したガーディアンもガーディアンを倒した鉄の巨人も、大きな話題になったからね」

「僕はガーディアンを相手にするだけで良いんですか?」

「街の外で待機して、ガーディアンが動き出した時に備えてほしい。残りは僕と、僕の直属の部下が相手するから」

 エメリックさんの直属の部下って、つまり先代の四天王?

 ちょっと興味があるけど、詳しく聞かない方が良い気がする。


「犯人が逃げ込んだ城塞都市は、ここから南東の方角にある。さらに南に行くと人間の国で……。他国に逃げられる前に決着を付けたい。そのために、打てる手は全て打っておきたいと思ってね」

「わかりました。ガーディアンを相手にするぐらいなら、僕でも力になれると思います」

「いやぁ……。ガーディアンを相手にするって、そんなに簡単な話じゃないんだけどね。さすがソウタ君だ」

 横に座っているユーニスとマーガレットが大きく頷く。

 離れた席に座ってて直接は見えないけど、アラベスがドヤ顔になっているのは想像できた。



 先代魔王からもう少し詳しい説明を聞いて、その場はお開きになった。

 遺体を盗んだ首謀者とされている人物は、この街の教会に所属している大司教のうちの一人らしい。

 聖職者が裏で別の顔を持っているのはこの国ではよくあることだと、先代魔王が笑いながら話してくれた。

 笑い事じゃない気もするけど……。


 死体を集めていた事実からして、首謀者の正体は死霊術師(ネクロマンサー)

 夜にこっそり襲撃するのはこちらが不利になる可能性が高い。

 そういう訳で、作戦の決行は明日の昼に決まった。


         ☆


 先代魔王から依頼を受けた日の夜。

 大人が四人ぐらい余裕を持って寝られるほど広いベッドで、僕は一日の出来事を振り返っていた。


 ルハンナ伯爵からの依頼だと思って来てみたら本当の依頼主は先代魔王で、死霊術師討伐のお手伝いの仕事だった。

 途中からはエメリックさんの勢いに負けて、流されるままになってた気もするけど、とても断れるような雰囲気じゃなかったし、ユーニスやアラベスも何も言ってなかったし、引き受けて良かったんじゃないかと思う。


 これがゲームの世界だったら、自分で街を歩いていろんな人から話を聞いて、証拠を集めたり犯人の正体を突き止めたりするんだろうけど……。思ってたのと違ったようだ。

 ……よく考えたら、僕と死霊術師との間に直接の因果関係はないし、問題視しているのは先代魔王と二人の伯爵だし、変に巻き込まれるよりお手伝いで済む方がマシなのかも。


 晩餐会の前にルハンナ伯爵と話をする時間がとれたので、前回、ゴーレム討伐の報告を自分でできなかったことを謝っておいた。

 地方を治めている大貴族に対する態度として、僕の方に問題があったと思うんだけど……。逆に、ルハンナ伯爵から体調を気遣ってもらった。

 先代魔王を名前で呼んでたのが良かったのかな?

 謁見の間で初めて会った時の態度が信じられないほど、ルハンナ伯爵が普通に対応してくれた。

 微妙に引かれてるというか、恐れられてるような雰囲気も感じたけど、これはさすがに気のせいだと思う。気のせいだろう。


 死霊術師についても、簡単に話を聞いておいた。

 人間や動物の死体に魔法をかけ、意のままに操る術師だそうだ。

 バラギアン王国では何千年も前に禁止されたが、それでも、ときどき表舞台に現れては問題を起こすと、エメリックさんが説明してくれた。

 ……心の底から嫌そうな表情をしてたから、何か面倒な思い出でもあるのかもしれない。


「ふみゃあぁぁ〜……」

「えっ? もう寝ろって?」

 考え事をしてた僕に、枕元で丸まっていたルビィが声をかけてくる。

 先に寝てると思ってたのに……。僕が寝ないのを心配してくれたようだ。


 赤い瞳。細くて長いひげ。内側だけピンク色の耳。

 ゆっくり身体を起こして顔を覗き込んでくるルビィを見て、何故か、この世界に来た最初の日を思い出した。

「これまでも何とかなったし、明日も大丈夫かな。それじゃあ、寝ようか」

「みゃあ〜」


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