5 本当の依頼人
ゆっくり進む馬車の中で、アラベスとフォルデンさんは僕の名前を広げる計画について、ずっと熱く語り合っていた。
ゴーレム討伐はお金を稼ぐためにやっただけで、名前を売ろうと思うってやった訳じゃないんだから、そういう計画は止めるように言ったんだけど……。
ユーニスとマーガレットが、今日の騒ぎに参加できなかったのを残念そうにしてたのが気になる。すごく気になる。
えっ? 計画を知ってたら、自分も裏で手を回してた?
あそこのギルドマスターにはいくつも貸しがある?
真面目な顔でマーガレットは何を言ってるのかな?
なんだか嫌な予感がする。
師匠としての強権を発動して、アラベスだけでも止めるべき?
そう思っていたところで、ルハンナ伯爵の城に馬車が着いた。
☆
若くて顔立ちの整った執事さんに通されたのは、会議室のような雰囲気の部屋だった。
大きくて重そうな長方形のテーブル。
壁に貼ってあるのは、この地方の地図かな?
「やあ! 久しぶりだね、ソウタ君」
「えっ? えーっと……。エメリックさん?」
僕に声をかけてきたのはアラベスのお父さん……。ここ、バラギアン王国の先代魔王である、エメリックさんだ。
横に座っているのは北東地方を治めているディブロンク伯爵と、南東地方を治めているルハンナ伯爵。
質実剛健な武人っぽい雰囲気のディブロンク伯爵と、豪華なドレスに装飾品をいくつも身に着けたルハンナ伯爵の対比がすごい。
「ルハンナ伯爵の名前で依頼を出してもらったけど、今回、君に頼みたいことがあるのは僕でね。話だけでも聞いてもらいたいんだけど……良いかな?」
「あっ、はい。最初からそのつもりできたので」
「それじゃあ、みんなも席について。今、お茶を出させるから」
ここはルハンナ伯爵の城だけど、先代魔王が仕切っているようだ。
僕たちが椅子に座ると、メイドさんが温かいお茶を入れてくれた。
……当たり前のようにフォルデンさんも席に着いたけど、予定通りなの?
「依頼の話だけど……。やって欲しいことだけ短く伝えるのと、裏の事情まで詳しく説明するのと、ソウタ君はどっちが好みかな?」
「その二つなら——」
僕の向かいの席に座っているエメリックさん。
にっこり微笑んでいる先代魔王の顔に『話を詳しく聞いてほしい!』って、全力で書いてあるような気がした。
「……詳しい事情を説明してもらえますか?」
ここはしっかり腰を据えて、話に付き合うしかなさそうだ。
「それじゃあ、そもそものきっかけから話そうか。今回の依頼のきっかけとなったのは、ソウタ君も関わった事件だし」
「えっ? それって……」
「デノヴァルダルの街でいきなりガーディアンが動き出して、君に助けてもらった事件があっただろう? あれだよ」
「あの時はソウタ殿に助けられました」
なるほど。
あの時の話が絡んでるから、ディブロンク伯爵もここに来てるのか。
ガーディアンは鉄の巨人に倒されたけど、どうして急に動き出したのか、謎が残った。
詳しく調べるために、冒険者ギルドに協力を要請。
ユーニスとマーガレットに手を貸してもらって調べた結果、『封印の杖』と呼ばれている魔術具が、ガーディアンを制御していることがわかった。
話が広まらないよう、バラギアン王国の密偵部隊を使って調査。
ガーディアンの存在する全ての城塞都市を調べた結果、封印の杖に異常が見られたのはデノヴァルダルの街だけだった。
「ここで終わっていたら話は簡単だったんだけど……。密偵部隊から気になる情報が入ってね」
「どんな情報が入ったんですか?」
「封印の杖が納めてあるのは城塞都市の中央にある、城や領主の館の地下。墓地として使われている場所が多いんだけど、関係者しか入れない古い墓地に、誰かが侵入した形跡が見つかったんだ。それも複数の街で」
最も多かったのはルハンナ伯爵が治める南東地方だが、王都がある中央地方や北東地方の城塞都市でも形跡が見つかったらしい。
一カ所だけならただの墓荒らしの可能性もあるが、複数の街で似たような形跡が見つかったことからして、何か別の目的があると推察される。
詳しく調査させた結果、いくつもの遺体が盗まれていることが判明した。
「調査に協力してくれたのが、そこに居るフォルデンだ」
「フォルデンさんが?」
「はい……。私は大金の誘惑に負けて、神官しか入れない場所に部外者を手引きしたことがありました。そのことを陛下に告白して、全ての情報を正義のために使って頂けるようお願いしたのです」
「野良ゴーレムが一気に三体も討伐されたって聞いて、この地方に来て情報を集めていたところに彼の方から声をかけられてね。最初は驚いたけど、話してくれた内容はどれも正しかったし、信用出来ると判断したんだ」
……野良ゴーレムが討伐されたのって、僕がやった話だよね?
あれからもう、一ヶ月ぐらい経つのか。