4 アウデーレ城へ
「おまえら、これは何の騒ぎだ」
落ち着いた雰囲気の声。
訓練場に入ってきたのはスーツ姿の男性だった。
一見すると、元の世界のサラリーマンっぽい?
見た目は普通の人間で体格も普通だけど、男性の声を受けて、さっきまで騒いでいた野次馬たちが波が引くように静かになる。
「ちょっと生意気なよそ者が居たので、軽く遊んでやってただけですよ。わざわざギルドマスターが見に来るようなものではありませんって」
入ってきた男性に野次馬の一人が状況を説明する。
なるほど。この人が、このギルドのギルドマスターなのか。
僕には普通の人にしか見えないけど、きっとすごく強いんだろうな。
「軽く遊んでやった? 私には、とてもそうは見えないが……。あっ!」
部屋を見回していたギルドマスターの視線が、僕の方を向いて止まった。
いや、違う?
ギルドマスターが見てるのは、となりに立っているマーガレットだな。
「どうしてあなたが、ここに……。ゴクッ……」
なるほど。この人はマーガレットを知ってるのか。
マーガレットに軽く睨まれただけで、動きが止まってしまった。
野次馬たちの視線が自然と僕たちに集まって……。注目されるのは好きじゃないんだけど、こういう時、どうすれば良いんだろう?
力試しは終わったみたいだし、出ていっても良いのかな?
「ソウタ殿! こちらにおいででしたか」
「あっ、フォルデンさん! お久しぶりです」
ギルドマスターから少し遅れて、僕の知ってる人が訓練場に来た。
前に野良ゴーレム討伐の依頼を受けた時、見届け役として僕たちに同行したフォルデンさんだ。
「伯爵に言われてソウタ殿を迎えに来たのですが、この状況は……?」
「それが、僕にもよくわかってなくて——」
「大丈夫です。全て終わりました。城に向かいましょう」
「……アラベス?」
さっきまで頬傷の男と剣を交えていたアラベスが、いつの間にか、近くに戻ってきていた。
「ふむ……。ここは任せて良いのかな? ギルドマスター」
「ああ、後片付けはやっておくよ」
フォルデンさんとギルドマスターは知り合いなのかな?
軽い口調で言葉を交わしている。
周りの野次馬たちは、口を挟めずに黙って見ているだけだ。
肌に刺さるような視線を感じるけど……。
「それでは、馬車を待たせていますので。こちらにどうぞ」
☆
丸い湖にかかった、背の低い橋。
豪華な馬車に揺られながら、キラキラと輝く湖面を眺める。
……何だろう?
冒険者ギルドでの出来事が妙に気になる。
最初のきっかけは、頬傷の男が声をかけてきたんだっけ。
確か、『白い猫に女連れの小僧』とか言ってた気がするけど……。ストーンゴーレムを倒した時は見届け役のフォルデンさんも一緒だったし、この表現はおかしくないかな?
実際に戦ったのは巨人サイズのオニキスで、誰がオニキスに命令を出したかなんて、遠くから見てもわからないよね?
フォルデンさんはこの街の人だから除くとしても、アラベスやマイヤーがゴーレムマスターでもおかしくないハズ。
……その場合、僕は従者のポジションかな?
一人だけ猫を抱いてぼーっと立ってたから目立ったのかもしれないけど、何か違う気がするなぁ……。
「そんなハズはないと思うけど……。もしかして、さっきのギルドでの騒ぎはアラベスが仕込んだの?」
「さすがお師匠様ですね! どうしてわかったのですか?」
「そんな気がしただけなんだけど……」
身近に居る人間でこんなことを思いつくのはアラベスぐらいだし、さっきから妙に機嫌が良さそうだし、フォルデンさんとチラチラ目をあわせてるし、嫌な予感がしたから聞いてみたんだけど……。まさか、本当にそうだったとは。
「申し訳ありません、ソウタ殿。元はと言えば私が、アラベスさんにお願いしたのです」
「……フォルデンさんが?」
人魔大戦時代のストーンゴーレムが二体に、魔族大戦時代のアイアンゴーレムが一体。
三体の野良ゴーレムが討伐されたと発表されてからずっと、この地方では誰が倒したのか話題になっていた。
最近になって、見た目が良いだけで大した実力も無い冒険者グループが、あれは自分たちが倒したと言いだした。
実際に現場を見たフォルデンさんとしては、おかしな情報が広まる前にどうにかしたかったらしい。
再び創多を呼ぶと聞いて、伯爵の依頼とは別に自分でも連絡を取って、アラベスと相談して正しい情報を広める相談をした。
「部下を使って血の気が多い冒険者に情報を流して、アラベスさんにも協力していただいて……。ソウタ殿の手柄を、そこらの冒険者に利用される訳にはいきませんからね」
「こちらとしても助かりました。フォルデン殿」
どうしてアラベスは、そんなに嬉しそうなの?
いかにも同志といった雰囲気で、がっちり握手してるのは何故?