3 力試し
何事もなく街に入り、適当に選んだ店に入って昼ご飯。
前に行ったのとは別の店だけど、ここもソーセージが美味しかった。
アラベスの案内で冒険者ギルドへ。
伯爵の迎えがギルドで待っているらしい。
この辺りの細かいやりとりはアラベスに全てまかせてるから、僕は建物に入ってたところで待ってるだけ——
「白い猫を抱いた女連れの小僧……。南東の街道にいたストーンゴーレムを倒したってのはお前か?」
ロビーのベンチに座ってアラベスが帰ってくるのを待っていた僕に、グレートソードを背中に担いだ男が話しかけてきた。
大きな頬の傷。髪が一本も残っていない頭。
僕の太ももと同じぐらい太い腕。使い込まれた革鎧。
いかにも相手を舐めているような表情で、男は僕を見下ろしている。
……これって、冒険者ギルドの新人いびり?
アイアンゴーレムを倒した人を探してるのなら、別の目的があるのかな?
男の目的が何だとしても、僕の右に座っているのは伝説の英雄だし、心配することはないと思うけど……。
「お師匠様! 何か問題が起きたのでしょうか?」
雰囲気が悪くなったのを感じたのかな?
どう返事をするべきか考えていると、ギルドの窓口で話をしてたアラベスが足早に戻ってきた。
「こちらの男性が、ストーンゴーレムを倒した人を探しているそうよ」
「……ユーニス?」
アラベスの質問に、左に座っているユーニスが答える。
「それなら、こちらのソウタ殿であってますよ」
「アラベス⁉」
他人のフリをしてスルーしようと思ってたのに……。どうしてユーニスもアラベスも楽しそうなの?
マーガレットも目が笑ってるよ?
「それで、お師匠様に何の用事ですか?」
「こんなに軟弱そうな奴が人魔大戦の生き残りを倒したなんて、嘘に決まってるだろう。それを、俺が証明してやる」
さっき、南東の街道って言ってたっけ。
だとしたら、ルハンナ伯爵から野良ゴーレム討伐の依頼を受けて、二日目の朝に倒したゴーレムかな?
そう言えば……。あの時、ゴーレムと戦った平原に、僕たちの他にも誰か居たってトパーズが言ってた気がする。
そこから話が広がったのかな?
いろいろあってすっかり忘れてたけど。
「では、お師匠様は忙しいので、一番弟子の私が相手をしましょう。さぁ、とっとと訓練場に案内しなさい」
「ふんっ! ついてこい」
アラベスの仕草や言葉遣いが、微妙に大げさになってる?
イベント感覚で楽しんでるのかな?
普段からそんな感じと言えばそんな感じなんだけど……。ユーニスもマーガレットも心配してないみたいだし、このまま任せておけば良いか。
☆
頬傷の男に案内されて、ギルドの建物の裏に移動。
そこには、バスケットボールのコートぐらいの広さの訓練場があった。
建物の中は綺麗に片付けられていて落ち着いた雰囲気だったけど、ここは壁際に木箱やよくわからないツボが並んでたりして雑多な雰囲気だ。
十人ほどの男女が槍や剣の練習をしてたけど、訓練場に入ってきた僕たちを見て面白そうな気配を感じたのだろう。
練習をやめて壁際に移動して、野次馬っぽい雰囲気になった
……喧嘩を売ってきた男の仲間かな?
背の低い男が木剣を二本持ってきて、アラベスと頬傷の男に手渡す。
「力を見るだけだ。これで良いだろう」
「ああ、かまわないよ……。いつでもかかってこい」
手をクイックイッってやる仕草は、こっちの世界でも挑発であってる?
……どうやらあっていたようだ。
口元をゆがめた頬傷の男が、いきなり木剣を振りかぶった。
——カンッ! カンッカンッカンッ……
木と木がぶつかる乾いた音が、訓練場に響き渡る。
普段、グレートソードを扱っている男には軽すぎるのかな?
残像しか見えないような速度で、両手で持った木剣を振り続ける。
ゲームなら一ターンに何回も攻撃するキャラは珍しくないけど、現実に居るとこんな感じになるのか。
僕なら剣で受けただけで、手がしびれそうだけど……。アラベスは顔色一つ変えることなく、全ての攻撃を受け流している。
「遅すぎる……。力の無駄遣いだな」
「なにぃっ!」
アラベスのつぶやきを受けて、頬傷の男が一歩下がった。
ずっと木剣を振っていた影響か、軽く息が上がっているようだ。
「この程度のレベルでは、千人集まってもお師匠様には勝てないぞ」
……ちょっと、アラベスさん?
僕なんて、剣を握ったこともないんですけど?
あんな男が千人も居たら、見ただけで逃げ出してるよ?
「ふんっ……。この技を見ても、同じことが言えるかな?」
頬傷の男が木剣を身体の正面で構えた。
そのまま、何もしてないように見えるけど……。
木の剣が光ってる? それどころか、徐々に大きくなってる⁉
「アラベスを相手に魔法剣を使うとは……。どうやら、相手の力量を見抜けないようですね。あの男は」
頬に手を当ててぼそっとつぶやいたユーニスは、どこか呆れたような表情を浮かべている。
横に居るマーガレットは……。もう、話に飽きたのかな?
いつの間にかルビィを抱っこして、背中を優しく撫でていた。
……あっ、逆か。
やりとりに飽きたルビィが、マーガレットに撫でてもらってるんだね。
「やれー! やっちまぇ‼」
「かまうこたぁねぇ! 綺麗な顔に一発お見舞いしてやれ!」
訓練場に集まった野次馬は、大いに盛り上がってるけど……。
「訂正しよう。お前程度では一万人集まっても、お師匠様に傷一つ与えることができないと」
「ふざけたことを——はっ‼ こっ、これは……」
話をしながらアラベスは、何気ない素振りで木剣を軽く振り下ろした。
二人の距離は離れていたのに頬傷の男が持っていた木剣が手元で切られ、カランッと乾いた音を立てて石畳に落ちる。
「敵の目の前で、魔法剣に時間をかけてどうする。そういう技は、一瞬で発動できるように準備しておくものだ」
……前にオニキスと力試しした時は、アラベスも時間をかけて魔法を唱えてた気がするけど、僕の勘違いかな?
あれから修行して、時間をかけずに使えるようになったの?