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閑話休題 女神の独り言

 私の名前はサーサハル。

 春の女神の眷族として、大陸の一部を見守っています。

 担当している地域は大陸の中央南部。二つの巨大な湖で有名な地方です。


 北にある海のように大きな湖が、大ニール湖。

 この周辺は緑が多くて魔族にも獣人にも普通の人間にも住みやすく、文化的にも商業的にも栄えています。ゲートがあるのもこの近く。


 大ニール湖ほどでは有りませんが、南の小ニール湖もかなり大きいです。

 かつてはこの辺りも緑の平原が広がる穏やかな地域だったそうですが、砂漠化が進むにつれて人口が減少し、すっかり寂れてしまいました。


 大きな火山もない、地震も起きない、台風も来ない場所。

 そういう意味では私の仕事も少ないのですが、砂漠化の問題にはずっと悩まされっぱなしです。

 南部が荒れるに従って、その影響が北部にもおよび、人々の心が乱れて争いが起きる……。大戦が終結して大陸全体で見れば平和になったのに、この地方ではずっと細かな争いが続いています。


 これというのも元はと言えば、遙か昔に亡くなって遺跡の一部と化していた龍の遺体を、とある魔王が戦争に使おうとしたのが原因です。

 その愚かな魔王はドラゴンゾンビとして復活した龍に、その場で食べられてしまったと、この地方を見守っていた先代の女神から伺いました。

 愚かな魔王が滅びたのは喜ぶべきことですが、その魔力でドラゴンゾンビが強力になったと聞くと、素直に喜んでは居られません。


 ……そもそも、人が亡くなったのを女神が喜んではいけないのかしら?

 春の女神の眷族となり、芸術の女神に任命されてずいぶん経つというのに、未だに人間だった頃の考え方が抜けてないようです。

 そういうところも必要だと、春の女神が以前におっしゃっていましたし、しっかり反省するので赦していただきましょう。


 つまり最大の問題は、小ニール湖に棲み着いたドラゴンゾンビです。

 腐った龍の瘴気が湖の水を毒に変え、植物を枯らし動物を殺し、南部の砂漠化を進めている。

 私としては、これは女神が対応するべき災害だと思うのですが、龍の遺体がドラゴンゾンビになったのは魔王の仕業。

 つまり人が起こした問題なので、人が自力でどうにかするべき。

 そう、前任者は考えたらしいのです。

 生温かい目で事態を見守っている間にドラゴンゾンビは力を蓄えて、簡単には倒せない存在になってしまいました。


 ……この状況を二千年近く放置していた前任者にも、責任があるのではないかしら? 今となっては彼女を問い詰めることも出来ませんが。

 春の女神にお願いして腐った龍を退治していただくか、大地が痩せ細り人が減り続ける状況をこのまま見守るか。

 私が悩んでいる間にも、人々は苦しんでいます。

 何か、私に出来ることはないのでしょうか?


 そんなことを考えていたら、同僚のレムリエル……。魔法の女神から連絡が入りました。

 女神の眷族は全員集まるように、春の女神から指示が出たそうです。

 集合場所はレムリエルが担当している地域の浮島。

 日付は次の週末で時間は後で連絡が入る、と。


 ……同僚が集まってお茶会を開いたりはしますが、春の女神から全員に集合がかかるのは珍しいですね。

 何か大変なことでも起きたのでしょうか?


         ☆


 浮島に集まった私たちは、春の女神から男の子を紹介されました。

 彼の名前は天城(あまぎ)創多(そうた)。……創多さんですね。

 当たり前のような顔をして、女神の隣に座っていた少年。

 白い二尾魔猫(ツインテイルキャット)は彼を飼い主と認めているようです。

 事前にレムリエルから話を聞いておいて良かった……。そうでなければあの部屋に入った時点で、女神らしからぬ声が漏れていたことでしょう。


 女神を目にしただけで、普通の人間なら身体が勝手に跪き、祈りを捧げずには居られません。

 これが女神の威光。

 造られた存在と、創造主との格差。

 私の経験から言って、この原則から逃れられる人間などいないと思っていたのですが……。四季の女神が二人に春の女神の眷族が九人も居る部屋で、あの少年は普通に話をしていました。


 反対側の席に座っていた伝説の英雄なら、まだわかります。

 戦争を終わらせるために地上に降りた春の女神と一緒に、彼女は一年近く過ごしたと聞いています。

 その間に、女神の威光に慣れたのでしょう。

 しかし、創多さんは……。

 どこからどう見ても普通の少年でしたが、普通の少年が普通の態度で女神の横に座っていられるはずがありません。

 そして春の女神の神託(オラクル)によると、私たち女神の眷族のうちの誰かを、彼と英雄が助けることになるそうです。


 とても信じられないような話ですが、神託は絶対です。

 ……創多さんが私の悩みを解消してくれるのでしょうか?

 自分の神殿に帰ってきてからも、何故か彼の笑顔が頭を離れません。

 私が挨拶した時、頬をほんのり赤く染めて、恥ずかしそうに視線を逸らしていた創多さん。

 大人の女性に慣れてないのでしょうか?

 個人的には好みのタイプです。


 秋の女神と張り合うつもりはありませんが……。情報を集めるぐらいなら問題ないでしょう。

 肩に乗せていた小鳥も気になりますし、女神の使徒とそっくりの二尾魔猫(ツインテイルキャット)についても詳しい話が聞きたいです。

 レムリエルは前にも彼と会ったことがあるようですし、お茶会を開いて話を聞いて……。そう言えば、ミナトリアが妙な雰囲気を出していましたね。

 創多さんは彼女が担当している地域に住んでいるそうですし、何か情報を持っているのかもしれません。

 お茶会のメンバーに入れておきましょう。


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