2 鏡と年齢
部屋に案内されたあとでマルコから、彼のお母さんを紹介された。
髪の長い、おっとりとした雰囲気の女性で、息子を助けてもらったのがよっぽど嬉しかったのか、涙ながらに感謝された。
実際に熊を倒したのはルビィとトパーズで、僕は何もしてないんだけど……。
というか、マルコの説明が派手すぎないか? 大丈夫?
助けられたシーンを、身振り手振りを交えて母親に説明してるけど、なんだかずいぶん大げさになってる気がする。
それはともかく、夕飯の料理はマルコのお母さんが作ってくれるらしい。
昨日の夜は、調味料なしで茹でただけの山菜だったっけ……。あれはあれで美味しかったけど、今日はもうちょっとマシな食事にありつけそうだ。
その日の夕飯は想像してた以上に美味しくて、量もたっぷりあった。
村長屋敷の一階にある、広いダイニングルーム。長方形の大きなテーブルには白いテーブルクロスが敷いてあり、中央には立派な燭台が置いてあった。
温かいシチュー。分厚いステーキ。美味しいパスタ。
ワインも美味しかったけど思ってたよりキツくて、一杯だけ飲んだあとは冷たい水にしてもらった。村長代行は水のように飲んでたけど。
具がたっぷりのピザにもびっくりした。
チーズにトマトにスライスしたソーセージ。
トッピングに使われている食材は、全てこの村で採れたものらしい。
マルコがドヤ顔で説明してくれた。
ちゃんとルビィにも、食べやすいように切った肉とミルクを出してくれた。
皿を舐めるようにして残さず食べたあとは、壁際に置いてあった椅子の上で、ルビィは丸くなって居眠りしていた。
☆
次の日の朝。僕を起こしてくれたのはマルコだった。
ふかふかのベッドが気持ち良すぎたのか、少し寝坊したようだ。窓の外ではもう、日が高く昇っている。
用意してあったぬるま湯で顔を洗う。目が覚めてから気が付いたけど、部屋の壁にはよく見える鏡がかかっていた。
あれ? 銀引きの鏡が普及したのは、いつ頃だっけ?
あっちの世界だと、中世には普通に使われてたかな……?
それはともかく、自分の顔をじっくり観察すると、なんだか本当に若返っているような気がしてきた。
元々、童顔だったからよくわからないけど……この顔は中学生ぐらい?
がんばれば高校生に見えないこともない? ちょっと無理があるか。
後ろで待っているマルコより、若いんじゃないだろうか……?
「マルコに聞きたいんだけど……。僕って何歳ぐらいに見える?」
「えっ? それは、その……。んー……」
「正直に言ってくれていいから」
「えーっと……。自分より、少し若いのかなって思ってました」
「ちなみに、マルコの年齢は?」
「ちょっと前に十五歳になったばかりです。ようやく、一人で森に入ってもよくなったんですよ」
「へー……。もう、一人前なんだね……」
マルコより若く見えるってことは、少なくとも三十四歳では無いな。
ここは開き直って、現実を受け入れよう。
どうして若返ってるのかは謎だけど。
「それで……。ソウタさんは何歳なんですか?」
「僕は……んー……そうだなぁ……。十六歳ってことで!」
ちょっとだけ見栄を張らせてもらおう。
実際の年齢は上なんだから、これぐらい許されるよね?
「そうだったんですね。その若さでもう、立派な野獣使いだなんて……。すごいなぁ……」
「ふにゃあぁぁ〜……」
僕の言葉を疑うことも無く、マルコは素直に驚いてくれたようだ。
ようやく目が覚めたのか、ルビィはベッドの上で大きなあくびをしていた。




