8 女神のリクエスト
マルーンの話が一段落したタイミングで、グリゴリエルさんが春の女神に声をかけた。
「ソウタ殿からお土産を頂いたのですが、お出ししても宜しいでしょうか?」
「あら、それは楽しみね。すぐに出してちょうだい」
「創多さんのお土産……? 何かしら。楽しみね〜」
「そんなに期待されても困るんですが……」
二人の女神の視線が僕に集まる。
思いっきり泣いてすっきりしたのか、マルーンは笑顔でお茶を飲んでいる。
入口のドアを開けてグリゴリエルさんが何か声をかけると、木箱を抱えたメイドさんが部屋に入ってきた。
手土産を持っていくことになって、急いで作ってもらった木箱だ。
いまさらどうしようもないんだけど、なんだか緊張するなぁ……。
メイドさんが木箱をローテーブルに置き、グリゴリエルさんがフタを外す。
箱が中途半端に大きいせいで、ソファに座ったままだと中がよく見えない。
……背の高いマルーンには普通に見えてるのかな?
「何をお土産にすれば良いのか悩んで、みんなで話し合って、これなら大丈夫だと言われたんですけど……。こんなもので良かったでしょうか?」
「私が住んでいる城をモデルにして、ソウタ君が作ってくれた模型です。どうぞ、お納めください」
二人の女神に説明しながら、箱から城の模型を出した。
向かいの席に座っているマルーンが説明を補ってくれる。
一番大きいところで長さが四十センチ、幅が十五センチぐらいかな?
城壁や城門はもちろんとして、建物を飾る彫像まで作り込んである。
……冬の城を忠実に再現したつもりだけど、こうして見ると巨大な空母みたいだな。
「僕が知ってる部屋は、内装まで再現してあります。こんな風に——」
そっと屋根を外して模型の中身を見せる。
ほとんどの部屋は中に何も入ってないが、僕が何回か泊まらせてもらった部屋だけは、ベッドルームやバスルームまで細かく作り込んであった。
「小さく変身したら本当に泊まれそうね」
「これってもしかして、全て女神の土で……?」
質問してきたのは、目を丸くしている春の女神だった。
こんなに驚いてもらえるなんて、細かく作り込んだ甲斐があったな。
「そうです。急に建物の模型を作りたくなったので、手元にあった粘土で作ってみました。……こういうことに使うのは良くなかったでしょうか?」
「いえいえ。何も問題ありませんよ。お姉様からプレゼントされた時点で、あれはあなたの物ですから。この作り込みには驚きましたが……」
「ねぇ、創多さん。これって、妹へのお土産なんですよね?」
「えっ? あっ、はい。そうですけど……」
秋の女神はにっこり微笑んでいるけど、笑顔の奥に妙な圧力を感じるのは気のせいかな?
「ここには仲の良い姉妹が居るのに、妹だけにプレゼントを渡すというのはバランスが悪くありませんか?」
「そう言われると……。そうかもしれませんね……」
元々、マルーンと春の女神を引き合わせるために来たんだし、秋の女神も来てるなんて知らなかったし、二人分のお土産は用意できなかったけど……。
一人だけにお土産を渡すのは、確かにバランスが悪いかもしれない。
「ちょっと、お姉様! 女神ともあろうものがおねだりするだなんて、恥ずかしいことですよ」
「おねだりなんてしてません。私は創多さんに、私にも何か作って欲しいと思っただけです」
「……同じことですよね?」
「あっ、あのっ! 僕で良かったら何でも作りますよ」
「まぁ! 本当ですか⁉」
綺麗なお姉さんの顔が、ぱぁっと花が咲くように明るくなった。
こんな表情を見られるのなら、無茶なリクエストでもがんばらなくっちゃ。
「ちょうど、次に何を作るか考えていたところだったんです。どうぞ、好きな物をリクエストして下さい」
「それでは、私をモデルにして石像を作ってもらえませんか? こちらの模型と同じように女神の土を使って、白い大理石で仕上げて下さい」
大理石の石像となると、古代ギリシャの彫刻みたいな雰囲気かな?
ギリシャの彫刻って元々は着色してあったそうだけど、白い大理石ってリクエストだし、僕のイメージで作って問題ないだろう。
美大で似たような課題があったし、それほど難しくなさそうだ。
「どれぐらいの大きさで作りますか?」
「では、机の上に置けるぐらいのサイズでお願いします」
「わかりました。これなら二日もあれば作れると思いますが、完成したらこちらの浮島に届ければ良いでしょうか?」
「完成した時点で連絡してもらえますか? どのように扱うかは、あとでお知らせしますので」
「了解しました」
なんだか、社会人時代にやってた仕事の打ち合わせみたいだな。
まずは仕様通りに作って、あとから細かく修正して……。
あれっ? 異世界に来ても、やってることはあまり変わってない?
明るい表情のお姉さんと対照的に、春の女神が渋い表情になってるのが気になるけど、言われたとおりに作る以外の選択肢は無いよね?