6 賢者様
「お久しぶりです、ソウタ殿」
「あっ、グリゴリエルさん。お久しぶりです」
見覚えのある白い壁の部屋に到着。
すーっと光が薄くなるのと同時に、美青年天使から声をかけられた。
これが制服なのかな?
グリゴリエルさんは今日も、白いタキシード姿だ。
「こちらの女性が春の女神との面会を希望している、マルーンさんです」
「はじめまして、マルーンです」
「はじめまして。私は魔法の女神にお仕えしている、グリゴリエルです」
英雄の姿に戻ったマルーンは身長が僕より一メートルぐらい高いけど、グリゴリエルさんはそれほど驚いていないようだ。
一緒に行くのが巨人族の姫だって、連絡しておいたのが正解だったか。
浮島の建物は天使族が使うのを前提としているのか、マルーンの頭が天井に当たりそうになってるけど……。大丈夫かな? ギリギリセーフ?
「それでですね。今日は手土産を持ってきたんですけど……。こういう物はどのタイミングで出せば良いんでしょう?」
僕とマルーンとオニキスが魔方陣を下りたタイミングで、気になってたことを質問してみた。
ディブロンク伯爵の城を訪れた時は挨拶とか手土産のやりとりをアラベスとマイヤーに任せてたから、こういう時にどうすれば良いのかさっぱりわからないんだよね。
……来る前に、もっと詳しく作法を聞いておくべきだったか?
「それは……。宜しければ、私の方で預からせていただけないでしょうか? 中身を確認した上で女神にお渡ししますので」
「わかりました、お願いします。オニキス、グリゴリエルさんに箱を渡して」
「お預かりしますね。……箱の中身について、教えていただいても?」
「ちょっと恥ずかしいんですが、僕が作った模型が入ってます。何を持っていけば良いのか、誰にもわからなかったので」
「それはそうでしょうねぇ。地上の方が浮島に来られるなんて滅多にないことですし、手土産を持ってこられたのは……。おそらく、ソウタ殿が初めてだと思いますよ」
苦笑いを浮かべながらグリゴリエルさんはドアを開けて、誰かを呼んでオニキスから預かった箱を渡していた。
受け取っていたのは天使のメイドさんかな?
地上から持ち込んだ物をチェックする人が居るのかも。
「少し前の話ですが、地上で流行っていた甘いお菓子が、女神のお茶会で話題になったことがあります。中にはお酒が好きな女神もいらっしゃいますし、手土産として普通に持っていくような物で大丈夫だと思いますよ。もちろん、ソウタ殿の模型も喜ばれると思いますが」
「そうなんですね……。ありがとうございます。覚えておきます」
「それでは、応接室に案内しますね。春の女神がお待ちですよ」
☆
「ソウタ殿とマルーン様をお連れしました」
グリゴリエルさんの案内で、いつもの応接室に案内された。
部屋の中央に置かれたソファセット。
三人掛けのソファには前に来た時と同じように、春の女神と秋の女神が並んで座っている。
前に来た時、魔法の女神が座っていた一人用のソファには誰も座ってない。
……魔法の女神は忙しいのかな? 姿が見えないようだ。
「賢者様!」
「お久しぶりですね、マルーン」
「賢者様……。賢者様……。やっと、賢者様と会えた……」
「あらあら……。伝説の英雄と呼ばれるようになっても、泣き虫なのは変わってないのかしら?」
マルーンは部屋に入ったところで、立ったまま涙を流していた。
立ち上がった春の女神がマルーンに近づき、どこからか出したハンカチで伝説の英雄の涙を拭う。
まるで、泣いている娘を母親があやしているようだ。
身長は一メートルぐらい、マルーンの方が高いけど。
「ずっと……。ずっと、会いたかったんです……。賢者様……」
「私も、また会えてうれしいわ。マルーン……」
途中からマルーンは床に膝をついて、女神の背中に腕を回し、胸元に顔をうずめるような姿勢で泣いていた。
前に、巨人の姿だと力加減が難しいって言ってたのが気になるけど、女神さまが相手なら大丈夫なんだろう。きっと。
「賢者様……。賢者様ぁ……」
「あなたにも、ずっと謝りたかったのよ。あの時は、詳しい事情も説明せずに去ってしまって……。本当にごめんなさい」
「私の方こそ失敗してばかりで、何をやってもうまくいかなくて——」
「そんなことはないわ。あなたは十分すぎるほど期待に応えてくれた。私の自慢の娘よ……」
「ありがとう、ございます……。賢者様……」
艶のある黒髪と明るい若草色の髪。
色はかなり違うけど、二人の髪型は良く似てて、よく見ると表情も似てる気がする。
これは、僕の気のせい……?
髪型なんて気分で変えられるし、ただの考えすぎかな。




