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5 天使からのメッセージ

 台風が通過して数日後。

 ちょこちょこ手を入れていた、冬の城の模型が完成した。

 礼拝室を作り、巨大な魔水晶が収められている部屋を増やした。

 途中から夢中になって、司令室の細かいところまで再現してみた。

 ユーニスからやりすぎだって言われたけど、マーガレットが喜んでくれたから良しとしよう。


 次は何を作ろうかと考えていたところで、左手の指輪が光っているのに気が付いた。

「お久しぶりです、ソウタ殿。天使のグリゴリエルです。連絡が遅くなって申し訳ありません。ソウタ殿のご友人を春の女神に取り次ぐ件ですが、明日の午後か明後日の午後のどちらかでどうでしょうか? 都合の良い時間帯をお知らせください。よろしくお願いします」

「ということなんですけど、マーガレットさんは明日と明後日のどっちが良いですか?」

 城の模型を見に来て、そのまま工作室で話をしていたマーガレットに都合を聞いてみた。

 ……感極まってる?

 マーガレットは今にも泣きそうな表情になっていた。

「そっ、そうね。それなら早い方が良いから……。明日の午後でお願い」

「明日の午後ですね。あっ、そうそう。念のために、マーガレットさんのことを伝えておこうと思うんですけど、どんな風に説明すれば良いでしょうか? 冒険者ギルドの先輩って言うべきか、それとも伝説の英雄って言うべきか」

「それなら……。私のことは、巨人族の姫って説明してもらえるかしら? 名前はマルーンで。お願い、ソウタ君」

「わかりました。伝えておきます」


 席を立って、部屋の隅に移動しながら考えをまとめる。

 うん、こんな感じで良いだろう。

「グリゴリエルさん、こんにちは。天城(あまぎ)創多(そうた)です。それでは明日の午後、そちらに伺わせていただきます。一緒に行く友人は巨人族の姫で、名前をマルーンと言います。よろしくお願いします」

 書き漏らしたことはない、かな……? これで大丈夫だろう。

 念のために聞き直してからメッセージを送ると、すぐに返事が届いた。

「了解しました。明日の午後、前回と同じ部屋でお待ちしています」


         ☆


 次の日の午後まで、準備が大変だった。

 僕はいつもの服装で行くつもりだったんだけど、マーガレットが正装で行くと聞いて衣装をあわせることになった。

 伯爵の屋敷を訪れる時に仕立てた訪問着なら問題ないかな? 大丈夫?

 エミリーさんにも意見を聞いて、念のために衣装を確認。

 いろいろあったような気がするけど、この服を仕立ててから二ヶ月ぐらいしか経ってないのか。


 服装に問題がないことを確認したタイミングで、エミリーさんが手土産を用意するべきだと言い出した。

 前回、僕が浮島に行った時も、本当は何か手土産を持っていくべきだと思っていたそうだ。けど、午前中に連絡が入って午後には浮島に行ったので、用意する時間がなかったと。

 言いたいことはわかるけど……。天使や女神さまへの手土産って、何を持っていけば良いんだろう?

 エミリーさんだけでなく、マーガレットにユーニスにアラベスにマイヤーまで集まって話し合い、通信水晶でパーカーさんにも意見を求めたけど、これというようなアイデアは出なかった。

 食べ物、飲み物、嗜好品、絵画や彫刻など……。普通に考えられるような手土産は、どれも微妙に違う気がする。


 結局、最後まで残ったアイデアは、僕が作った城の模型だった。

 ……ずっと工作室に置いておいてもホコリを被るだけだし、喜んでもらえるのならその方が良いのかなぁ。

 エミリーさんから指示が出て、模型を入れるための大きな箱を、下働きの人が急いで作ってくれた。

 自分で作った物を土産に持っていくって、恥ずかしいんだけど……。

 何か持っていかないとエミリーさんが納得してくれそうにないし、他に良いアイデアは浮かばなかったし、諦めるか。


         ☆


「コネクトスペース! どうぞ、マーガレットさん……じゃなかった。マルーンさん、乗ってください」

 赤く染まった頬。緊張感に満ちた表情。

 艶のある長い黒髪が、ずっと細かく揺れている。

 巨人族の姫の姿に戻ったマルーンは、冬の城の謁見室で僕と初めて会った時と同じドレスを身に着けていた。

 僕も上品な訪問着を着てるけど……。

 貴族の屋敷を訪れる服装で、背中にいつものリュックを背負って、ルビィを抱っこして、小鳥サイズのトパーズを肩に乗せてるって、おかしくないかな?

 服さえちゃんとしてれば良いんだろうか?


「ずっと前からこの日を待ってたけど……。いざとなると緊張するわね」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。僕は一度会っただけですけど、優しそうな人でしたし」

「そうね……。賢者様ならきっと……。ありがとう、ソウタ君。なんだか楽になった気がするわ」

「それじゃあ、オニキスも乗って……。荷物運びをさせちゃって悪いね」

「やー!」

 大きな木箱を抱えて、人間サイズのオニキスが魔方陣に上がる。

 浮島に行くのが僕とマルーンの二人だけという状況で、誰が手土産を持つのか議論になって、最終的にオニキスに運んでもらうことになった。

 マルーンにルビィを抱いてもらって、僕が木箱を持っていけば良いと思ったんだけど、それは、客の振るまいとして問題があるそうだ。

 ここは、みんなの意見に従っておくのが正解だろう。たぶん。


「それでは、行ってきます」

「マルーン様をよろしく頼むわね。ソウタ君」

「いってらっしゃいませ。お師匠様」

「無事のお帰りを、お待ちしております」

 見送りに来ているのは、ユーニスとアラベスとマイヤーの三人だけ。

 エミリーさんにお願いして、この時間は工作室に誰も近づかないようにしてもらった。

 伝説の英雄の姿を見られて、何か問題が起きたら困るからね。

「トランスポート!」

 僕も魔方陣に上がって、呪文を唱える。

 いつものように視界が白く染まり、僕とマルーンは浮島に出発した。


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