3 顔合わせ(後編)
「続けて、オニキスを紹介しますね。……オニキス!」
「やー!」
漆黒の勾玉を服の下から引っ張り出して、相棒の名前を呼ぶ。
僕のすぐ横に、人間サイズのオニキスが現れた。
上から下まで鉄でできた身体。銀色の眼。
手首に巻いた革紐。肩に掛けているマント。背中に付けたメイス。
……装備を自慢したいのかな?
敬礼しているオニキスは、どことなく誇らしげな表情に見える。
「いつもは勾玉の姿で身に着けてるんですけど、こんな風に人間と同じぐらいのサイズにもなれますし、もっと大きなサイズにも変身できます」
「やー!」
わざわざ口に出して言わなくても、オニキスは少し離れた位置に移動して巨人サイズに変身した。
僕が住んでる屋敷は三階建ての洋館だけど、部屋の広さや天井までの高さに余裕を持った作りで、全体としてかなり高い建物になっている。
巨人サイズのオニキスは、後ろの洋館と同じぐらいの身長だった。
……ロック鳥の姿のトパーズは、少しだけオニキスより背が低いのか。
えっ? その気になればもっと大きくなれる?
うんうん。わかったから。今はそのままでいいからね。トパーズ。
「おおぉぉ〜……」
「話には聞いていたが……これは……」
声が漏れたのは前から屋敷で働いてる人たちかな?
巨人サイズのオニキスを初めて見て、興奮しているようだ。
アラベスとマイヤーの不自然なほど落ち着いた表情と対照的で面白い。
ユーニスが研究者っぽい眼でオニキスを見てるのは予想の範囲内だな。
マーガレットは余裕の表情を崩していない。さすが伝説の英雄。これぐらいでは驚かないか。
新しく屋敷に来たメイドさんは……驚きを通り越して固まってる? 紹介を続けても大丈夫かな?
治るのを待ってたらいつになるかわからないし、ここは続行で。
黒い玉と白い玉と茶色い玉。
腰のポーチからウズラの卵ぐらいの大きさの玉を三つ取りだして、こっそり魔力を流し込む。
「ついでに、アジサイシリーズを紹介しておきますね。ブラック! ホワイト! ブラウン!」
「ヒヒーン!」
「ブルルルルッ」
「バフッ……」
手の平に玉をのせて名前を呼べば、黒い馬、白い馬、茶色い馬と、三頭の馬が姿を現した。
「アジサイシリーズ……? この馬もソウタ君が造ったゴーレムなの?」
質問してきたユーニスは、三頭の馬を見比べながら目を白黒させている。
見た目だけならゴーレムに見えないから、いろいろと不思議なのかな?
「オニキスみたいなゴーレムとはちょっと違うんですけど、僕が造ったゴーレムですよ。トパーズを降りた後で街まで歩くのが大変だったので、乗せてもらおうと思って造りました」
黒い馬はマイヤーのところに、白い馬はアラベスのところに歩いて行って、かまって欲しそうに頭を擦り付けている。
ちゃんと、自分が誰を乗せるのか理解しているようだ。
……ユーニスとマーガレットにも馬を用意した方が良いかな?
時間がある時にでも相談してみるか。
「それと、もう一体……。ダッシュ!」
「やー!」
ポーチから青色の玉を出し、魔力を籠めてから名前を呼ぶ。
僕の前に、オニキスとそっくりのアイアンゴーレムが現れた。
違うところと言えば、眼が深みのある青色をしているところぐらい。
他の皆はもちろん、さっきまで落ち着いていたアラベスやマイヤーも驚いているのが面白い。この二人にも、ダッシュの話はしてなかったっけ。
「これは……オニキスさんじゃないの?」
「たとえて言うなら、オニキスの妹みたいな位置づけですね。動ける時間に制限があるけど、やれることは同じです。ダッシュ、大きくなってもらえる? あっちの、場所が空いてるところでお願い」
「やー!」
ダッシュも巨人サイズに変身した。
屋敷は大きいし、裏庭もそれなりに広いと思ってたけど……。大きくなったトパーズとオニキスとダッシュが並ぶと、狭く感じるな。
「ねっ、ねぇ、ソウタ君。オニキスさんだけでも戦力としては十分だと思うんだけど……。何のためにダッシュさんを造ったの?」
「野良ゴーレム討伐の依頼を受けた時、相手がどれぐらい強いのかわからなかったので、念のために造っただけなんですよ」
「そ、そうなのね……。念のために、でオニキスさんと同じようなゴーレムをもう一体……」
ユーニスの顔が引きつってる?
そんなに心配しなくても、ユーニスならすぐに立ち直ってくれるだろう。
いざという時のために造ったままで、誰にも見せてなかったダッシュを紹介する良い機会だと思ったんだけど、驚かせすぎたかな?
僕の相棒と言えばリンドウもいるけど……。
屋敷で働いてる人には腕時計として認識されてるみたいだし、わざわざゴーレムとして紹介する必要はないかな?
とりあえず、今日はこれぐらいにしておこう。