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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十一章 ウィンターロック城
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10 ウィンターロック城(後編)

 金属製のドアがすっと横に開き、マーガレットに続いて部屋に入る。

 ……自動ドア? こっちの世界に来て初めて見た。

「状況は?」

「総員、配置につきました。起動チェックもまもなく終わります」

「そのまま続けて。……ソウタ君は私の右に。ユーニスとアラベスはパーカーの補佐をお願い」

「わかりました」

「「了解しました」」

 長方形の部屋は奥の方が三段ほど高くなっていて、初めて来た時に案内された謁見の間と雰囲気が良く似ていた。

 段の上に背の高い椅子が置いてあるのも同じだけど……。その横に、ちょこんと置いてある椅子が僕の席なの?

 左右の壁際には作り付けのテーブルがいくつもあり、若い執事さんやメイドさん達が席に着いてる。

 中央に立っているパーカーさんが、細かく指示を出しているようだ。


「どうぞ、ソウタ君も座って」

「あっ、はい」

 声をかけられて慌てて段に上がり、マーガレットの隣に座る。

 もうマーガレットじゃなくて、マルーンって呼ぶべきか。

 いつの間にか彼女は、伝説の英雄の姿に戻っていた。

 ……マイヤーは僕の後ろに立つんだね。

 みんな当たり前のような顔をしてるけど、僕がここに座ってて本当に良いんだろうか?


「通信室、チェック終わりました」

「魔力回路、問題ありません」

「城門の封鎖、完了しました」

 報告が一段落して、部屋が静まりかえる。

 ゆっくり振り返ったパーカーが、マルーンに声をかけた

「お嬢様」

「……これより、起動試験を行います。パーカー!」

「はっ! 魔力回路接続」

「魔力回路接続!」

「防御障壁展開」

「防御障壁展開! 四層……八層……十二層……。全二十層の障壁を展開。完了しました」

「全ての浮遊石に魔力を注入」

「魔力注入、開始します」

 パーカーさんが指示を出し、席に着いている人が声を返す。

 それぞれの席に大きさがバラバラな魔水晶が置いてあるのは、状況を確認したり他の部屋に命令を伝えるのに使われてるのかな?


「外部映像回路、接続確認」

「主砲塔、副砲塔、装填完了」

「全浮遊石、魔力充填百パーセント」

「お嬢様。準備が整いました」

「……ウィンターロック城、始動‼」

「ウィンターロック城、始動!」

 城全体がぶるりと震え、正面の壁と左右の壁に外の景色が映し出される。

 厳密に言うと、壁の少し手前に映像が浮いてるのか。

 これも魔術具の力なの? 便利そうだなぁ

「全回路正常……。問題ありません」

「続けて、浮上テストに移ります。上空、百五十メートルまで浮上」

「百五十メートルまで浮上!」

「えっ? ……うわっ! 浮いてる‼」


 壁に映し出された映像が、徐々に徐々に下がっていく。

 椅子に座っているのに、地面に足が付いてない感覚。

 福岡への出張で乗った飛行機とは違う。

 ゆっくり上昇しているのを感じる。

「ソウタ君……。この城はね、今から六千年ほど前に、他の大陸から攻めてきた魔獣に対抗するために造られた城なのよ」

「六千年前……。そんな昔に、こんなにすごい城が……」

 いろいろやっている間に時間が経っていたのだろう。

 遠くに見える空が、綺麗な茜色に染まっている。


「魔族帝国が大陸を統一するより前の時代。今よりずっと多くの魔力が大地を満たし、魔族も魔獣も大きな力を振るっていた時代。そんな時代に造られた城を見つけたのは私だけど、完全に復活させることはできなかったの。だから……これは、あなたのおかげよ」

 正面のスクリーンが切り替わり、地上から城を見上げる映像になった。

 まるで、巨大な空母に洋風の城を乗せて空を飛んでるみたいだ。

 ……この映像は誰が撮影してるんだろう?

「僕は魔力を充填しただけですから。本当にすごいのは、城を造った人とか実際に動かしてる人とか……。復活させるって決めた、マルーンさんですよ」

「もう、ソウタ君ったら……。あなたは最高よ……」

 ……屋敷に帰ったら、城の模型に手を入れなくっちゃ。

 そんなことを考えていた僕は、マルーンの言葉を聞き逃した。


         ☆


 冬の城が四百年ぶりに空を飛んだ日の夜。

 マルーンは自分の部屋で、パーカーから報告を受けていた。


「着陸後のチェックも全て終わりました。テストできなかった攻撃系の装備も含めて、大きな問題は見つかっていません」

「魔力の収集回路は?」

「正常に動作しています。……大気中の魔力濃度が不足しているため、待機状態を維持するので精一杯ですが」

「こればっかりは仕方ないわね。いつでも城を動かせる状態になっただけでも上出来でしょう。ソウタ君に感謝しないと」

「そうですね。……しかし、巨大魔水晶を満たすほどの魔力を、ソウタ殿はどうやって手に入れたのでしょう? お嬢様は確認されたのですよね?」

「自分の目で見ても、とても信じられなかったわよ……。せっかくだから、あなたにも見てもらいましょうか」


 マルーンが指をパチンっと鳴らすと横の壁に、昼間、礼拝室の地下で見た光景が浮かび上がった。

 台座に置かれた巨大な魔水晶。

 リュックを背負ったソウタの後ろ姿。

「お嬢様。部屋の奥に置いてある武器に見覚えがあるのですが」

「……関係ない話はあとにしなさい」


 背中からリュックを降ろしたソウタが、中から水色の水晶玉を出した。

「あれは、私がソウタ殿にプレゼントした魔水晶ですね。……えっ⁉」

 魔水晶が一瞬で白い粘土に変わり、ぐんぐん大きくなっていく。

『ソウタ君っ‼』

 叫び声が聞こえた瞬間、ソウタの肩と脇腹に腕が生えた。


「あれは、ソウタ君が女神の土から作った魔水晶。彼はどんな物でも土から作れるし、作った物を土に戻すこともできるのね」

「ソウタ殿に生えた腕は……?」

「お供のゴーレムが魔法で出してくれたそうよ。腕が多いのは便利でかっこいいんですって」

「それは良かったですね、お嬢様。しかし、ソウタ殿がやっていることは……」

 巨大な粘土の玉をゆっくり回しながら、手で撫でているソウタ。

 本物の手が触れた場所の素材が変化して、みるみるうちに白い魔水晶へと変わっていく。

「どんな物でも自由に作れるのだから、最初から魔力が満ちた魔水晶を作ることもできる……。ソウタ君がその気になれば、この城と同じ物を作ることだってできるのでしょう」

「……それはもう、神の力なのでは?」


 映像の中でソウタは巨大な二つの魔水晶に手を当てて、魔力を移す作業を始めていた。

 台座に置かれた魔水晶の中で、雪のように降り積もる白い魔力。

『綺麗ね……』

「……このあとが最高なのよ」


 ——ドバッ! ドバドバドバ……


『うわっ、やり過ぎた!』

 降っていた魔力が急に大きくなり、落ちて潰れる音が聞こえてくる。

 一瞬魔力が途切れたかと思うと、今度はどばどばと水のように流れてきた。

「……粘土の扱いは並ぶ者が居ないレベルですが、魔力の扱いには慣れていないようですね」

「こういう所も可愛いのよねぇ……。ソウタ君は」


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