9 ウィンターロック城(前編)
僕が作った魔水晶は下の方に白い部分が少し残ってるだけで、ほとんど透明になっていた。
……充填しすぎた? 大丈夫かな?
さっき聞こえた声は怒ってる感じじゃなかったし、問題ないと信じよう。
自分で作った魔水晶をさっと撫でて、白い粘土に戻す。
サイズを小さくして……ついでに、水色の魔水晶にしておくか。
「ありがとう、ソウタ君。これで、城の守りも万全になったわ。……粘土を触ってるところを初めて見せてもらったけど、本当にすごいのね」
作業が終わったのがわかったのだろう。
横に来たマーガレットから声をかけられた。
こういうのを、賞賛の表情って言うのかな?
憧れの先輩とようやく二人っきりになれた、少女のような表情で……。そんなにキラキラした瞳で見つめられると、ちょっと恥ずかしいです。
「すごいのは僕じゃなくて、女神さまにもらった粘土ですよ」
「にゃああぁぁ〜〜」
……どうしてルビィがドヤ顔になってるのかな?
「大きな魔水晶を作ったのもすごかったけど……。その腕はどうしたの? ソウタ君は普通の人間よね?」
「これは、リンドウが魔法で出してくれたんです。この前もらった本に翼を出す魔法が載ってたので、その応用で」
自分の腕と同じぐらい自然に使ってたから忘れてた。
いきなり腕が六本になったら、それはびっくりするよね。
「ソウタ君は、腕が多いのは気にならないの? 気持ち悪かったりしない?」
「ん〜……。特に気になることはないですね。腕が多いと便利ですし、僕が居た世界には阿修羅像っていう、腕が六本あるかっこいい像もありましたし」
最初に思いついたのはプロレス漫画で有名な超人の方だったけど、これは説明が難しすぎるだろう。
マーガレットと話をしながら足元のリュックに魔水晶を戻し、そのまま背中に背負う。
肩から生えた腕が邪魔になったけど、すぐにリンドウが消してくれた。
「よかった……。それじゃあ、礼拝室に戻りましょう!」
「えっ? あっ、あのっ、マーガレットさん?」
自由になった僕の右腕に、マーガレットの左腕が絡んできた。
……片手でルビィを抱っこしてるの? 腕を組んだ状態で階段を上るのって危なくない?
すごく機嫌が良くなったように感じるのは気のせいかな?
「ねぇ、ソウタ君。せっかくだから、魔術具のテストにも付き合ってもらえないかしら? ずっと動かしてなかった装備には確認作業が必要でしょう?」
「それは良いですけど、その前に腕を——」
マーガレットの身長は僕と同じぐらい。
腕を組むと、お互いの顔がすごく近くなる。
普通に話をしてるだけで、甘い吐息が顔にかかって——
「クスッ……。ユーニスやパーカーに邪魔されないのはここだけだから。これぐらいサービスさせて。ねっ?」
☆
あと少しで礼拝室に着くというところで、マーガレットは名残惜しそうに腕を解いた。
「ここからは城の主として、私が仕事をする番よ。だから、ソウタ君はしっかり見ててね」
「あっ、はい。わかりました」
さっきまでの甘い雰囲気はどこかに消え、見たことがないほど真剣な表情になっているマーガレット。
……魔術具のテストって、そんなに危ないこと?
僕の胸にルビィを抱っこさせて、マーガレットは階段を上っていった。
「ソウタ君のおかげで、城の魔水晶に魔力が満たされました。続けて魔術具のテストを行います。パーカー! 担当者を司令室に集めて、他の者にも起動に備えるよう通達を」
「はっ!」
「マーガレット様。私は……」
「あなたはもう、ソウタ君の専属です。城のことは私たちにまかせて、ソウタ君の側に控えていなさい」
「かしこまりました」
「ユーニスとアラベスは、ソウタ君と一緒に私についてきて」
「はいっ!」
礼拝室に戻ったマーガレットが、矢継ぎ早に指示を出す。
待っていた全員に緊張が走り、パーカーが急ぎ足で部屋を出て行く。
……まさかと思うけど、これって、僕にかっこいいところを見せようとしてやってるんじゃないよね? さすがにそれはないか。ナイナイ。