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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第十一章 ウィンターロック城
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8 巨大魔水晶

 マーガレットに続いて、薄暗い階段を下りていく。

 どれぐらい下りるのか心配してたけど、それほど時間もかからずに石の扉が見えてきた。地下二階とか三階とか、それぐらいかな?

 シンプルなデザインだけど重々しい雰囲気の扉。


「どうぞ、入って」

「失礼します……」

 地下の部屋だけど、空気がよどんでるような感じはない。

 広さは、元の世界で僕が借りてた部屋のダイニングキッチンぐらいか。

 部屋の中央に美術館で使われているような台座が置いてあり、台座の上に大きな水晶玉が載っている。

 上の方はほとんど透明で、下側の三分の一程だけ白い水晶玉。

 奥の壁際に並べられた、武器とか鎧とか木箱も気になるけど——

「あの荷物は気にしないで。ここは私が許可した人しか入れないから、物置代わりに使ってるだけなの」

「……わかりました」

 誰かに見られたら困る荷物なのかな?

 何故か、パーカーさんの怒ってる顔が脳裏に浮かんだ。


「ソウタ君に魔力を充填して欲しいのが、この魔水晶なの。本当なら上から下まで白いはずなんだけど、今は魔力不足でこんな姿に……」

「にゃあにゃあ〜」

 奥の景色が上下反転して見えるのが気になったのかな?

 僕たちが台座に近づくと、抱っこされたままになっているルビィが魔水晶に向けて手を伸ばした。

 ……単純に、丸い物が好きなだけかも?


「魔力を充填できるのか、試してみますね。……その前に、ルビィを預かってもらえますか?」

「えぇ、まかせて。ルビィちゃん、いらっしゃ〜い」

「ふにゃああぁぁ〜……」

 マーガレットにルビィを預け、台座に置かれた魔水晶に向き合う。

 魔水晶を近くで見ると、下の方の白い部分がまるで雪のようだ。

 ……これで中にサンタやツリーのミニチュアが入ってたら、クリスマスに飾るスノードームだな。

 そんなことを考えながら、魔水晶にそっと手を乗せた。



 ……なんとかなりそうかな? リンドウ。

『魔力の充填は可能です。ですが、この魔水晶を完全に満たすためには、私の魔力に換算して四百五十倍ほどの魔力が必要になります』

 ……四百五十倍?

 リンドウそっくりのゴーレムを造って、魔力を融通してもらって、魔水晶に充填して……。その作業を四百五十回繰り返す必要があるのか。

 やってやれないことは無いと思うけど、ちょっと厳しいなぁ。

『同じサイズの魔水晶を作成して、そこから魔力を充填するのが良いのではないでしょうか?』

 ……なるほど。

 魔水晶を作る時は魔力を使わないし、そっちの方が効率よさそうだね。

 ここにある魔水晶とそっくり同じ物を作って、入れ替えた方が早いかな?

 いや、そうすると、今ある魔水晶が余ってもったいないか。

『最初の方針通り、魔力だけ充填する方が良いと思われます』

 ……そうだね。それじゃあ、作業を始めようか。

 その前に、マーガレットに説明を——

「これと同じサイズの魔水晶を作って、そこから魔力を充填しますね」

「えっ……? ああっ、うん。わかったわ。どうぞ、ソウタ君のやりやすいようにして」

 マーガレットに方針を伝え、背中からリュックを降ろして中を覗き込む。

 邪魔にならないように、マーガレットはゆっくり後ろに下がった。


 リュックから粘土を取り出すつもりだったけど、その前に、実験で使った水色の魔水晶が目に入った。

 ……魔水晶には変わりないし、これを流用すれば良いか。


 水色の魔水晶をさっと撫でて、白い粘土に戻す。

 台座に載っている魔水晶と同じぐらいの大きさにして——

「うわっ! これは……。重すぎ……」

 深く考えずに粘土を大きくしたら、片手で持てないほど重くなってしまった。

 ……バランスボールサイズの粘土なんて、僕の腕だと両手でも無理か。

「ソウタ君っ‼」

 粘土を床に落としそうになった瞬間、脇腹と肩に新しい腕が生えて、さっと粘土を支えてくれた。

 ……これって、リンドウがやってくれたの?

『マスターがお困りのようでしたので、腕を増やす魔法を使いました。どうぞ作業をお続けください』

 ……ありがとう、助かったよ。

 新しく生えた腕は、元の腕より力があるようだ。

 重い粘土の玉を楽々抱えている。

 どんな腕にするか選べるのかな? 暇な時にでも実験してみよう。


「……大丈夫そうです。作業を続けますね」

「う、うん……。私に手伝えることがあったら、何でも言ってね」

「にゃあっ」

 マーガレットとルビィに一声かけて、作業を再開。

 こんなに大きな粘土を触るのは初めてだけど、やることは同じだ。

 粘土をゆっくり回しながら形を整えて、材質を変化させる。

 それほど時間もかからずに巨大な魔水晶が完成した。

 大きさも形も、台に載っている物とそっくり同じ。

 違うのは、上から下まで白く染まっているところぐらい。

 あとは、僕の作った魔水晶から魔力を引き出して、前からあった魔水晶に魔力を充填するだけだな。

 ……これって、両方の魔水晶に僕が触ってないと駄目だよね?

『はい。その通りです』

 そこまで見越して、腕を増やしてくれたのかな?

 腕が二本しかなかったら、台座まで作る羽目になってたと思う。


 それぞれの魔水晶に本物の手を乗せて、魔力を注入する作業と引き出す作業を同時に行う。

 午前中の実験でどっちの作業も試したけど、同時に行うのは初めてだ。

「雪が降ってるみたいだな……」

 大きい魔水晶に魔力を注入するとこうなるのかな?

 それとも、最初にスノードームを想像したのが原因なのか。

 台座に置かれた水晶の透明になっている部分に、雪のような魔力がしとしとと降り、音もなく積もっていく。

「綺麗ね……」

 斜め後ろで見ているマーガレットも、同じような感想を抱いたようだ。


 ……すごく綺麗で幻想的だけど、このペースだと満タンになるまでどれぐらい時間がかかるのか——

『現在の速度を維持した場合、充填が終わるまでに1633分かかります。時間にして、270時間ほど』

 ……それはさすがに待ちきれないなぁ。これって、もっとペースを上げるのは可能なの?

『どうぞ、お好きなだけペースを上げてください。危険な時は、私の方で制御致します』

 ……さすがリンドウ、頼りになるなぁ。

 それじゃあ、ここは思い切って一気に——


 ——ドバッ! ドバドバドバ……


「うわっ、やり過ぎた!」

 雪のように降っていた魔力が、急に大福ぐらいのサイズになった。

 いくつもの大福が重なって、下になったのが潰されて……。

 こっちの方が効率は良いのかもしれないが、見た目が良くない。

 ……リンドウ、なんとかならない?

『お任せください。……これでどうでしょう?』

 魔力の流れが途切れたかと思うと、今度は僕が手を触れている部分から、白い液体が出始めた。

 大福の山にミルクをかけて……。ちょっと変わったパフェかな?

 これはこれでどうかと思うけど、もうすぐいっぱいになりそうだし、見た目の問題は諦めよう。



 僕の作った魔水晶からみるみるうちに色が抜け、台座に載っている魔水晶に魔力が満ちていく。

『充填完了しました』

 リンドウから報告を受けた瞬間、頭の中に可愛い声が響いた。


 ——アリガトウ……


 ……今の声は、リンドウじゃないよね?

『私ではありません。おそらく、この城の魔水晶かと』

「そっか……。これからも、マーガレットのことをよろしくね。あっ、いや、マルーンって言った方が良いのかな?」

 上から下まで白く染まった魔水晶。

 すべすべの表面を撫でながら話しかけると、返事をするかのように魔水晶が白く光った。

 ……僕は粘土から作ったけど、本物の魔水晶はどうやって作るんだろう?

 前に廃鉱山で会ったおじいちゃんなら知ってるかな? 確か、魔術具も作ってるって言ってたはず。

 今度、会うことがあったら聞いてみよう。


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