6 再び冬の城へ
今日も美味しい昼ご飯。
僕とアラベスの二人だけだったダイニングテーブルにユーニスとマーガレットが加わって、賑やかな食事になった。
マイヤーが僕の世話をしてくれて、前から屋敷で働いているメイドがアラベスの世話をして、冬の城から来た二人のメイドがユーニスとマーガレットの世話をしていた。
屋敷に来たばかりのメイド達も、問題なく働けているようだ。
さすがエミリーさんだね。
食後のお茶を飲みながら、まったりした時間を過ごす。
何故かアラベスは午前中に実験した内容を、ユーニスとマーガレットに自慢していた。
「その流れで、魔水晶の魔力でゴーレムを造る実験にも成功しました。お師匠様は本当にすごいんですよ!」
微妙に大げさな素振りが、豪華な装飾の部屋に合ってるね。
それは良いんだけど……。ユーニスとマーガレットが引いてない?
途中まで笑顔だったのに、今は固まってるように見えるのは僕だけ?
「アラベスの言葉を疑う訳じゃないけど……。今の話は本当なの? ソウタ君」
「あっ、はい。ちょっと大げさなところもあるけど、だいたいあってます」
「つまり、魔力を無限に使えるってことよね……?」
「もっと詳しく調べたら、限界があるかもしれないけど……。今のところはそんな感じですね。でも、今までも魔力で困ることはなかったし、もっと多く使えるようになったってだけで、そんなに変わらないですよ」
「そう……。本当の話なのね……」
口元に手を当てて、何かを考え込んでいる様子のユーニス。
表情は良く似てるけど、マーガレットは胸の前で腕を組んでいる。
……二人とも、こういう表情もよく似合うなぁ。
実在する人物のフィギュアは何年も作ってないけど、二人が許可してくれるのなら作ってみたいかも。
いや、でも、フィギュアのモデルにされるなんて、普通はイヤかな?
こっそり作ってあとでばれるのも怖いし……。よく考えよう。
しばらく悩んでいた二人が急に視線を合わせ、小さく頷いた。
「……マーガレット様。あの話をソウタ君に相談すれば、問題が解決するのではないでしょうか?」
「駄目よユーニス。彼にはもう、春の女神の話でお世話になってるし、帰還魔法を教えてもらったし……。これ以上、迷惑をかける訳にはいかないわ!」
「でも、このままだと、何かが起きた時に……」
「その時は……。その時は、たとえ命を燃やしてでも、私が……」
なんだか急に、二人の口調がアラベスっぽくなった?
微妙に演技っぽい? こっちをチラチラ見てるよね?
僕が声をかけるのを待ってるような間があるんだけど——
「えーっと……。良かったら、話を聞かせてもらえますか?」
ユーニスとマーガレットが説明してくれたのは、僕も午前中に行った冬の城に関する話だった。
一見すると普通の城だが、その実態は六千年ほど前に造られた特別な城で、攻撃と防御の両面で、様々な魔術具が見えない場所に仕込まれていること。
全ての魔術具を統括する巨大な魔水晶が城の地下に存在するが、十年ほど前に大量の魔力を使用してからずっと、魔力不足の状態にあること。
魔力不足さえ解消されれば、暴走した精霊への備えも万全になること。
……夏でも雪が積もってる時点で普通の城じゃ無いとわかってたけど、想像していた以上にすごい城だったみたいだ。
僕が作った模型の城にも、いろいろ仕込んでみようかな?
「だからね。城の地下にある魔水晶に、魔力を充填してもらえると助かるんだけど、お願いしても良いかしら?」
「あっ、はい。良いですよ。うまくできるかどうかわからないですけど、やるだけやってみましょう」
「ちょっと、ユーニス。簡単に話を進めてるけど……本当に良いの? これ以上お世話になったらソウタ君にどうやって恩返しすれば良いか、私はもう、何も思いつかないわよ?」
「マーガレット様。恩を返す方法は、あとでゆっくり考えれば良いのですよ。ソウタ君が何かに困る日が来るかもしれませんし、その時、私やマーガレット様や冒険者ギルドが、彼の力になれるかもしれないのですから」
暴走するマーガレットをユーニスやアラベスが止めようとする姿は何度も見たけど、今日はなんだかユーニスの方が積極的?
それだけ、魔力不足を心配してたのかな?
「この屋敷を用意してもらっただけで十分ですから、恩返しなんて気にしないで下さい。そんなことより、僕も巨大な魔水晶に興味があるので……。とりあえず移動しませんか?」
「移動って、私の城に……? これから⁉」
「本当に思い切りが良いのね、ソウタ君は」
驚いているマーガレットの横で、ユーニスはなんだか呆れてる?
アラベスは余裕の表情でお茶を飲んでるけど……。
そんなに変なことを言ったかな?
暴走した精霊が今でも居るのなら、早めに備えて置いた方が良いと思っただけなんだけど。




