3 竜の翼
リンドウと一緒に腕を増やす魔法を実験。
出す場所を工夫したり腕を六本にしてみたりして最終的に、本物の腕の上に魔法の腕を一組増やす形で落ち着いた。
ずっと増やしたままだと邪魔そうだけど、細かい作業をする時は便利だな。
調子に乗って城の模型を作り込んでいたら、いつの間にか、夕飯の時間を過ぎていたようだ。
再びマイヤーが呼びに来て、この日の作業は終了。
てっきり怒られるかと思ったら……。腕が増えた姿を見てびっくりして、それどころじゃなかったようだ。助かった。
次の日も、朝から工作室にこもって作業の続き。
昼食の時間までに、無事、城の模型が完成した。
アラベスとマイヤーに見てもらったけど、びっくりするぐらい良くできているそうだ。
とりあえず、工作室の棚に飾っておいて、ユーニスやマーガレットが来たら自慢しよう。
☆
昨日は一度も屋敷から出なかったし、今日は午後から散歩に行こうと思ってたんだけど……。リュックを取りに工作室に戻ったところで、ふと気が付いた。
「リンドウ。いまさらだけど……翼を出す魔法って、本当は空を飛ぶ時に使う魔法なんだよね?」
『その通りです、マスター』
「つまり、僕でも空が飛べるってこと?」
『はい。その通りです』
昨日は途中からマイヤーの話になって、そのまま忘れてたけど……。自分の翼で空を飛ぶのって楽しそう。
『昨日は基本となる魔法を試していただきましたが、そこから発展させた魔法も既に用意してあります。マスターさえ宜しければ、こちらもテストしていただきたいのですが……』
言葉の端々から、わくわくしてる感じが伝わってくる。
リンドウは新しい魔法を試すのが好きなんだね。
「それじゃあ、散歩のついでに外で実験してみようか」
『ありがとうございます!』
部屋まで迎えに来てくれたマイヤーと一緒に屋敷を出る。
「散歩の前に試してみたい魔法があるから、ちょっと見ててもらえる?」
「了解しました」
空を飛ぶのがうまくいかなくても、マイヤーなら助けてくれるだろう。
抱っこしてたルビィを地面に降ろして、僕は呪文を唱えた。
「今日は発展系で……。ドラゴンウイング!」
「ソウタ様。この魔法は……?」
「この前、冬の城に行った時に魔法がいっぱい載ってる本をもらってね。そのうちの一つをリンドウが使えるようにしてくれたんだよ」
話をしながら首を回して、背中に生えた翼を確認する。
コウモリの翼を大きくして、ゴツくした感じ?
カッコいいのは間違いないけど、僕にはあってないかも……。
「同じ魔法をマーガレット様が使っているのを見たことがあります。離れた場所に急いで行くのに便利だそうですが……」
「確かに、これならかなりのスピードが出そうだね。うわっ、飛んだ!」
「ソウタ様っ‼」
軽く羽ばたいただけで、五メートルほど舞い上がってしまった。
どうやら、腕を増やした時とはかなり感覚が違うようだ。
腕は元々持ってる物だから、使いやすかったのかな?
この翼は、しっかり慣れないと危ないかも……。
「ご無事ですか? どこか、ぶつけたりした所は……」
翼を出したマイヤーが、僕を追いかけて飛び上がってくる。
マイヤーの慌てた表情は新鮮だなぁ。
「大丈夫、ちょっとびっくりしただけだよ。このまま飛ぶ練習をするから、しばらく付き合ってもらえる?」
「了解しました。……ソウタ様には関係ない話かもしれませんが、空を飛んでいる間に魔力が尽きるとそのまま落下してしまいます。魔力の残量に気を付けておいてください」
「ありがとう、気を付けるよ」
『問題ありません。現在の私の魔力であれば、優に一ヶ月は飛び続けることが可能です』
心の声でリンドウが突っ込みを入れてくる。魔力に関しては、かなり自信があるみたいだ。
……魔力がたっぷりあるのはわかったから、リンドウは僕が慣れるまでサポートしてもらえるかな? いきなり変な方向に飛びそうで怖いから。
『お任せください!』
☆
屋敷の建物や森の木にぶつからないように高いところに移動して、翼の扱い方を実験してみる。
どうやら、自分で翼を動かす必要はなくて、進みたい方向を思い浮かべれば身体が勝手に動いてくれるようだ。
上昇、下降、前進、後退……。どれも、ゆっくり動く分には問題ないな。
「ピーゥピーゥ!」
「トパーズ、来てくれたんだね。それじゃあ、練習に付き合ってもらえる?」
「ピーゥ‼ ピーゥピーゥ!」
一人でふわふわ飛んでいたところに、大鷲姿のトパーズが飛んできた。
僕の周りをぐるりと回った大鷲は、そのまま海の方へと飛んでいく。
同じように速度を上げて、僕もトパーズの横に並んだ。
大きく翼を広げ、優雅に空を飛ぶトパーズ。
カッコいいなぁ……。背中に乗せてもらうのはいつものことだけど、飛んでいるところを横から見ると、印象が変わって面白い。
「ピーゥピーゥ!」
「僕もカッコいいって? いやいや、トパーズには負けるよ」
「ピーゥ……」
……何か変なことを言ったかな? 急にトパーズが速度を上げた。
その気になれば僕の方も、もっとスピードを出せそうだけど……。目を開けたままにするのが苦しい。顔に当たる風が痛くなってきた。
これぐらい、トパーズは慣れてるのかな?
猛禽類にはまぶたと別に、目を保護する膜が付いてるんだっけ?
「リンドウ、なんとかならないかな?」
『今、風を弱めるシールドを張ります……。これでどうでしょうか?』
「おお……楽になった……。助かったよ、リンドウ」
『申し訳ありませんでした。今後、必要と思われる時は、私の方で各種保護魔法を使用するように致します』
「うん。頼んだよ」
リンドウに一声かけて、前を飛んでいるトパーズを追いかける。
わざわざ後ろを見なくても様子がわかるのかな?
僕を突き放すように、トパーズはさらに速度を上げた。
ちょっと怖いけど、ここは限界を試してみようかな……。
大鷲の尾羽を睨みながら、もっとスピードが出ている姿を想像する。
背中に生えた翼が大きく羽ばたき、身体が一気に加速する。
「ピーゥ‼」
「ああっ! それはずるいよ〜」
もう少しで追いつこうかというところでトパーズは大きく鳴いて、ロック鳥の姿に変身した。
後ろからだと顔は見えないけど、なんとなく、トパーズもこの状況を楽しんでくれてるような気がする。
チラリと後ろを確認すると、陸が見えなくなっていた。
……どれぐらい速度が出てたんだろう?
『一番速い時で、時速341キロを記録しました』
計っててくれたんだね。ありがとう、リンドウ。
……生身の身体で新幹線超えかぁ。魔法ってすごいな。
「翼の扱いにも慣れた気がするし、そろそろ帰ろうか……。トパーズ! 帰りは乗せてもらえるかな?」
「ピーゥ! ピーゥピーゥ‼」
うまく速度を合わせてトパーズの背中に乗って、あとは屋敷までお任せ。
自分の翼で空を飛ぶのも悪くないけど、やっぱりトパーズに乗せてもらう方が良いな。落ち着くし、景色も楽しめるし。
「ピーゥ……。ピーゥピーゥ……」
トパーズも喜んでくれるみたいだし。
屋敷に戻った僕とトパーズを、マイヤーが出迎えてくれた。
急に速度を上げたからびっくりした?
追いかけたけど、とても追いつけなかった?
ひとこと言っておくべきだったか……。ごめんなさい。
ルビィは……ずっとそこで、お昼寝してたんだね。
それだけ信頼されてるのかな?
……眠かっただけなの? ルビィらしいなぁ。