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伝説の英雄に召喚されたゴーレムマスターの伝説  作者: 三月 北斗
第一章 初めての異世界・初めての出会い
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閑話休題 女神の独り言

 あまりにも退屈だった毎日。

 楽しみと言えば、遠くから世界を眺めるだけ。

 本当は仕事があるんだけど、そっちは妹たちにお任せ。

 そんな私の元に、突然男の子が訪れました。

 私にぶつかって地面に落ちても、そのまま寝続ける大胆さ。

 誰にも懐かなかった白猫に、あっさり気に入られる人の良さ。

 どこの誰かもわからない人と話をするだなんて、お母様に見つかったらすっごく怒られそうだけど……。ここには私しか居ないし、見つからなければ大丈夫でしょう。

 目を覚ます前から予想していたとおり、その男の子は、見た目も声も態度も言葉遣いも、私の好みにぴったりでした。


 えっ? 異性と話すのが久しぶりで、舞い上がってただけだろうって?

 ちょっと、シロ。あなたは少し黙ってて。

 あなただってあの子が気に入ったから、名前を受け入れたんでしょう?


 仲良くジュースを飲みながら、男の子と話をしました。

 元々の世界では大人として扱われる年齢だったみたいだけど、私から見たら男の子で良いでしょう。そうしましょう。

 話の流れで粘土細工の腕前を見せてもらいましたが、お母様にも負けないぐらい見事でした。

 召喚魔法の影響で、長く話せなかったのが残念ですけど……。短い時間でも、私と彼の間にはしっかり(えにし)が結ばれました。

 最後の最後で名残惜しくなって、引き止めて長話してしまいましたが……。

 その影響で召喚元との位置と時間が、ちょっとだけずれちゃったような気もしますが……。仕方がないですよね? てへっ。


 ちょっと、シロ。呆れたような顔でこっちを見るのはやめて。

 あなただってギリギリまで、背中を撫でてもらってたでしょう?

 そのまま、付いていきそうな雰囲気だったでしょう?


 その男の子の名前は、天城(あまぎ)創多(そうた)

 創多さん……。いつかあなたが、ここから私を出してくれる。

 そんな予感がするのです。


         ☆


 深い森特有の湿った空気。明るい木漏れ日。

 肉球で感じる、乾いた落ち葉が割れる感触。

 白猫の身体を借りる形で、私も異世界の森に到着しました。

 召喚元へ送り届けた後は、遠くから見守るつもりだったのですが……。やっぱり、それはちょっと無責任な気がしまして。


 えっ? 最初っからそうするつもりで、あの子に粘土をプレゼントしたんだろうって?

 ちょっと、シロ。自分は手を出せないからって、嫉妬しないで。

 五感を共有してあげるから……。これで良いでしょう?


 優しく、眠っている創多さんを起こします。

 なんだか、私の世界で会った時より若返ってるような気がするけど、気のせいよね? 気のせいじゃない? 服装と荷物は私からのプレゼントだけど……年齢は召喚魔法の影響かしら?

 ……そういうことにしておきましょう。決して、私の願望が勝手に働いた訳ではないわよね?


 あらっ? この白猫にも名前を付けてくれるのですね。

 ルビィ……。良い名前です。

 白猫の本体も喜んでいるようで、感謝の気持ちが伝わってきます。

 それは良いのですが……唇を舐めるのはどうなのかしら?

 これって、キスになってない? 猫だから大丈夫? 本当に?

 背中を撫でられただけでこんなに気持ちいいのは、ルビィさんが創多さんを気に入ってるから? それとも、動物の扱いがよっぽどうまいのでしょうか。


 創多さんと一緒に山歩き。

 自然の森を肌で感じるのは何年ぶりでしょうか?

 ただ、自然の森には危険も伴います。こっそり私たちの身体に、虫除けの魔法を使っておきます。

 火を起こす時も私が魔法で点けました。暗くなってからは照明の魔法で足元を照らしました。

 決して、その手の道具を入れ忘れたのが恥ずかしかった訳じゃないですよ?

 シロ……。こういうところは突っ込んでくれないんですね。


 その日の夜。

 ぐっすり眠っていた創多さんが、寒さで目を覚ましました。

 魔法で洞窟全体を暖めるという手もありますが、ここは……。

 目を合わせただけで創多さんは、私の考えを読み取ってくれたようです。

 大きくなって豹の身体になって、震えていた創多さんを暖めます。

 異性と抱き合って眠るなんて初めての経験で、ドキドキしたのは秘密です。

 ちょっと、シロ。どうしてあなたまで、恥ずかしそうにしてるんですか?

 まさか……。


         ☆


 次の日の朝。

 眠っていた創多さんを優しく起こしました。

 今日中にも創多さんはこの世界の人と出会い、そこから先は自分の力で生きていけるはずです。

 確実な予知ではありませんが、そんな予感がします。

 ですから私は、そろそろルビィさんの身体を離れて——

 えっ? もう少し、ここに居ても大丈夫? ルビィさん、本当ですか?

 その代わり……身体を使わせてあげるから、ご主人さまの役に立つ魔法を教えて欲しい?

 あっ、はい。わかりました。

 そうですよね。許可も取らずに身体を借りた、私の方が悪いですよね。

 ちょっと、シロ。どうしてあなたが、大きくうなずいてるのかしら?


 ルビィさんに、基本的な魔法を教えてあげました。

 どうも、基本だけでは満足されなかったようで、ちょっと強力な魔法もサービスしておきました。

 でも……。あなた、産まれたばかりですよね? どうしてそんな知識を……。

 えっ? 私が創多さんとイチャイチャしてる間に、シロさんから教えてもらったですって⁉

 そっ、そんなことはないですよ。イチャイチャだなんて、そんな……。

 しばらくシロは、ご飯抜きですね。そうしましょう。


 ここまで来る間に、何かきっかけがあったのでしょう。

 私がルビィさんやシロと話をしている間に、創多さんは粘土で大鷲を造っていました。

 作業をじっくり見られなかったのが残念ですが、見事な腕前です。

 今にも動き出しそう……。そう思っていたら、生命創造(クリエイトライフ)にもあっさり成功しました。

 大鷲の名前はトパーズと言うそうです。ルビィさんの妹ですね。

 私が知っている大鷲とは、どこか微妙に違うような気もしますが……。

 ルビィさんはとても、嬉しそうにしています。


         ☆


 トパーズさんを歓迎している間に、猟師らしい人が近づいていました。

 もちろん、私は気が付いていましたけど。……本当ですよ?

 創多さんは落ち着いた態度で対応し、情報を交換しています。

 おや? もしかして……。猟師が連れてきた犬が気になるんでしょうか?

 会話の間にもさりげなく、お座りしている犬を観察しています。

 もう一人、若い猟師が広場に現れましたが、やっぱり創多さんは連れている犬が気になるようです。

 ついさっきトパーズさんを造ったばっかりで、もう次の相手を考えているのですか? もっと他に、やるべきことがありませんか?

 たとえば、猫の背中を撫でるとか……。

 微妙に、ルビィさんの機嫌が悪くなってるような気がしますよ?


 あらっ……。この気配はなんでしょう?

 トパーズさんも気が付きましたか。上空から鋭い鳴き声が響きます。

 どうやらお腹を空かせた熊が、私たちを見つけたようです。かなり速いペースでこちらに近づいてきます。

 しかし、図体が大きいだけで神経は鈍いようですね。私が居るのに気付かないとは。


 えっ? わかる訳がないだろうですって?

 ちょっと、シロ。ここは緊張する場面ですから、少し黙っててもらえますか?

 まったくもう……。こういうところは誰に似たのかしら?

 さて、気を取り直して。創多さんをお助けしないと。

 ここはやっぱり私が……。あらっ? ルビィさん?

 ご主人さまのお役に立ちたいって、本気ですか?

 ……わかりました。その目は本気の本気ですね。

 では、ここはお譲りします。いざという時はお助けしますから、ここは思い切って、お好きなようにやってみて下さい。



 まだ慣れてない豹の身体を自由自在に扱って、ルビィさんは大きな爪の生えた熊を翻弄しています。

 ネコ科に産まれた本能なのでしょうか? 少しだけですが、私よりも動きが滑らかかもしれません。

 いえ、べつに。嫉妬なんてしてませんよ? 本当ですよ。

 楽しそうな表情で眺めているシロが気になりますが……。詳しい話は後で問い詰めることにしましょう。


 いきなり熊の目に、大鷲の羽が刺さりました。

 トパーズさんも参戦するのですね。

 ……大鷲って、そんなこと出来ましたっけ? 地面から一定の距離で浮いてるのも、おかしいと言えばおかしいですよね?

 えっ? これも、ご主人さまのおかげですって?

 さすが創多さん。すごいですね。『すごい』のひとことで片付けて良いのかどうか、私にはわかりませんが……。良いことにしましょう。


 最後はルビィさんが雷の魔法でトドメを刺しました。

 ついさっき、私が教えた魔法のハズですが……。ルビィさんはすでに、回りに影響しないように範囲を絞って、その代わりに威力を上げるような工夫を見せています。

 これって、二尾魔猫(ツインテイルキャット)のシロをモデルにしたからでしょうか? この件も、後でシロに聞くことにしましょう。



 無礼な熊を退治して、創多さんは猟師の人たちに受け入れられたようです。

 これで、私の出番も終わりに——

 えっ? ときどきで良いから様子を見に来て欲しいですって?

 ルビィさん、本当ですか⁉ それはむしろ、私の方からお願いしたかった話ですが……。

 ああっ、なるほど。もっと魔法を教えて欲しいんですね。

 わかりました。役に立ちそうな魔法を多めに用意しておきますから、これからもよろしくお願いします。


 ちょっと、シロ。私がルビィさんと交渉してる間に、トパーズさんとお話ししてましたよね? まさか、産まれたばかりのトパーズさん相手に、あやしい約束はしてないでしょうね?

 まったくもう……。こういうところは誰に似たのかしら?


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