9 執事長の報告
創多が帰還魔法を披露した日の夜。
マルーンは自分の部屋で、執事長のパーカーから報告を受けていた。
「マイヤーからの報告は以上です」
「ソウタ君には驚かされてばかりだけど、まさか、彼が使っている粘土が女神の土で、ロック鳥も鉄の巨人も女神の土から造られていたなんて……」
「その点について、私からも謝罪しないといけないことがございます」
「……えっ? ソウタ君に関する報告で、あなたが謝罪することって……?」
「三ヶ月ほど前。城を訪れたソウタ殿のスキルを解析して、お嬢様に報告しましたが、一部のスキルについて、私の認識が間違っておりました」
そう言って、パーカーは頭を深く下げました。
それなりに長く生きているつもりですが、そんな私より、パーカーはずっと長生きしています。
スキルに関する知識において、彼より詳しい人は居ないでしょう。
そんなパーカーが認識を間違えていたとは……?
「つまり、どういう事?」
「ソウタ殿が持っているスキルの中で、『モデリング』は異世界特有のものではなく、こちらの世界にも存在するスキルでした。内容としては、主に粘土を使って何かの形を作るスキルです」
「それは……。そういうジャンルに詳しい人しか知らなくてもおかしくないと思うけど、その話が、謝罪とどう繋がるのかしら?」
「異常にレベルが高いのです。改めて確認したところ、ソウタ殿のモデリングスキルは上限を超えて覚醒レベルに達していて……。わかりやすく言うと、お嬢様の戦闘スキルより高いレベルにあります」
大戦を終わらせるために、私は様々な戦闘を経験しました。
この大陸において、私より高いレベルで戦闘スキルを持っている人はほとんど居ないでしょう。
ソウタ君のモデリングスキルは、それよりもレベルが高い……?
どれほど長い時間、集中して粘土と向き合ってきたのでしょうか?
「おそらくですが、このスキルを認められて、女神の土を授けられたのではないでしょうか?」
「その可能性は高いわね……。でも、それはあなたが気にするようなことではないでしょう? 私たちの知らないところでソウタ君は土を手に入れて、ルビィさんやトパーズさんを造ってたんだから」
「それはそうですが、私が最初から報告していれば、その後の対応も変わっていたかも——」
「そんなことより、ソウタ君に関する報告は他にもあるんでしょう? そちらをお願い」
パーカーは申し訳なさそうな表情をしていますが、話を聞いた限りでは、正しい情報を知っていたとしても状況は変わらなかったでしょう。
それならば、この話はここまでにして、私たちにできることを考える方が時間を有効に使えるというものです。
「わかりました。では、別のスキルに関する報告を……。まず、野獣使いスキルですが、レベルが上がっていました。現在では、はっきり中堅クラスと言って良いぐらいのレベルになっています」
「レベルの高い魔獣を二匹も引き連れて行動してるのだから、勝手に野獣使いスキルが上がってもおかしくないわね。今までが低すぎただけで」
「私もそう思います」
「今考えると……。ソウタ君は野獣使いじゃなかったのね。ルビィさんやトパーズさんを造って、一緒に旅してただけで」
「そういうことになります。私でも、このようなケースは聞いたことがなかったのですが……」
女神と会って女神の土を授けられて、生命創造の秘術を教えてもらう。
高レベルの魔獣を自らの手で産み出し、一緒に居ることで野獣使いスキルを身に着ける。
こうして流れをまとめてみると……。最初のきっかけからして、普通には有り得ない話です。
ユーニスが鑑定に失敗したのも、仕方ないでしょう。
「石像使いスキルはどうだったの?」
「そちらも、大幅にレベルが上がっていました。既に中堅を通り越して、ベテランと言ってもいいほどのレベルになっています」
あの、廃鉱山にいた石像使いのおじいちゃんから、何かヒントをもらったのでしょう。
パーカーがまとめてくれたマイヤーからの報告にも、大量のゴーレムを造った話がありました。
「誰かが止めないと、食事も忘れて粘土を触ってるんでしょう? それだけ夢中になって、どんなゴーレムを造ってるのか……」
「ソウタ殿が造ったゴーレムのうち、何点かについてはマイヤーから詳細な情報がございました。これについては後で、報告書の形で上げますので、時間がある時にでも目を通してください」
「楽しみにしてるわ」
「それと……。もう一つ、報告しないといけないスキルがございます」
「……何でしょう?」
ここまででも十分すぎるほど衝撃的な内容だったはずですが、パーカーはさらに深刻な表情になっています。
まるで、口に出すのを恐れているよう……。
大きく息を吐き出してから、パーカーは続く言葉を口にしました。
「この三ヶ月で、ソウタ殿は新しいスキルを身に着けていました」
「それは……。新しい世界で新しい暮らしを始めたのだから、別におかしな話ではないでしょう?」
「これが普通のスキルであれば、何も問題なかったのですが……。生命創造と同じぐらい理解に困るスキルを、ソウタ殿はどこで覚えたのでしょう? どう見ても普通の人間なのに、どうして……」
目の前に私が居るのに、誰も目に入ってないかのような素振り。
パーカーの視線はどこか遠くを見ていると言うより、失われた過去に向けられているかのようです。
「ソウタ殿と彼の相棒たちは、突然動き出したガーディアンを倒し、先代魔王の攻撃を全てはね除け、魔族大戦の生き残りのアイアンゴーレムを退治して、浮島に招待されて女神と会ってきたそうです。そのどこかに、スキルのきっかけとなる出来事があったはずで……。それが何なのか、私は知りたい……」
よどみなくしゃべり続けるパーカーの姿は、長く一緒に居る私でも見たことがないものでした。
話の続きを聞くのが怖い……。私やパーカーをここまで追い込むなんて、本当にソウタ君は普通の少年なのでしょうか?
「あなたがそこまで言うなんて……。それは、どんなスキルなの?」
「魂使い……。遙か昔、我々悪魔族が魂を操作するために使っていたとされる、失われたスキルです」