ミルシア
大樹の調査へ行く事を決意したポーマスは、ミルシアの代表スパルに護衛の依頼をした。傭兵を派遣する事で生計を立てるその国は、アクサネスとは真逆の武力中心の男社会を築き上げている。
バーレシアには、ミルシアという国がある。元は傭兵集団の名だったが、その集団が増えていった結果国となった特殊な地だ。そんなミルシアは現在も傭兵派遣で生計を立てており、この国では武力や武功がそのまま権力となって与えられる。
ミルシアは国とされているが、その在り方は集団そのものだ。まず、ミルシアでは女性を受け入れていない。というより、ミルシアには国民というものが存在しないのだ。ミルシアに生きる男達の殆どは独身か、もしくはそれぞれの地元に家庭を持ち、単身赴任のようなカタチで身を置いている。また、ミルシアに入るには入国審査という名の体力試験を受ける必要があり、年齢も十三歳からと決まっている。
そんなミルシアの代表は、当然ながら最も強い者になる。武力のみが優先されるため、歴代には国交や治安が大変なことになった時代もあった。それでも武力を優先してしまうような国なのだ。
そのミルシアが、二年ほど前に代表が交代してから随分と変わった。まず、個の集団であった傭兵達に連携が生まれた。さらに、依頼にランクの振り分けが取り入れられ、ランクによって報酬、人員が明確に定められた。これにより傭兵達の無駄死が減り、実力に対して安い仕事もなくなった。
ほぼ無法地帯とされていたミルシアに秩序を齎した代表は、スパルという男だ。そしてこのスパルは、自身が代表となったその日のうちにアクサネスまで単身やってきて、ポーマスに言ったのだ。
───アンタを守ってやる。その代わり、ミルシアの統治の仕方を考えてくれ。
礼儀作法などないその言葉にポーマスはポカンとしたものの、強い武力による盾が手に入ることをプラスと考えて了承したのである。ただ、学が浅く単純思考なスパルに提案した内容を理解させるのにかなりの苦労をしたのは、言うまでもない。
そんな縁があって、ミルシアとアクサネスは現在友好的な関係を築いている。ミルシアは特別どこの国とも仲良くはしていないものの、アクサネスと対立する事は避けるだろう。なんせ、作戦から何から全て筒抜けなので。
今回の大樹調査において、万が一を考えてポーマスからスパルへ指名での護衛依頼が出されたのはそういう経緯があっての事だった。
「ポーマスさん!護衛に来たぞ!」
「うん……凄いね……昨日依頼を出したのにもう来たんだね……出発は明日なんだけどね……。」
「これしきの距離、大した事じゃないからな!」
「うん……ほんと凄いね……。」
早朝五時。スパルはアクサネスへと来ていた。出発は明日だと依頼書にも書いたが、この脳筋がそんな細かい事を確認するわけがない事はポーマスも分かっている。分かった上で、一縷の望みに賭けて散っただけだ。幸いなのは、悪い奴ではないと分かっている事か。なんせ難しい事を考えられる人では無い。
「大樹でもなんでもかかってこいってんだ!」
ミルシアの代表スパル。
ポーマスに犬のように懐くその男は、短く書いた依頼書ですらまともに読んでいなかった。
スパルは立派な脳筋です。押してもダメならもっと押せ派。アクサネスのポーマスを頼ったのは、一番賢いと聞いたから。脳筋ですが、危機回避能力は恐ろしく高いです。余談ですが、女性耐性はゼロ。




