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バーレシアと四つの小国  作者: はと
第二章
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移民

 マルフィーは考えていた。ケルアの現状やイーティスの残した呪いという言葉の意味。そして一向に目を覚ます気配のないスーニャの健康状態。大樹の名前に、結局は解決していない異音問題とその内容。ユセビアで行われる教皇の裁判と、恐らくはそれに胸を痛めているであろうカタリナへのフォローの手紙……についてはシャルとポーマスから、今は時期が悪すぎるからやめておけと言われて書いていないが。

 とかく、このところマルフィーの周囲はとことん問題が連続しているのである。これは何かが起きる予兆であると考えることが普通ではないのだろうか。そう考えてはみるものの、しっかりと思考を纏める暇がそもそもない。

 大樹は、時が来たことを示している。つまり、大樹にとって何かしらの条件が整ったのは間違いない。果たしてそれがケルアの現状に関係しているのかは定かではないが、タイミング的にも無関係とは考えにくいだろう。

我が兄弟を呼べ、とは間違いなくそれぞれの国にて保管されている宝のことだ。現に、この声もミルシアの国宝である剣、ディントを手にして近づいたことで発覚した。ただし、ミルシアの国宝である石の花、カルスに剣を近付けても声は聞こえず、カタリナ曰く国宝に関する異変はない。

 今一度全てをやり直そう、と訴えていることを含めると、大樹である第一子は恐らく逸話の中にある何かを全てやり直したいと考えている。それが祝福についてのことなのか、それともそれ以外のことなのかは分からない。

 そもそもだ、デドロンとアクサネスについては国宝、というか父なる神の子らに名前があるということを知らなかった。スパルとカタリナが言うにはどちらも口伝されているようで、名前が記された本や資料などは見たことがないという。

 とまあ、可能ならマルフィーとてこのことをしっかりと思考したいと考えているのだ。本気で。しかし、今の彼にはそれが出来ない状況になっていた。


「どういうことだ、ケルアにて保護されているはずの移民は、どこに消えた。」


 謎の呪いによってスーニャを除く国民全員が眠りについたまま硬化してしまったケルアでは、近年大量の移民を受け入れていることが問題となっていた。保護施設は常にギリギリの状況であり、生活のアテを見つけて独り立ちする者より保護施設に入ってくる者の方が多いという話は聞いていたのだ。

 しかし、この呪いによって生まれた混沌の中、デドロンが一時的にケルアを管理下に置いてアクサネスの医療班と協力してこの現象を追究していくうちに、ある方向が上ったのである。


 ———保護施設にて発見された移民の人数が、登録名簿に対して明らかに足りていない。


 移民のほとんどは、バーレシアの生まれだ。バーレシアは大国とされるだけあって広大な土地であり、国宝のある国以外にも小さな国や地域が存在する。そして、それらの地域はどこも小さな紛争を繰り返していて、そこから逃げてくる者が移民として身を寄せる状況だ。その移民の中でも、特に身分を証明できない者はユセビアへ行く。最低限を保証してくれる宗教国は、まさしく救いの場だ。一方ケルアへ来る者の殆どは、身分をある程度証明出来たり、最低限の納税義務を果たせるだけの職業能力を持った者とされている。だからこそ名簿にもそれなりに名前や家族構成、職業歴などが記入されているのだ。

 そのケルアで保護されていた移民たちの多くが、消息を絶っている。しかし不思議なもので、例えば一時期保護施設を利用してその後就職先に恵まれた元移民の者は、ケルアの国民と同じく眠りについて硬化しているのだ。職場に出ている者、休みを取っていた者も例外なく。ただ、保護施設で保護されていた者が極端に減ってしまっている。


「……呪いを持ち込んだか、それとも、媒介にされたか。」


 本来であれば消息を絶った移民たちを探すべきだろう。だが、現状消息を絶った移民たちはケルアの国に籍を正式に移したわけではない。ケルアは移民たちを保護しているのである程度首を突っ込んでも良い立場だが、デドロンは【ケルアを管理下に置く】という、謂わば最低限の保証しかしない立場なのだ。ケルア国民ですらない移民たちは、デドロンが対応する範疇には入っていない。せめて呪いに関係していることが明確ならば理由をこじつけることもできたかもしれないが、それすらも今はまだ謎のままだ。

 大樹で突如発生した異常。ケルアに突如増えた移民。そして謎の呪いと、消えた一部の移民たち、硬化せず眠ったままのスーニャ。ユセビアで広まった謎の薬品。

 少なくともケルアとユセビアの問題は移民が関連しているのは間違いない。それが同じ親元から放たれた移民なのかは不明だが、無関係ととるにはあまりにも出来過ぎている。あとは果たして、それらの問題が大樹の異常とも絡んでいるのか否か。それによって、マルフィーは動けるかが変わってくる。


「…………カタリナは大丈夫だろうか。」


 ため息を吐いて、どうしようもない現状を憂う。ふと窓の外を見ると、庭に咲いている青い小花が見えた。以前、シャルに伝えて添えてもらったあの花だ。


 ———マルフィー、知っているかい?この花は愛を伝える花なんだって。先日イニア嬢が手紙に添えてくれたんだ。こちらでは特に意味を持たない花だったけれど、手紙でそのように説明してくれていたんだよ。面白いよね、地域が変われば同じ花でも意味が違うんだ!


 手紙に花を添えるなど、花が枯れぬために保護魔法までかける必要があるだろうに。学生時代の当時は呆れたそれを、今はちまちまと繰り返す日々。かつてのマルフィーが見れば真顔で卒倒するかもしれない。

 しかし、マルフィーは気付いていなかった。手紙に、あの花が遠い異国の地では愛を伝える意味を持つ、と書いていない事に。少なくとも異国の花言葉事情に詳しくないカタリナからすれば、青い小花を添えられた手紙なんて死を望むデスレターである。


文化の違いって怖い。

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