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バーレシアと四つの小国  作者: はと
第二章
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不信

 それから二時間ほど、マルフィーとポーネスは石の花を調べた。スパル曰く大樹の時のような共鳴はないようだったが、僅かに剣が震えるような感触があったらしい。しかし結局はそれ以上の何も得ることは出来ず、三人はユセビアを後にした。

 無人になった転移魔法陣を見ながら、カタリナはため息を吐いた。隣に控えていたリタが、心配そうにカタリナを見る。


「何かお飲み物でも準備しますから、少し休憩なさっては……?」

「ありがとう、でも大丈夫よ。やる事もまだ残ってるからこのまま仕事に戻るわ。」


 カタリナはリタに小さく微笑んで、執務室へと向かった。事実、この突然の来訪の為に色々と先取りしたり後回しした仕事が沢山ある。ゆっくり飲み物を飲んで、なんて時間も、惜しかった。


「リタ、私は一度教皇へ報告へ行きます。来客があれば執務室へ案内をお願いね。」

「はい!」


 リタと解散して、カタリナは教皇の過ごす塔へと向かう。その途中、ふと街が見える窓の前で足を止めた。


 ───薬品の件は、一度先入観を捨てて調査する事をおすすめします。こういう事案は、案外立場ある者が裏で手を引いている事も多いですから。


 最後にそう言い残したポーマスを思い出す。カタリナは、そっと目を閉じた。

 女王と呼ばれ、国交の要として扱われる日々にはもう慣れた。だからこそ、彼女はちゃんと分かっている。この国で、彼女の持つ権利はほぼない。求められているのは【教会とは違った方向から国民の憧憬を集めること】なのだ。正義を貫くことは、カタリナには一切求められていない。


「……どうすれば。」

「おや、カタリナ。お客様方はもうお帰りになったのかい?」


 振り返ると、教皇が立っていた。そろそろ夕方の祈りが始まる時間だ。その手に聖書を持っているのを見て、一日が短い事を嫌でも実感する。


「はい、先程。ご報告をと思ったのですが、もうお祈りの時間でしたね。」

「少しなら構わないよ、マルフィー様達はお元気でしたか?」

「ええ。どうやらケルアに関連するものとして逸話の国宝を調べたかったようです。結局は何も分からずじまいでしたが。」

「そうか……バーレシアにこれ以上の試練がなければ良いのだが……。」

「それと、先程街で一人の男が常軌を逸した言動をしていると通報があり保護しています。恐らくは薬品に関わりがある者かもしれませんが、今は会話が成り立ちませんのでなんとも。マルフィー様達の目にも触れましたので、義理立てとして保護した事まではお伝えしました。」

「皆に怪我はなかったかい?」

「当人が暴れた際に擦り傷を負った程度です。」


 そうか、と教皇は頷いた。祈りの準備を知らせる鐘が鳴る。教皇も、そしてカタリナ自身もそれぞれの持ち場へ向かわねばならない。


「報告ありがとうカタリナ。君も疲れただろうから、少し体を休めなさい。」

「そうします。教皇様も、ご自愛くださいね。」

「ああ。神の御加護を。」

「神の御加護を。」


 カタリナが執務室に戻れば机の上にはいくらかの書類が置かれていた。ちらりと見れば、保護している男の素性調査と薬品検査の結果。それから転移魔法陣稼働における報告書。他には細々とした教会内での雑務。それらを一度綺麗に纏めてから、カタリナは椅子に座った。しかしペンを持つ気にはなれず、とりあえず机に肘をついて手を組む。


「……はあ。」


 どっと疲れがのしかかる。何も考えずに寝てしまいたいとすら思うが、それが出来るほどカタリナは無責任にもなれない。

 暫くどこを見るでもなく沈黙して、それからのろのろとカタリナは書類を手に取った。


「頑張らなければ。」


 その日、カタリナは一時間ほど残業をして家に帰った。特に変わった事はなかった。

 しかし翌朝教会へ来てみれば、地下施設で保護していた男が死亡していた、との報告が上げられていた。目撃者は男に朝食を運びに来た者で、地下への階段前に配置されている二人の衛兵は誰の出入りもなく、異変に気付く事もなかったと証言しているらしい。

 この日を境に、少しずつ通報が増えていった。内容は男の時と同じで、家族が突然おかしくなった、街でおかしな言動を繰り返す者がいるといったものだ。そして、保護された者は早くて翌日、遅くても二日も経てば死亡してしまう。話を聞きたくても殆ど会話が成立しないままに。


 そうして気付くと、教会にとってよくない噂まで流れ始めた。


 ───教会は、保護した国民を殺している。


 その声は、次第に大きくなっていった。

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