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バーレシアと四つの小国  作者: はと
第二章
20/23

名前

これから彼らは、真実を知ることになる。

 待ち合わせ場所にて、カタリナは広場での件で三人に深く頭を下げた。マルフィーとポーマスが敢えて目に付く場所から離れたとはいえ、スパルが通報をした時点でお察しだ。他国民、それも王という立場の人間に見せて良いものではない。


「皆様の配慮あるご対応に感謝いたします……。」

「胸中お察しします、かの者はどうされるので?」

「話を聞くにも会話が成立しませんので、薬が抜けるまで教会の地下で保護することにしました。ご家族も納得いただきましたので。」

「それが無難だろうな。」


 知ってしまった以上最低限は話題にするが、所詮は他国の問題だ。二人はあっさりと話題を切りあげたし、カタリナも聞かれた事以外は話さなかった。スパルはそんな三人のやり取りを他人事のように見ながら、賢い奴は大変なんだな、と頭をかいた。どうにも、スパルには出来そうにない分野であった。


「先程マルフィー様とも話をしたのですが、恐らく薬品と逸話の関係は今のところかなり可能性が低いかと思われます。」

「……そうですか。」

「しかし可能性はゼロとは言えませんし、これから国宝を確認してからまた考えるべきかと。」

「分かりました。では早速向かいましょう、ご案内します。」


 カタリナが先導して歩き出す。その背中は凛としていて、ポーマスはほんの少しだけ心配になった。

 カタリナという女性を、ポーマスはさほど知らない。国交に関しての交流しかないのだ。彼女はいつ見ても凛と背筋を伸ばし、ユセビアの事を想っている印象が強い。それは敬虔な信仰者故の価値観なのか、それとも彼女が女王とはそうあるべきと考えているからなのかは分からないが、随分と立派なものだ。しかし、その、反面カタリナ自身の感情や思想はまるで分からないのだ。美しすぎる顏は、良くも悪くも本人の感情や思考を有耶無耶にしてしまう。


(でもマルフィー様には少し怒ったり呆れたりしていたから、驚いた。)


 そこまで考えて、ポーマスは思考を停めた。アクサネスにおいて、恋愛事への介入は最も愚かしい事とされている。恋愛は思考を溶かし、知識を狂わせるからだ。たとえ何に気付いたとて、ポーマスは今後もきっとそれを表には出さない。それだけだ。


「こちらになります。」

「……こ、れは?」

「へー、この石が国宝なんスか?」

「ええ。ユセビアに伝わる逸話の国宝、石にされた第二子です。」

「…………だが、これは花ではないか。」

「?ええ。」


 カタリナが連れてきた、逸話の国宝のみを管理する宝物庫。その真ん中に置かれたものは、石の花一輪だった。


「まさか、呪いと石化は別だった、という事ですか?」

「ええ。第二子は呪いにより花に姿を変えられ、その後その姿のまま石にされたのです。もしや皆様の国で語られている逸話は違うのですか?」

「我々はてっきり、石化の呪いを受けたものだとばかり……。」

「ミスリードのようなものか。」

「なるほど……たしかに国宝を見た事がなければそのように認識するのも無理はありませんね。我々はこれが当たり前でしたから、気付きませんでした。」


 カタリナの様子を見るに、本当に気付かなかったのだろう。確かにマルフィーもポーマスも、逸話の大まかな把握はしているが内容の是非を問うたことはない。なんなら、是非があると思ったこともなかった。スパルに至っては、逸話の内容もあやふやらしい。


「大きく違えば気付くものも、些細な受け取り方の違いや文化に依存した解釈となれば、ものが同じなだけに気付けない……盲点でしたね。」

「ああ、その考えには及ばなかったな。」

「神の子なら、名前あるんスよね?」

「ええ。カルス、と。」

「へえ、カルスかぁ。」


 スパルとカタリナの会話に、思い込みの恐ろしさを分かちあっていたマルフィーとポーマスが顔を上げた。


「カタリナ様、今、なんと?」

「はい?」

「……名があるのか、神の子らに。」


 二人の問いに、カタリナだけでなくスパルも首を傾げる。


「ええ、子らには皆それぞれに父なる神より名前がつけられているはずですよ?第二子には美しさを表すカルスという名があります。」

「この剣もディントって名前っス!」


 ポーマスは倒れそうになった。豊富な知識を誇りとする国の民として、そして王として、何故気にしなかったのか。そりゃそうだ、神とはいえ父なのだ、普通我が子には名をつけるに決まっている。


「……マルフィー様、僕少し調子に乗っていたようです。」

「そなただけではない、私もその事にまるで思考が及ばなかった……。」

「カタリナ様、ちなみになのですが……アクサネスやデドロンにある子らの名は分かりますか?」

「申し訳ありません、名は我々も口伝で教わるばかりで……。」

「俺んとこは、トップを決める時に決闘する会場をディント・フロンティアって呼ぶんで、そこで覚えるんスよ。」


 マルフィーとポーマスは、互いにアイコンタクトをとった。初めてのことだったが、存外スムーズだった。


 ───マルフィーさんのところは、なんと?

 ───大樹、としか。

 ───我々は知恵較べの本、と。

 ───名前では、ないのだろうな……。

 ───流石に無理があります。


 二人は揃って決意した。

 国に戻ったら、ありったけの論文を調べ、神の子の名を探さなければ、と。

大きな事に取り組んでいると、案外意外なものを見落とすんですよね。なんででしょ。

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