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バーレシアと四つの小国  作者: はと
第一章
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ケルア

穏やかな王、慈愛に満ちた王妃、愛らしい姫。絵に描いたような優しい都市にも、問題は起きていた。

第二話:中央都市、ケルア


ケルアは、美しい石畳と真っ白な塀が目を引くバーレシアの中央都市だ。都市全体が石畳で舗装され、学校などの学術機関は勿論国交で利用する施設も多く作られている。ケルアをぐるりと囲む塀は高く、容易に外は覗けない。また、小国から仕事をしに来る者も多く、通りは常に人で賑やかだ。都市、という呼び方をされているが、その規模は最早国だ。そもそもバーレシアとは四つの小国を含む領域全てを指す呼び名であり、ケルアはかつて神と五人目の子の亡骸が眠りに着いた場所だった。神が子らを移した四箇所を小国と言うから小国と呼び、自らが眠る事にした中央の地域についてなんの言葉も残さなかったから都市と呼ばれている。そして、このケルアの南方に聳え立つ城に住む者こそ、神に仕えたとされる者の末裔であり、バーレシア全体を統治する権限を持つ国王だ。


「……終わった、もう絶望だ。終わったよさよならだ、スーニャ、ふがいないパパを許しておくれ……!」

「あなた、とりあえずで嘆くのはお良しになって。」

「だって、聞いておくれイニア……!」


国王、イーティス。趣味は部屋のカーテンに付いているタッセルで三つ編みをする事、特技は音魔法と暗号作り。事ある毎に盛大に嘆き悲しむが、その反面立ち直りは早い。国民からは嘆きのイーティスと呼ばれつつも愛されている。そんな彼には目に入れても痛くない、むしろ入れたら出したくない程愛している妻と娘がいる。


「もう存じております、デドロンから届いた次の議会への欠席の件でしょう。」

「絶対この前スーニャ自慢をしたからだ……!うるさいって言われたもん。謝ったけどあれ絶対まだ怒ってたんだよ……!」

「マルフィーはそこまで狭量ではない、とあの時は豪語してらしたではありませんか。」

「うっ……!」


視線を逸らすイーティスに、王妃であるイニアがため息を吐く。しかしその瞳は、とても優しい色をしていた。


「不安になる事はありませんわ。前回の件に関してはあの後すぐ謝罪の手配をしています。マルフィー様からも受け取りの報告はありましたから、無関係です。」

「イ、イニア……なんて気の利く妻なんだ……!」

「王妃として当然の務めですわ。」


王妃、イニア。遠く中東部にある祖国から十六でバーレシアに嫁ぎ、王妃としてイーティスを影ながら支えている。その美貌と隙のない仕事は社交界でも有名だが、本人はイーティス一筋で余所見すらしない。趣味は鏡集め、特技は飛行術とイーティスの編んだ三つ編みタッセルを素早く解く事。国民からは、慈愛のイニアと呼ばれている。


「マルフィー様が欠席なさるのは、前回の議会で話題に上がった大樹の異音調査の為です。大臣からもそう報告が上がってましたでしょう?」

「で、でもさぁ、今までは直接僕に連絡して来てたんだよ?それを急に、こんな仰々しい感じでさぁ……!」

「本来国交におけるやりとりとは仰々しいものですわ。ご学友だったとはいえ、これまでがフランク過ぎたのです。少しはご学友離れなさいまし。」

「うう……じゃあ、イニアは僕と手紙のやり取りしてくれる……?」

「ええ勿論、何通でも。」


ピシャリと言うイニアの本音が、マルフィーより私とやり取りをして、というものだとはイーティスは夢にも思っていない。だがそれでも無自覚にストライクの返事をするのがイーティスという男だった。


「おかあさま……?」

「あらスーニャ、起きたの?」

「スーニャ!起き抜けの顔も世界で一番可愛いね、天使のようだ!」

「おとうさま、おはようございます。」

「はいおはよう。挨拶が出来るなんて、天才かな?」


あどけない声で二人の視線を集めたのは、イーティスとイニアの娘、スーニャである。起きれば褒められ、寝ても褒められ、転べば医者を呼ばれるスーニャはまだ五歳だ。イーティスに似た柔らかい目付きに、イニア譲りの真っ直ぐな髪を持っている。趣味や特技はまだないが、生まれた日に枕元に届いた絵日記をいつも大事に持ち歩いている。


「さあスーニャ、起きたのなら着替えをしてきなさい。」

「えっ、ドレスは足りてる?靴は?」

「全て十分にありますわ。国民からのお金は大切に使ってくださいませ。」


またしてもイーティスを叱ったイニアは、控えていた侍女にスーニャを預ける。ばいばい、と手を振るスーニャに両手を振り返すイーティスは号泣だ。毎度この調子である。

穏やかなイーティスと、やり手のイニアが纏めるケルア。人の笑い声がどこからか聞こえ、気が付くと音楽が鳴り出すようなその都市は、今未曾有の問題を抱えていた。


「さて、スーニャも離れた事だし仕事に戻ろうか。」

「そうですね。私は今から施設を視察しに行ってまいります。」

「気を付けて行くんだよ。」


ケルアの抱える問題は、突如増えた移民だ。元々人流の活発なケルアでは珍しくはなかったが、毎日何人もの移民が来るというのはありえない。どこかの小国が敢えて国民を流している、という可能性を考えるには充分なのだ。

しかし、移民とは言えバーレシアの民に違いはない。だから移民は皆保護施設にて生活をさせているが……その保護施設が、今にも圧迫されそうな程の移民が居るのが現状であった。


「あ、イニア!」


仕事の為に足早に部屋を出ようとするイニアを呼び止めたイーティスは、頬をポリポリと掻いて少し視線を逸らした。


「……手紙も、待ってるよ。」


パタン、と開けていたドアが閉まる。振り返った体勢のまま固まったイニアは、ポン、と頬を赤くした。


「もうっ……!」


イニアから十七枚もの紙を使った手紙がイーティスの手元に届いたのは、昼過ぎの事である。

イーティスとイニアが出会ったのは、イーティス20歳、イニア15歳。元々婚約していましたが、その時のある事がきっかけでイニアがイーティスを愛し、熱烈にプッシュ。一応18になったら結婚という約束でしたが、イニアが待ち切れず16で結婚しました。という裏話、いつか書きたいもんです。

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