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バーレシアと四つの小国  作者: はと
第二章
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ユセビア

マルフィーをこっぴどく振ったとされる、ユセビアの女王、カタリナ。しかし当然ながら、マルフィーが関われば事実はねじ曲がる。花付きで届いた特例文書を前に、カタリナは覚悟を決めていた。

 バーレシアの領土において唯一の島国であるユセビアは、国民全員が敬虔な信仰者だ。バーレシア最大の教会は教皇の住居でもあり、迷える子羊達の為に常に門が開かれてる。

 そのユセビアを統治する女王として名が挙げられるのがカタリナであるが、実の所は彼女は正式な女王ではない。というより、宗教国家であるユセビアには、王制自体あまり推奨されていない。無論カタリナ本人も便宜上仕方なく女王という立場を名乗ってはいるが、ユセビアには城はないし、彼女の本当の職業は聖職者だ。

 王制を成立させるためには、実は様々な条件が必要である。その中で最も重要なのは、国民の承認、つまるところ人気だ。デドロンは国民が王を崇拝しているし、アクサネスでは知識のある者にこそ敬意が集まり、ミルシアは強者に誰もが従う。しかし宗教国家では、王への信頼より教会への信頼が上回る事がある。そうなると王制が成立しなくなる為、ユセビアでは他国のような王制はとらず、教皇の認めた者が代表となり他国との交流役を担うのだ。その際、他国とのバランスをとる為に便宜上王や女王と名乗っているだけであった。


「カタリナ、そろそろ執務の時間ですよ。」

「……行ってまいります。」

「本日も、そなたに神の御加護があらん事を。」

「教皇様にも、御加護があらん事を。」


 美しいステンドグラスから差し込む色鮮やかな光が、一人の女性に注がれる。

 聖職者兼ユセビア国女王、カタリナ。彼女は絶世の美女としても有名であった。


「そうだカタリナ、マルフィー殿から文書が届いていたよ。それと、可愛らしい花も一輪。」

「……そうですか、確認しておきます。」

「愛には愛を返すべし、だからね。」


 教皇の説法をサラリと躱して、カタリナは執務室へ向かう。廊下ですれ違う聖職者達が、その美貌にうっとりと目を奪われるが、カタリナはその全てに目礼で返した。

 ばたん、と執務室の戸を閉める。机に置かれた花付きの特例文書を見て、カタリナはゆっくりと息を吐いた。他に急ぎのものはない事を確認し、花をそっと避け、文書の封を開く。前半部分にある絶対に必要のない挨拶文を無視して、恐らくは本題であろう内容に目を通した。


「……ポーマス様。」


 そこに見知った名前を見付けて、カタリナは一先ず安堵した。ケルアの件は既にカタリナの耳にも入っている。マルフィーだけの名前で届いたものならば悩みもしたが、ポーマスとも連名ならば悩む必要も無い。カタリナは急いで返事を書いた。


「リタ、この文書をデドロンへ。」

「はい!」

「私は少し席を外します。一時間で戻りますから、もし来客があればお待ち頂くよう伝えておいて。」

「わかりました!」


 まだ幼さの残る、馴染みの修道女に文書を預けて執務室を出る。向かう先は、彼女が休憩時に使う部屋だ。周囲に人が居ないことを確認し、静かに戸を閉めて、窓がきちんと閉まっている事も確認したカタリナは、そこでやっと口を開いた。


「あの青い花……確か花言葉は死を望む、だったかしら。」


 カタリナの、服に隠れた両腕は見事に鳥肌が立っていた。

 カタリナにとって、マルフィーは雲の上の存在であり、どこまでも他人であった。しかし、ある日の議会でたまたま宗教絡みの議題が上がり、結果としてカタリナがマルフィーの出した意見を退けた形となった。議会自体は平穏無事に終わったのだが、席を立つ際にマルフィーが寄ってきて言ったのだ。


───そなたの名前、忘れぬぞ。


 カタリナは死を覚悟した。父なる神に迎えられる準備をせねばと思った。教皇に、せめて妹の事を頼む時間だけはくれないかな、とも。

 そこからだ。マルフィーは折に触れてカタリナに手紙を送ってきた。そのどれもが、それはそれは恐怖を掻き立てるようなものばかりだった。


【女王が議会に出るとは、余程教会は人が手薄のようだな。】

【そなたの声はよく響く。】

【議会とはいえ、夜を彷彿とさせる服を着てくるとは恐れ入る。】


 とんでもない精神攻撃である。カタリナはついに心が折れかけ、とうとう勇気を振り絞って手紙を書いたのだ。


【お心遣い痛み入ります。しかしながら私の心は神に仕える事を喜びとしております。御立派な国王たる貴方様には異質に見えるかもしれませんが、過度の気遣いは不要です。】


 この上ないキッパリとした【おめーと交わす盃はねえ!】というお断り文書である。この文を読んだ教皇は、もう少しソフトに書いては、と一応説得を試みた。しかしカタリナはこれがダメなら手紙など読まずに毎回捨てる、と言い返したので、結果としてこれが送られる事となったのだ。

 それから半年、マルフィーからの手紙は止まったものの、議会では真顔でじっと見てくるので全く心は休まらなかった。まるで、僅かでも隙を見せれば最期と言わんばかりである。まさか実際には僅かでも好きになってもらえないだろうか、と見詰めているとは思いもしないカタリナであった。


「神の御加護を……!!!!」


 十字架を折れんばかりに握り締め、カタリナは恐らく人生で初めて自分の為に強く祈りを捧げたのだった。

カタリナはとても美しく、慈悲深い女性です。その慈悲深い女性が限界を迎える程に言葉選びセンスが死滅しているマルフィー。前途多難なんてもんじゃない。

ちなみに、カタリナは初恋もまだです。

趣味はヘアアレンジ、特技は速記。

裏話、というかいつか書けたら良い裏設定として、スパルとは幼少期に一度だけ面識があります。双方、ほぼ覚えていませんが。

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