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バーレシアと四つの小国  作者: はと
第一章
13/29

打切

スパルの剣によって、異音は言葉であった事が判明した。しかし、大樹の言葉はどうにも不穏なもので、ポーマスは不安を抱いていた。

 ポーマスは考えていた。大樹の言葉についてだ。


 時は来た

 我が兄弟を呼べ

 今一度

 全てをやり直そうぞ


 逸話を真実とするのなら、大樹の中には神の第一子が眠っている。時は来た、という事は何かしらの条件が整いつつある、という事だろう。我が兄弟を呼べとは、逸話にある他の四人の子を集めよ、という意味か。スパルの所有する逸話持ちの剣と共鳴して言葉を認識出来るようになった事からも、否定は出来ない。

 分からないのは、今一度全てをやり直そうぞ、という言葉だ。


「逸話の内容からして、やり直すとするなら、第五子が本来行うはずだった善と悪の祝福の事ではないかと思うんだけれど……。」

「何か、引っかかることでも?」

「……もしやり直すのなら、第五子だけを呼べば良いはずだ。少なくとも逸話の中で、第一子から第四子までの祝福は成立している。けれど、大樹は『全てをやり直す』と告げている。そして、第五子が与えた祝福は命の終わり。つまり寿命だ。それをやり直すという事は、もしかしたら命の概念が覆りかねない。」


 ポーマスの言葉に、アリスも考える。しかしアリスは木医であり、植物以外の事は専門ではない。無論アクサネスでそれなりの権威を持つのだから一般人より遥かに頭の回転は早いが、アクサネスの民は専門外の分野に触れる事をあまり良しとはしないのだ。

 ふと、ロイズが紙を求めた。ポーマスが出してやると、べち、と雑に手を当てる。一気に並んでいく文字はロイズにしては珍しく少ない。そこで漸く、二人はロイズが随分と静かにしていることに気付いた。


「……ロイズ、君、何か怒ってる?」

「珍しくスパルに懐いてましたから、もしかしたらスパルの剣に気付けなかったのが納得いかないのかもしれませんよ。」

「プライドが傷付いたのか……。」

「うっ、なんかすんません……。」


 ロイズは二人の分析に眉を潜め、気まずそうに謝ったスパルからはぷい、と顔を背けた。自由に生きているような男は、これで案外喜怒哀楽を表すことがほとんどない。よほどスパルの剣を見落としていた事がショックだったのか、思えばスパルを説教している間もロイズは動きを止めてじいっとスパルを見ていた。


『我々がすべきは異音の調査であり、その先は範囲にはない。此度は【大樹の異音は逸話持ちの剣と共鳴する事で言葉として展開される事が判明。植物としての生命力、健康状態には異常無し。】で責任は果たされる。』


 ロイズの言葉は、さっさとこの件から手を引こう、というものだった。ポーマスとアリスは互いに目を合わせ、それから仕方ないと言う風に頷いた。

 アクサネスの民は、謎が深まるとつい深追いする悪癖があるのだ。だが、たしかに今回の件はロイズの言葉通り大樹の異音調査が目的である。異音の原因や内容が判明した以上、それ以降の接触に良い顔はされないだろうし、都合良く使われるのもごめんだ。


「ロイズの言う通りだね。今回の件はここで区切りとしよう。」

「では報告の準備が出来た事を伝えてきます。」


 シャルに話を通しに行ったアリスを見送って、ポーマスはドアが閉まった瞬間にへなへなと座り込んだ。ずっと隅で立っていたスパルが慌てて駆け寄るが、ポーマスは立ち上がるどころか膝を抱えた。


「殺されたらどうしよ……。」


 研究や分析をしている間はそれに夢中になって頼り甲斐まで出るのだが、一度それが終わればまたネガティブ思考に嵌る。それがポーマスという男であった。




 報告はすぐに終わった。というのも、大樹の言葉はマルフィーとシャルも実際にスパルの剣を握って聞いているのだ。異音調査としてはこの上ない成果であると認めるしかない。


「此度の働き、感謝する。報酬については契約にある分に加え、別途内容報酬として色を付けるつもりだ。」

「お力になれた事、光栄に存じます。」

「そこの、スパルと言ったか。ミルシアの。」

「はい!」

「そなたの剣なくしてはこの件は動かなかったやもしれぬ。ミルシアにも、報酬を出そう。」


 マルフィーの言葉に、スパルが礼を返す。シャルが羊皮紙に何かを書き込み、それを使用人に渡した。恐らくはそれが、マルフィーの言った色付け分であろう。


「しかし、異音の内容については謎が残るな。」

「何かしらの予兆、と考えられますね。」

「ああ。」


 マルフィーが椅子から立ち上がる。そして窓の外にある大樹を見て、目を閉じた。


「ポーマス、この件は秘匿すべきと思うか。」

「触れ回るには、不明点が多いかと。」

「そうか。」


 目を開けたマルフィーが、ポーマスを見た。


「ならばお前達の口も、しかと封じて貰わねばな。」


 ポーマスは気絶した。

ポーマスは基本的に仕事は出来ます。ですが仕事が済むとまた情けなくなるタイプです。人間味がありますね。ちなみに、この調査期間中、マルフィーはずっと【友達が来ている】という認識でワクワクソワソワしていました。

スパルにはポーマスが最低限の礼儀作法を教えこんでいます。最低限とは、極力喋らず礼をしなさい、です。無難。

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