peace .10-2
「お前さあ、それさあ、なんの意味あってやってんの?」
僕の日課である、朝の素振りを見ながらシロさんが尋ねてくる。
寝っ転がりながら。
心底どうでも良さそうな顔と声で。
……すごく感じが悪い。
「………110、ほっといてよ。……111、鍛えてるんだよ。……112、113」
「……ほーん。鍛えて何すんの?」
……ほーん、って……! なにそのどうでもよさそうな返事……! ひどい! 感じ悪い!
「……114、115……強くなりたいからに……116、決まってるだろ!」
シロさんが鼻で笑った。
「ふっ……無駄くせえ」
ぷちんっと、僕の堪忍袋が切れた。
無駄!? いま無駄って言った!?
「なに!? 何が無駄くさいの!? 一生懸命やってる僕のことからかって楽しい!?」
思わず大きな声が出てしまった僕を、シロさんがじっと見つめる。
シロさんに真顔で見返され、僕の方が怯む。
寝転がっていたシロさんが、ゆっくりと体を起こした。
……怖い。……いや、怖くない! 僕は間違ったこと言ってないぞ!
「……剣の理由は?」
シロさんは真面目な顔で僕のことを見た。まっすぐに。
「……え?」
「剣で強くなりたい理由は? 殺したいやつでもいるのか? なら剣で殺す必要は? 先祖代々伝わる聖剣で刺さないといけないとかいう遺言とかでもあんのか?」
「え、えっと、特には……」
セリちゃんとナナクサの戦ってるのを見て、かっこよかったから――なんて理由を言ったらいけないような気がして、僕は思わずごまかした。
「ねえなら背伸びすんな。振れねえ剣なんか腰に下げてたら、絡まれなくていいのに絡まれて怪我するだけだ」
「でも……っ」
ひゅっと音がして、僕の顔のすぐ横をシロさんのナイフが通り過ぎていった。
僕はまったく動けなかった。
自分が刺されたのかと思った――。体が一気に冷たくなった。
だけどいまは逆に胸がドキドキして、汗が出てくる。
ナイフの刺さった場所をうかがうと、木の幹に大きな芋虫が串刺しになって死んでいた。
「刃物はおもちゃじゃない。命を奪うための道具だ。それを持ってるってことは、殺すのか殺されるかを選ぶってことさ。
殺したいやつがいるなら、金払ってプロに頼むんだな。
お前みたいなへなちょこにゃあ、いらねえ道具だ、売っちまいな」
シロさんは静かに立ち上がると、僕の横を黙って通り過ぎて、ナイフを芋虫ごと引き抜いた。
へなちょこ……? それって、もしかしてナヨナヨよりひどい……?
少しは筋肉がついてきたと思っていただけに――、少しは強くなったと思ってただけに――、僕は悲しい気持ちになった。
どうしたら僕は強くなれるんだろう……。
「……自分のことは……自分で守れるようになりたいんだ。誰かに、守ってもらうんじゃなくて。
それで……できれば……誰かを守れるように、強くなりたいんだ」
「ほーん……」
シロさんは興味なさそうに返事をしながら、また僕の横を通過して元の場所に戻る……と、思ってた。
「――んぎゃ!!」
突然、僕の体に激痛が走った。
思わず剣を取り落としてうずくまる。そこに再び激痛が走り、僕はまた悲鳴をあげた。
「今の場所が急所な。武器がなくてもそこをどつけば大概のやつはそんな感じになる。
一回しか教えないから今ので覚えろよ? ……覚えたろ?
良かったなー、強くなったぞー、おめでとー」
え? なに? いま、僕いったい何されたの? ていうか痛すぎる。
もう痛すぎてなにも考えられない。すっごい痛い。
痛すぎて涙が止まらない。痛すぎて体が動かせない。本気で痛い。ひどい!
やっとのとこでシロさんの方へ顔を向けると、シロさんはさっき仕留めた芋虫を焚き火で炙りながら笑った。
――どうやらシロさんは、その芋虫を食べるつもりらしい。
シロさんの笑い方は、もちろん僕のことを馬鹿にするような、悪魔の笑顔だ。
「道は長えなあ、へなちょこ」
この日から、シロさんは僕のことを『お前』じゃなくて『へなちょこ』と呼ぶようになった。




