表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第9章 誘起の紫 ~induction~
93/395

piece.9-9

食人嗜好カニバリズムを連想させる不快描写があります。苦手な方はご注意ください。






 なにかの、落ちる音がした。


「……っうあ!? うわぁぁあっ!?」


 野盗の悲鳴で、僕は振り返った。


 地面に何かが落ちていた。


 ――肌色の……手袋?


 そこにナイフが刺さった。


 シロさんだ。

 シロさんが落ちていた手袋に、ナイフを刺して持ち上げた。


「ロバの肉より、いい肉があるぜ、お客さん。

 ヤトーの肉って食ったことあるか?

 いいもん食ってるヤトーの肉は、なかなかうまいんだとさ。せっかくだから味見させてやるよ。

 ま、遠慮すんなって」


 シロさんは薄く笑いながら、ナイフに刺さった手袋を焚火の中に突っ込んだ。

 肉の焼けるにおいがし始める。


「あああああああああああっ!? 俺の手!? 俺の手がぁぁぁぁ!」


 さっきから悲鳴をあげている野盗の手を見た。

 手首から先がなくなって、血を吹き出している。


 ――え……? 手が、ない? なんで?


「ほら焼けたぜ? 食えよ。……きっとうまいぜ? 最高の焼き加減だ。遠慮すんなよ。……ほら、腹が減ってんだろ?」


 シロさんが焼けた肉の刺さったナイフを野盗につきつけて、にっこりと微笑んだ。


 急に冷たい風が吹いたみたいに、僕の体が寒くなった。


 野盗の顔が真っ青になっている。


「テメエ……殺してやる……! 殺してやるぅぅうああぁぁぁあっ!!」


 残ったもう片方の手で、野盗が剣を振りかぶる。


「シロさんっ!!」


 僕は怖くて、思わず目をつぶった。


 聞こえてきたのは、シロさんではなく、野盗の悲鳴だった。


 また、何か重たい()()が落ちる音――。


 僕は目が開けられなかった。


「なんだよ。片方で(ゆる)してやろうと思ってたのに。

 どうすんだお前、これから一人で立ちションもできなくなっちまったなあ。

 あ。ほらこれ、忘れんなよ。リーダーが持てねえんだから代わりに誰か持ってってやれって。

 あ、そういえば腹が減ってたんだっけか? 仲良く分けて食えば? 捨てんの、もったいねえだろ?」


 僕は怖くて目を閉じたままでいた。


 シロさんは生きてる。シロさんは無事だ。


 でも、僕は恐くて目が開けられなかった。


 野盗たちが悲鳴をあげながら逃げていって、ようやく僕はそっと目を開けた。


 地面が、赤く染まっている……。


 シロさんが、落ちていた()()を蹴り飛ばした。たぶん、焼けた野盗の手だったものだと思う。

 それは、森の奥の――茂みの中へと飛んでいった。


 そしてシロさんは、何ごともなかったかのように、また僕に話の続きを始めた。


「まあ、こんな感じさ。殺しても殺してもこういう手合いはウジャウジャわいてくんだよ。キリがねえだろ?

 だったら生かしたまま適当に痛めつけて、見せしめにしちまえばさ、『悪いことをするやつは、こんなひどい目に遭うんだぜ』って、世の中のやつらに教えてやれるわけさ。

 そうすりゃ大人しくなるやつが増えるだろ? 殺すより効率良くねえ? お前はどう思う?」


「……え? あ……うん……」


 僕は衝撃が強すぎて、シロさんがなにを言っているのか、さっぱり頭に入ってこなかった。


 肉の焼けたにおいが、まだ漂っている。


 あっという間の出来事だった。


 僕はもしかして、一緒にいてはいけない人についてきてしまったんだろうか。


 そんな不安が一度浮かんでしまったら、もう僕の頭から離れなくなってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ