piece.9-9
食人嗜好を連想させる不快描写があります。苦手な方はご注意ください。
なにかの、落ちる音がした。
「……っうあ!? うわぁぁあっ!?」
野盗の悲鳴で、僕は振り返った。
地面に何かが落ちていた。
――肌色の……手袋?
そこにナイフが刺さった。
シロさんだ。
シロさんが落ちていた手袋に、ナイフを刺して持ち上げた。
「ロバの肉より、いい肉があるぜ、お客さん。
ヤトーの肉って食ったことあるか?
いいもん食ってるヤトーの肉は、なかなかうまいんだとさ。せっかくだから味見させてやるよ。
ま、遠慮すんなって」
シロさんは薄く笑いながら、ナイフに刺さった手袋を焚火の中に突っ込んだ。
肉の焼けるにおいがし始める。
「あああああああああああっ!? 俺の手!? 俺の手がぁぁぁぁ!」
さっきから悲鳴をあげている野盗の手を見た。
手首から先がなくなって、血を吹き出している。
――え……? 手が、ない? なんで?
「ほら焼けたぜ? 食えよ。……きっとうまいぜ? 最高の焼き加減だ。遠慮すんなよ。……ほら、腹が減ってんだろ?」
シロさんが焼けた肉の刺さったナイフを野盗につきつけて、にっこりと微笑んだ。
急に冷たい風が吹いたみたいに、僕の体が寒くなった。
野盗の顔が真っ青になっている。
「テメエ……殺してやる……! 殺してやるぅぅうああぁぁぁあっ!!」
残ったもう片方の手で、野盗が剣を振りかぶる。
「シロさんっ!!」
僕は怖くて、思わず目をつぶった。
聞こえてきたのは、シロさんではなく、野盗の悲鳴だった。
また、何か重たいものが落ちる音――。
僕は目が開けられなかった。
「なんだよ。片方で赦してやろうと思ってたのに。
どうすんだお前、これから一人で立ちションもできなくなっちまったなあ。
あ。ほらこれ、忘れんなよ。リーダーが持てねえんだから代わりに誰か持ってってやれって。
あ、そういえば腹が減ってたんだっけか? 仲良く分けて食えば? 捨てんの、もったいねえだろ?」
僕は怖くて目を閉じたままでいた。
シロさんは生きてる。シロさんは無事だ。
でも、僕は恐くて目が開けられなかった。
野盗たちが悲鳴をあげながら逃げていって、ようやく僕はそっと目を開けた。
地面が、赤く染まっている……。
シロさんが、落ちていた何かを蹴り飛ばした。たぶん、焼けた野盗の手だったものだと思う。
それは、森の奥の――茂みの中へと飛んでいった。
そしてシロさんは、何ごともなかったかのように、また僕に話の続きを始めた。
「まあ、こんな感じさ。殺しても殺してもこういう手合いはウジャウジャわいてくんだよ。キリがねえだろ?
だったら生かしたまま適当に痛めつけて、見せしめにしちまえばさ、『悪いことをするやつは、こんなひどい目に遭うんだぜ』って、世の中のやつらに教えてやれるわけさ。
そうすりゃ大人しくなるやつが増えるだろ? 殺すより効率良くねえ? お前はどう思う?」
「……え? あ……うん……」
僕は衝撃が強すぎて、シロさんがなにを言っているのか、さっぱり頭に入ってこなかった。
肉の焼けたにおいが、まだ漂っている。
あっという間の出来事だった。
僕はもしかして、一緒にいてはいけない人についてきてしまったんだろうか。
そんな不安が一度浮かんでしまったら、もう僕の頭から離れなくなってしまった。




