piece.9-6
シロさんが協力してくれるのは嬉しいけど、僕は何かが引っかかっていた。
なんだったっけ……?
「――あ! 待って! セリちゃんのいた頃のキャラバンの人は、みんな死んじゃったってセリちゃん言ってたけど……。
じゃあ、なんでシロさんは……?」
「ああ、それなー。俺は別件でそのときは別の場所にいたんだよ。んで、戻ってきたら、みんな死んでて、あいつはいねえし……ってわけ」
シロさんは何でもないことのように軽く答えた。
……じゃあシロさんは、キャラバンの生き残りってこと?
「……じゃあ、ナナクサも……?」
シロさんの目の奥が冷たい温度になる。薄く笑って僕を見つめている目が怖い。
これ以上聞いちゃいけない……。僕は声が出せなくなった。
前もそうだった。
シロさんはナナクサのことを尋ねると、すごく怖い。
仲が悪いみたいだけど、話もしたくないくらい嫌いなのかもしれない。
ナナクサはシロさんのことが嫌いだって、シロさんも自分で言ってたし……。
今はよしておこう。僕は話題を変えた。
「じゃあセリちゃんは、シロさんが生きてることを知らないんだね?」
「ああ、そうなるなあ。もし会ったら感動のご対面だろうなあ。なんてったって、俺たちは、超仲良しだったからなあ」
感動のご対面……?
……どうしよう。もし、セリちゃんがシロさんと出会ってしまったら――……!
『シロっ! 会いたかった! 生きてたなんて……! 私! 私っ! もうあなたがいないと生きていけない! あなたが私の王子様なの! お願いシロ! 私と結婚して!』
なんてことになったりしたら……!?
――――あれ……。
セリちゃんが大好きな人と会えるのは嬉しいはずなのに、なんで僕、こんなに……なんか……変な気持ちになるんだろう。
「……シロさんって……セリちゃんのことが……好きなの……?」
疑問が勝手に口の外に出てしまった。
もしこれでシロさんがセリちゃんのことを好きだって言ったら――僕は……。
「はあ!? 勘弁しろよ! 誰があんな女! 愛想も色気も可愛げもなくて、抱き心地だって悪そうだろ? ナシナシ! 冗談でも無理だな! 金もらったって無ー理ーっ!」
シロさんが顔をゆがませて、全否定する。
その顔は、マズイ毒消し薬を飲んだときのセリちゃんみたいな顔だった。
そんな言い方しなくったって……。
セリちゃんはかわいいし優しいし、ぎゅーってするとちゃんと柔らかいのに。あと、ちょっといい匂いもする。
あれ……でも、なんか……セリちゃんの悪口を言われて、悔しいような気もするけど、なんか……ちょっとだけ、良かったような気がしたような……?
どうしてだろう……。よくわかんないや……。
「あの……じゃあ、セリちゃんの呪いがもし解けてもさ、そのあと、二人で幸せに暮らしたりはしないってこと……だよね?」
僕は真面目に聞いているのに、シロさんは盛大に吹き出したあと大爆笑した。
そしていつかのときみたいに、僕のことをバンバン叩いて笑う。
くそ! 本当に笑いごとじゃないのに!!
やっぱりシロさん嫌い!!
もしセリちゃんの呪いを解いてもらったとしても、絶対にそのあとはセリちゃんを連れて、ダッシュで逃げてやる!!
お礼なんか絶対に言わないぞ!
僕はそう決意した。




