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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第9章 誘起の紫 ~induction~
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piece.9-5



「……いねえな」


 森の中に入り、二日ほど歩きまわったあと、シロさんがそんなことを言った。木々がひらけた場所に、野営の跡があった。でも人はいない。


「え? ここがナナクサとの待ち合わせ場所?」


 僕が尋ねても、シロさんは返事をしない。


「まあいっか。ここでしばらく待つか」


 そうつぶやいて、シロさんは野営の準備をする。

 当然、僕も手伝わされる。


 日が暮れる前に、火を起こして、ごはんの準備をしないといけない。


「……お前さあ、いつからあいつといるんだ?」


「……え?」


 セリちゃんのことを聞かれたのはすぐに分かったけど、僕はとぼけた。


「ふっ、なんだよ。そのわざとらしいすっとぼけ方はよ。

 お前の大好きなセリちゃんのことに決まってんだろ。グートの屋敷で、お尋ね者だって暴露されても、顔色ひとつ変えてなかったしな、お前。つまりあいつの素性が分かってて、くっついてたわけだ。

 しかも置いてけぼりにされて、ベソかくくらい懐いてるときた。『セリちゅわぁん、セリちゅわぁん……!』ってな」


「そんな言い方してないっ!

 ……あれ……? シロさんって、グートの屋敷にいた? 絶対……いなかったよね?」


 シロさんは少しだけ目を細めた。


「なんだよ、俺の超絶タッピング、聴いてなかったのかよ」


 僕はグートの屋敷の記憶を引っ張り出す。楽器を弾いていたキャラバンの人たちはいたけれど、みんな女の人だった。絶対にあそこにシロさんはいなかったはずだ。


「嘘だ、シロさんがいたら、気づいたはず……。

 ……もしかして、女装してたとか……?」


 シロさんの口角が上がる。正解ということだろうか。


「絶世の美女が模範的なタンギングしてただろ?」


 なんの楽器を弾いていたのか、僕にはさっぱり分からないけれど、シロさんはあの場にいたらしい。


「……女装してたら気づかないよ……」


 だいたいキャラバンの人たちの化粧はすごく濃い。顔を知ってるはずのキキョウさんだって、化粧したら別人に見えて、僕は全然気づかなかった。


 そうか、シロさんもあそこにいたんだ。

 からまれなくて良かった……。


「……で? 質問に答えろよ。あいつとは、いつからいるんだ?」


 またシロさんが同じ質問をしてくる。


 どうしよう。普通に答えてもいいのかな……?

 もう僕とセリちゃんが一緒にいたことはバレてしまってるわけだし……。

 

「……なんでそんなことを、シロさんは知りたいの?」


 シロさんは少しだけ驚いたように目を大きくした。


「……質問返しか、いい度胸だな。普段だったら泣かせて吐かせんだけどなあ、お前蹴っても強情だしなあ…………そうだなあ……。

 ――あいつが、キャラバンを抜けてから何してたか興味がある……ってところか」


 どこか遠くを見るようにして、シロさんがつぶやいた。


 ――あれ? ということはもしかして……。


「シロさんって、もしかしてセリちゃんがキャラバンにいたときからキャラバンにいるの?」


 シロさんが手を止め、ゆっくりと僕の方を向く。


 僕はあわてて自分の口を手で押さえた。……けどもう遅い。


 シロさんは、無表情のときの顔が一番怖い。


 細められた目の奥はすごく冷たくて――その目で見つめられると、お腹の奥がわしづかみにされたみたいで、体が動かなくなる。


 でもきっとシロさんは、セリちゃんがキャラバンにいた頃からの知り合いで間違いなさそうだ。そんな気がした。


 ……じゃあ、ってことはやっぱり、セリちゃんの呪いを解く王子様がシロさん……!?


「……や、やっぱりシロさんが……王子、なの……?」


「……は? なに言ってんだ、お前」


 シロさんが露骨に眉を寄せる。シロさんから怖い気配が消えた。


「えっと……あの……シロさんが……セリちゃんの呪いを解く王子様……なんじゃないか……って……」


 シロさんは目をまん丸にして、だいぶ長いこと固まっていた。それからくつくつと笑いをこらえると、手で顔を覆った。


「…………お前さ……っ、お前……本当に……予想外……っ、すげえわ……ほんと……最高!」


 シロさんが下を向いて震えている。


 ……そんなに笑うことないじゃん……。


 まあ……たしかにさ、王子様とかさ……言ってる僕もだいぶ恥ずかしいこと言ってたけどさ、だってしょうがないじゃん、そう聞かされたんだし……。

 でもまあ、たしかに、もっと他に言いようがあるとは思うけど……。


「……あー……やべえ……腹痛え……。あー、たまんねえなあ……っ。

 よし……っ、よし分かった、白状してやる。

 俺はお前のセリちゃんがキャラバンにいた頃からの知り合いだ。あいつも俺を見れば誰だがすぐ分かるくらいのな。それも超仲良しだ。これで満足か?

 だからお前のその……王子様話ってやつをもう少し說明しろよ。面白すぎだろ、それ。

 ことによっては全面協力してやるよ? なんてったって、俺とお前のセリちゃんは超仲良しだったからなあ」


 超仲良し……全面協力……。


 本当にそうなら、やっぱりシロさんがセリちゃんの呪いを解いてくれる王子……じゃなくて、人なのかなあ。


 やっぱり信じられないなあ……。


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