piece.9-3
なんだか寒い……。
肌寒さに目を覚ます。ああ、そうか、野宿だったんだと思い出した。
空は明るくなり始めていた。もう朝だ。
屋根があって、雨風がしのげる家があるというのが、すごくありがたいことなんだということを、僕は実感した。
でも村を出たことは、後悔してない。
「あ。ずるい……」
僕の目の前で眠っているシロさんは、一人だけあったかそうな毛皮にくるまって、スースー寝息をたてている。
ずるい……。なにそのモコモコ……。どっから出したのさ……。
僕は体を起こすと、消えかけてる種火をほぐして、集めてあった枯れ枝を足した。
僕が起きたのに気づいて、ロバが鳴きながら、僕を突っついた。
ロバの鳴き声は、やっぱりちょっと怖い。そして、近づかれると怖い。噛まれるんじゃないかって心配になってしまう。
「なに? ごめん、何かしてほしいの?
ちょっとさ、僕に言われても困るよ……。あと、そんなに近づかないでくれる?」
僕はロバから逃げながら、シロさんを揺すって起こす。
「ねえシロさん? なんかロバが言ってるよ。どうすればいいの? ねえ、シロさ……」
僕の言葉は、途中で塞がれた。シロさんの口で。
「んんー!? んー! んんーっ!」
後頭部をがっちりつかまれてしまい、逃げられない。口の中にぬるっとしたのが入ってきた。……シロさんの舌だ。おえ。
「……一晩中可愛がってやっただろ……? もうちょっと……寝かせろよ……」
えっ!? なんのこと!? かわいがられてなんかいませんけど!?
かわいがられたくもないですけど!?
なに!? シロさん寝ぼけてるの!? 怖っ! 今までで一番こわっ!!
「……あとで、な……?」
何が『あとで』なのかはさっぱり分からないし、分かりたくもないけれど、シロさんは寝ぼけていたらしく、謎の言葉を残して、また眠りの世界に戻って行った。
僕は突然の出来事にどうすることもできず、その場にへたり込んだまま、呆然としてしまう。口の中が気持ち悪い……。おえぇ。
なんで僕、こんな目にあわなきゃいけないんだろう……。セリちゃん、いまどこにいるの? 早く助けに来て……!
心が挫けそうになりながら、とりあえず僕は口の中にツバをためて、そのへんにぺっと吐き出した。
でも、まだ気持ちが悪い。
本当なら水で口をすすぎたいし、洗いたいくらい気持ちが悪い。でもこの辺りに水場はなさそうだ。
またロバが鳴いた。あ、ロバ……。
「……ロバさん……乳、もらってもいい……?」
涙目で尋ねると、優しいロバさんは大人しく僕に乳を恵んでくれた。温かさと甘さが、僕の口の中を優しく包んでいく。
……そして、おいしい。
僕はロバのことが、少しだけ好きになった。




