piece.8-9
――――空耳……だよね……?
なんだか、すごく聞きたくない声が聞こえたような気がした。
でも、僕はすぐに後ろを振り返ることができなかった。
……だって、振り向きたくない。見たくない。
でも、ちゃんと振り返って、誰もいないことを確認して安心しないと、このとてつもない不安感は消えない気がした。
絶対に気のせいだ。
絶対に聞き間違いだ。
だって……。
だってあの声って――――。
おそるおそる振り返る。
「――ぶっ! マジで? やっぱマジ泣きかよ。お前、ホントおもしろすぎ」
まさかの呪いのシロさんだ……。
「……で……っ、出たぁ……!」
「『出た』とか。人をバケモン呼ばわりすんじゃねえよ」
シロさんはにやにやと笑いながら僕に近づいて、腰をかがめると、僕のおでこを指ではじいた。
「ぐあだっ!」
めちゃくちゃ痛かった。
おでこに穴があくかと思った。
夢じゃない。
本物のシロさんだった。
「な……なんでここに……?」
僕はおでこを押さえながら、シロさんを見上げる。まだ痛い。めちゃくちゃ痛い。
前にセリちゃんから、おでこにピンってされたことがあったけど、威力がケタ違いだった。
シロさんのおでこにズビシっ! は、ありえないくらいに痛かった。
「ん〜? 適当に時間つぶし?」
「……じ、時間つぶし?」
「団長様の気まぐれで、今は全員別行動中。することなくてつまんねえの。しょうがねえから、お前で遊ぼうかなあ」
シロさんが真顔で怖いことを言う。
……お前と、じゃなくてお前で遊ぶってなに? 怖すぎ。
僕は蹴られるのは勘弁だし、シロさんと追いかけっこも、怖すぎて絶対にしたくない。もちろん、追いかけられる方も、追いかける方も、どっちも嫌だ。
でも――。
キャラバンがみんな別行動中ってことは、ナナクサもひとりってことか。
やっぱりセリちゃんの言う通り、ナナクサもセリちゃんと話をしたかったんだ。
もしかしたらセリちゃんは、まだナナクサと一緒にいるかもしれない。
僕はじっとしていられなくなってきた。




