piece.8-5
お茶を一気に飲み干したステラは、さっきまでとは一変して絶好調で語り始めた。
もう体をさすったりしていない。声も力強くなった。
「それからもまあ、けっこう大変だったのよね。
お互い着てるものもボロボロだし、汚いし、臭いし、女としては致命傷なわけ。とりあえず街に行きましょってなるのが当然の流れよね?
そしたらびっくり! セリってばお尋ね者なわけ。セリ本人もびっくりよ。
自分のことなのに、なにびっくりしてんのって話よね。でもセリってば自分のことなのに、ぽわーっとしてて、『なんだろうねえ、脱走しちゃったからかなあ。戻った方がいいかなあ』よ?
戻んない方がいい、女は過去じゃなくて未来を向いて生きる生き物なのよって言ってあげたわ。……もう、私ってば、よく考えたら結構タダでセリのこと見ちゃってるわね、お金取れば良かった……。
もうそこからは、ありとあらゆる賞金稼ぎどもとバトルやかくれんぼの毎日よ。本当に参ったわ。
そんなこんなで宿屋にも泊まれなくって、浮浪者たちのたまり場で寝起きをしてるときに会ったのがブライトね。
ほら、ブライトって目が見えないじゃない? 私の声があんまり美しい声だったもんで、どんな美女がおいでになったのかと、自分の方から近づいてきたの」
話の展開が早いのと、ステラが早口なのとで、僕は口を挟めなくなる。
……あれ? でも最後の方のこの展開、どこかで聞いたことあるな……。
「でね、ブライトの頭の中では私って超・美女なわけ。もちろん私は体が小さいだけで、ちゃんと美女だけど。
でね? ブライトって実は相当な女好きなのよ。あんな爺さんのくせにね。
ほら私、身体が変なふうに曲がっちゃってるって言ったでしょ? それをね、ブライトが治してくれるって言ってくれてね。腕はすごいのよ、変態だけど。
あんたもブライトにされたでしょ? ああやって、女の人を喘がせるのが好きなのあの爺さん!
……だけどね? これブライトに言うと機嫌悪くなるから、いる前で言っちゃダメよ?
セリにはね、ブライトの技が、全っ然! 効かないのよ」
「――え!? そうなの!?」
ここにきて、まさかの事態発生だ。
そ、そんな……! ブライトさんの技がセリちゃんに効かないだって!?
じゃあ僕の『セリちゃんはふん♡はふん♡計画』は!? 僕は今、それを目指して一生懸命練習しているのに……!
「あとは……そうね、ワナームの話はこの前したわね。まあ、そんなわけで変態な男を二人従えた美女の旅が続いたってわけ。そこからもいろんなことがあってね……」
はふんはふん計画が……。ブライトさんと毎日特訓してるのに……。はふんはふん……。
「ちょっと! あんた聞いてる!?」
ステラがいきなり大きな声を出した。
「え? あ、うん! セリちゃんには効かないんだよねっ?」
「…………聞いてないわね……?
まあ、いいわ。疲れたし、休憩しましょう。なんか甘いの食べたいわ、出して。あと新しいお茶も」
相変わらず偉そうだし、当然のように僕が用意する係にされてるわけだけれども、僕は文句を言わずに立ち上がる。
セリちゃんが一番つらかった時に、一緒にいてくれたのがステラだった。
セリちゃんが一番誰かにいて欲しかった時に、傍にいてくれたのがステラだった。
なら、僕はやっぱりステラには頭が上がらない。
ステラがどんなに偉そうなやつでも、嫌なやつでも。
だって、きっと僕が会えたセリちゃんは、ステラと会っていなければ、いなかったかもしれないんだから――。




