piece.8-2
星読姫であるステラの噂を聞きつけた野盗が、ある日、家族を襲撃した。ステラ以外の家族は全員、皆殺しにされたそうだ。
「私はね、冷たい人間なの。自分の自由が欲しくて、家族がいなくなる運命を選んだの。……それくらい、私は自由になりたかった……。
私がちゃんと家族の星読をしてあげてたら――。ひとこと『逃げよう』って……そう言えば回避できた。でも私はしなかった。
もう嫌だったの。私のことをお金としてしか見ない人たちと暮らしていくことが……。
家族の命を犠牲にして、私はようやく檻から出ることができた。
……そう思ってた。
だけどね……家族から逃げても、やっぱり私は自由にはなれなかった」
ステラは自分の足をさすった。
「ひどい目に遭ったのよ。汚くて臭い穴の中に閉じ込められて、そこはとても狭くて窮屈で……自由に動くことも満足にできないの。
普段見ててもわからないと思うけど、そのときのせいで私……体が変なふうに曲がっちゃってるの。体が人より小さいのもそのせい……。ろくな食べ物もなかったしね。
でもそれはきっと、私が家族を見捨てた罰なんだって思ってる。
唯一マシだったのは、その野盗の親玉だったジジイが、私の力を本当に崇めてたってことかな。
おかげで野盗から暴力を振るわれるようなことはなかったわ。
だけど、そのジジイも歳をとっていって……権力がなくなるのは、時間の問題だった。ジジイが死んだあと、私が他のやつらにどんな目にあわされるか……そんなの星を読まなくたって、あいつらの目を見てれば、嫌でも分かったわ……」
ステラの言葉に、思い出したくない記憶が出てきそうになる。むりやり押さえつけられる恐怖。たくさんの男たち――――。
僕はお茶を飲んで気をそらした。
もう終わったことだ。僕はもうあの頃の僕とは違う。思い出すな。もう忘れろ。
熱いお茶をむりやり喉に流し込む。火傷しそうな熱さが、嫌な記憶を散らしていってくれた。
ステラは話を続けた。
「私は助かりたかった。自由に生きてみたかった。そのためにたくさんの人を見殺しにしたわ。
野盗どものために星を読んで、金をたくさん持っていそうな旅人を襲わせた。自分の身を守るために、代わりになる女の人を襲わせた。
だって、私しか私を守れなかった。持てる力をすべて使って自分の身を守ったわ。……軽蔑する?」
僕はしばらく悩んだけど、首を横に振った。
ステラのことをひどいやつだなんて、僕には言えなかった。
僕だって同じことをして生きていた。
弱いやつから狙われる。逃げ足の遅いやつから捕まる。捕まれば奪われる。それはお金だったり、食べ物だったり、命だったりする。
捕まったやつのことなんて、助けに行ったことなんてない。もちろん僕も、誰からも助けてもらったことなんかなかった。
――――助けてくれたのは、セリちゃんだけだった。
誰かがひどい目にあっていても、自分の身が無事なら、たいして気にも留めなかった。むしろそいつがやられている間は、僕の番は来ない。
僕の順番が来ませんように。
誰かが僕の身代わりになってくれますように。
明日も無事に過ごせますように。
それだけを願って、ただ生きていた。
僕には、ステラを責める資格なんてない。
「そんな最低な私はね、今度はセリを巻き込んだの」
ようやくステラの口から、セリちゃんの名前が出てきた。
セリちゃんは僕を助けてくれたときみたいに、ステラのことも助けてあげたんだろうか。




