piece.7-13
セリちゃんが出かけてから、すでにひと月以上は経っていた。
セリちゃんはまだ戻ってこない。
ナナクサと話し合いができなかったんだろうか。
もしかして、まだナナクサと会えていないとか?
それとも、またナナクサに怪我をさせられて、どこかで動けなくなってたらどうしよう。
心配で、僕が荷物をまとめて村を出ようとするたびに、ステラが笑って止めた。
「落ち着きなさいよボウヤ。
あんたはちゃんとお迎えが来る星回りなんだから、いい子で待ってなさいって。勝手に飛び出すと、かえって星が絡まって、会いたい相手に会えなくなるわよ」
ステラは星が読めるから落ち着いていられるのかもしれないけれど、僕はセリちゃんとこんなに長い間離れているのが不安でしょうがなかった。
早くセリちゃんに会いたかった。
セリちゃんの声が聞きたかった。
・・・
今日は雨が降っていた。
僕は家の中で、ブライトさんに頼まれた包帯を作っている。
ワナームさんとロキさんは、屋根の雨漏り修理を頼まれて出かけている。ブライトさんも、急に熱を出した子供の看病に行ってしまった。
家の中には、僕とステラの二人だけだ。
下手に会話をしてしまうと、きっとまたステラにイライラしてしまう気がするので、僕は黙々と包帯づくりに集中するふりをして、ステラのことを無視していた。
けれど突然、ステラが小さな声でつぶやいた。
「そういえばあんた忙しそうだったから、すっかり約束のこと忘れてたけど……。
結局どうするの? あの話……聞きたい?」
あの話――。
僕は手を止めて、ステラを見た。
僕の知らない、僕と会う前の、セリちゃんの話だ――。
僕は静かにうなづいた。
怖くないと言えば噓になる。
でも僕は、本当のセリちゃんのことを知って、知った上でセリちゃんと一緒にいたいって思った。
誰かにセリちゃんの良くない話を聞かされても、どれが本当でどれが嘘なのか、ちゃんとわかるようになりたいって思った。
わかった上で、それでも僕はセリちゃんと一緒にいるんだって言いたかった。
ステラが今まで僕が見た中で一番穏やかな笑顔を浮かべた。
その顔は、ちゃんと年上のお姉さんのような顔だった。
「じゃ、私にお茶を淹れてきなさい。いっぱいしゃべってあげるんだから、喉が渇いちゃうでしょ?
というより、私もうすでに喉が渇いてるの。ほら、急いで。
でも雑に淹れるんじゃないわよ。ちゃんとおいしく淹れなさいね」
……少しだけ見直そうかと思ったけれど、やっぱりステラはわがままだった。
でも不思議と今の僕は、ステラにイライラしなかった。
僕は心をこめて、丁寧にお茶を淹れてあげた。
別にステラのためだけのお茶じゃない。
僕だって飲むんだから。
第7章 流言の紫
<RYUGEN no MURASAKI>
~deception~ END




