piece.7-11
ノームはそんな簡単に見つかるはずがないと思っていた。小人はセリちゃんと仲良しなだけで、僕とは1回会ったくらいだ。きっと会えるわけがない。
なのに、いた。
茂みの陰から僕を手招きしている。キノコを傘のように持っている。もしかして、キノコに化けているつもりなのだろうか。
ノームはしーっと人差し指を口に当てて、黙って早くこっちに来いと呼んでいた。
「話は聞いた」
神妙な顔でノームは言った。
「いつもどこにいるの?」
ノームは僕の質問には答えずに、何かの種を地面に並べる。
「そなたが望むのは、金のなる木か、銀のなる木、はたまた銅がなる木……」
「イモからカブにチェンジだって。……話は聞いてたんじゃないの?」
「ちょっとしたギャグじゃよ。のってくれてもいいじゃろ、イケズ。そのへんの返しが冷たいのは、どこかセリと似てるのう」
セリちゃんと似てると言われて、僕はちょっとだけ嬉しくなった。だけど、今日は胸がざわざわして、嬉しい気持ちがあっという間に消えてしまう。
「ステラと直接話すればいいのに。なんでステラとは会わないの?」
「あの女は何でも金として見るからの……どうも苦手じゃ。会ったが最後、売り飛ばされてしまうような気がしてのう」
たしかにステラはお金にうるさい。仕事熱心といえば仕事熱心だけど、ちょっと露骨だ。
ノームを売り飛ばすというのはおおげさかもしれないけれど、ノームを使った金儲けの方法なら、きっといくつも考え出すに違いない。
「あー……なんか分からないでもないかも」
「セリも同じことを言うとった」
「……ねえ、おじいさん。あのさ、セリちゃんってさ……」
僕の言葉をさえぎってノームが言った。
「これがカブの種じゃ。恵みの力が宿っておるからすぐに収穫できる。おいしく食べなさい。
……わしらから見たセリは見たまんま、あのとおりのセリじゃ。じゃがそれは、わしらと人間とは種族が違うから気にならんだけじゃろう。人間なんてどれもみんなおんなじにしか見えん。
近い種族同士の方が、お互いのわずかな差異に強く反発するようじゃのう。
ほれ、お前からしたら、ピクシーもノームもレプラホーンもたいした違いはないように見えるじゃろ? わしらからすればいっしょくたにされるのは勘弁ならん。それと一緒じゃな」
ノームが僕の手にカブの種を乗せた。僕は黙ってノームの言葉を聞いていた。
「人間から見た、普通の人間とセリとの違い……。それは人間にしか分からん。同じ人間の口から聞くといい」
ステラの話を聞くのが怖い。
セリちゃんは、他の人が言うような怖い人じゃないって、誰かに言ってほしかった。安心したかった。
だけどノームは、僕のそんな甘い考えはお見通しみたいだった。
「……うん。そうだね……ありがとう。これ、植えてみるね。
あの、ところでカブって苦い? 僕……苦い野菜はあんまり得意じゃないんだけど……」
ノームは笑った。
「少年、前に一度食べたじゃろ? うまいうまいと言ってたろうに。ほれ、トロトロでおいしい! って言ってたあれじゃ。わしの愛情たっぷりの特製じゃ、うまかったじゃろ?」
ノームに言われて僕は思い出した。村が一晩で燃え尽きて、なぜかセリちゃんが「掘ったら出てきた」と言って豪華なお粥を作ってくれたときのことを。
「え? あ、あれ? あの野菜……! やっぱりあれ、夢じゃなかったんだ!」
「ばっちりピクシーに眠らされておったもんなあ。良い夢見れたか少年?」
「……じゃあ、あのときの竜って……」
ノームは人差し指を口元にあて、ウインクしてみせた。秘密、ということらしい。
セリちゃんは、小人だけじゃなくて竜とも友達なんだ……。すごい……!
僕はまだ、セリちゃんのことを何も知らない――。
ノームと話せて、僕はすこし頭がすっきりした。
セリちゃんのことがもっと知りたい。
怖い話だったとしても、知っていたい。
僕がセリちゃんを知ることで、もしかしたらセリちゃんを助けてあげられることがあるかもしれない。
セリちゃんの力になれることがあるかもしれない。
僕は、セリちゃんの役に立ちたい――。
僕が種を受け取ると、ノームは優しそうに目を細めた。そして僕の持っていた剣を指さす。
「ああ、そうじゃそうじゃ。その剣、良かったら一晩貸してくれんか?」
「え? この錆びた剣? 何に使うの?」
「秘密のいいことじゃよ♡」
ノームがまたウインクをしてきた。
「……一晩くらいならいいけど……素振りに使うから、ちゃんと朝になったら返してね?」
僕は腰に下げていた剣を外すと、ノームに手渡した。




