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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第7章 流言の紫 ~deception~
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piece.7-10

 


 アムローズさんに言われたことが、ずっと胸のどこかに引っかかっていた。


 イモも食べたくなかったし、子供たちと一緒にいる気分になれなくて、しかたなく家に戻った。


 家ではステラが自分の髪を切っていた。手には装飾の凝った小ぶりな(はさみ)を持っている。その鋏は、以前セリちゃんの胸を断固として死守しているあの布を切った――あのすごい鋏だ。


 あのときの衝撃的なセリちゃんを思い出しかけて、アムローズさんの言葉が頭によぎった。


 ――あの女は死神だ、と。


「ああ、あんたか……なあに? 疲れた顔して。子供は元気に外で遊んできなさいよ」


 僕はステラを無視して、(かめ)から水をすくって飲んだ。

 喉が渇いていたはずなのに、水は全然喉を通っていかなかった。


「ねえ、セリって、やっぱりまだナイフで自分の髪の毛切ってんの? まだ髪伸ばすの嫌がってる?」


 急にセリちゃんの名前を出されて、僕はむせた。

 咳こんでいる僕のことを眺めて、ステラが意地悪そうに笑う。


「ほほーう、そなたは今、悩める星回りのようだ……。私に何を捧げるかね? それに見合った答えをそなたへ与えてやろうぞ?」


「星読はしばらくやりたくないんじゃなかったの?」


 睨んだ僕に、ステラはニヤリと笑った。


「星なんか読まなくても、ボウヤのは顔に書いてあんのよ。わっかりやっす。

 おおかた、あの女の良くない話でも吹き込まれたってところでしょ?

 まあ、あんたには刺激が強すぎるかもね。昔の……トーキの話は――。知らない方がいいこともあるわ」


 セリちゃんの偽名、トーキの方でステラは呼んだ。このトーキという偽名は、もとはステラが考えてあげたらしい。


「そういうステラだって、星読で知ってるつもりでいるだけなんだろ? なんでも占いでわかったような口きくなよ」


 ステラは笑った。僕の嫌いな――なんでも見透かすような――偉そうな笑い方で。


「私はね、トーキが一番ぶっ壊れてたときに一緒にいたの。

 あんたが会ったのは、だいぶマシになった後のトーキ。きっとあの頃のトーキ見てたら、あんたきっと、おしっこちびって逃げ出すわ」


(あの女は死神だ……)


 アムローズさんの言葉が頭の中に響いた。


 違う。セリちゃんは死神なんかじゃない。皆殺しなんて……そんなことするような人じゃない。


「交換条件といこうじゃないの。さすがに私、そろそろイモに飽きてきたわ。

 あんた、そのへんのノームとっ捕まえて、イモ以外にチェンジするように言ってきなさい。そしたらあんたが知りたいと思ってる話を教えてあげる」


「なんだよそれ! 自分でノームに言えばいいだろ?」


「私じゃ会えないからあんたに頼んでるんでしょ!

 ……そうねえ、次は……カブなんかどうかしら。できれば果物も食べたいところだけど。じゃ、よろしくね、ボウヤ?」


 ステラはそう言うと、真剣な顔で毛先を切り始めた。


 もう僕の方は見向きもしなかった。

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