piece.7-9
と、ある日。
あいかわらずイモが採れすぎるので、村の子どもたちと遊んでいるときに、みんなでイモをおやつにしようということになった。
子供たちで焚火をたいてお湯を沸かし、イモをゆでた。
火が通ったらかごに乗せ、みんなで仲良く食べていたそのときだった。
「おい! お前! もしかしてカインか!?」
いきなり名前を呼ばれて振り返ると、旅人の格好をした、いかにも強そうな男の人の二人組がいた。そのうちの片方はバルさんだった。僕は夢中でバルさんの方へ駆けだした。
「やっぱりカインか! あれ? なあ、ところでセ……」
「――っっバルさんっ! お久しぶりですっ! このイモすっごくおいしいんで! まずは一口食べてくだすわあぁぁぁあいっ!!」
僕はたまたま手に持っていたイモを、思いっきり反動をつけて、バルさんの口の中へ強引にお届けした。
「んぶっ! へりはほほにいふふは? ひっひょひゃへーほは?」
危なかった……。間一髪だった。
ここでセリちゃんの名前を出させるわけにはいかない。
「……お前な。あの女の名前をほいほい口にするな。またディマーズに取っ捕まって尋問されるぞ」
横にいる落ち着いた雰囲気の男の人が、げんなりした顔でバルさんに小言を言った。
つまりバルさんは、すでにセリちゃんと仲がいいことがバレていて、ディマーズに捕まったことがあるらしい。
「あ。このイモすっげーうめえ! アムローズも食う?」
バルさんは口から飛び出てた分のイモを、アムローズと呼んだ男の人に分けようとした。
「お前が口つけたやつだったらいらん」
アムローズさんはすごく嫌そうだ。
「あ、あの、まだたくさんあるんで、良かったら食べてってください」
子供たちは強そうな旅人の登場に、大興奮でバルさんとアムローズさんに旅の話をせがんだりしていた。
アムローズさんは、バルさんの【ラス】とは違う【カルブロ】というギルドの人なのだそうだ。
ディマーズ、エヌセッズ、ラス、カルブロ……。ギルドってすごくたくさんあるみたいだ。
覚えられる気がしない。
なんでもグートが領主の仕事をできなくなってしまったので、ディマーズがこの一帯の治安維持ギルドを募集し始めたらしい。
ひとつのギルドだけで管理をすると、今回のグートのように独裁状態になってしまうことがあるらしい。
だから複数のギルドで均衡を保つように配置する、というのがディマーズの狙いのようだった。
バルさんの所属している【ラス】も、アムローズさんの【カルブロ】も、治安が悪くなって、ごろつきがウロウロしているような街の再生に貢献しているギルドなのだそうだ。
「俺たちカルブロは頭に血がのぼってるようなやつを相手にするのが得意なんだ。前の仕事でこんなでっかい大男をふらふらにしてやったことがあってな……」
アムローズさんの話を、子供たちが目をキラキラさせながら聞いている。
これからまだまだいろんなギルドの人たちが集まってきそうだ。
セリちゃん……用事が済んだら、ちゃんと帰ってきてくれるかな……? あんまり人が増えてきちゃったら、戻って来づらくなったりしないかな……?
僕は少しだけ心配になった。
「なあカイン。この村の宿屋はまだ空きがあるか? もし心当たりがあれば案内してくれ。アムローズが疲れて早く休みたいんだとよ」
「あ、いいですよ」
僕は二人を宿屋に案内した。
アムローズさんは、宿屋の外階段に腰を下ろすと、バルさんに荷物を押しつけた。
「俺は疲れた。バルサール、悪いが俺の手続きも頼む。ついでに荷物も部屋に運んでくれ」
「おいおい、もう歳なんじゃねえのか? 引退考えろよ?」
バルさんは笑って、大きな荷物を二人分抱えると、宿屋の中へと入っていった。
アムローズさんが僕の方をちらっと見て口を開いた。
「……あいつはバカでな。お尋ね者の女にすっかり心酔しちまってる。昔、仕事でヘタウチしたのを助けてもらったのが縁らしいが……」
お尋ね者の女というのが、セリちゃんのことだということはすぐに分かった。
「俺は、あの女が正直怖い。何年か前、ディマーズの仕事をしているあの女を見たことがある。
……あれは死神だ。あの女のまわりには、死が集まってくる。あの女に引き寄せられるみたいにな。
坊主、もしあの女と親しいのなら、悪いことは言わん。縁が切れるなら切れ。その方がお前のためだ」
アムローズさんが怖い顔で僕を見ていた。僕は何を言われているのかよく分からなかった。
「……え? それ……どういう……?」
「おい、アムローズ! 残り一部屋だから俺と相部屋だってよ! どうする?」
バルさんが宿屋の中から大声で尋ねてきた。
「お前のいびきなんか聞いて寝られるわけがねえだろ! 他の宿探してくるから俺の荷物見とけ!」
アムローズさんがバルさんに叫び返す。そして立ち上がりざまに僕の肩に手を乗せた。
「忠告はした。さすがに見て見ぬふりは後味が悪いからな」
僕はアムローズさんが別の宿屋に入っていくまで、ずっとその後ろ姿を見つめていた。
イモを食べ過ぎたせいなのかもしれない。
気持ちが悪くて、吐きそうな気分だった。




