piece.7-7
ステラがうるさいので、僕たちは日が昇り始めたばかりのタイミングで、そ~っと逃げるように街から移動した。
もしも街の人に見つかると、また占い希望の行列ができてしまうからだ。
次の滞在場所は、この前セリちゃんと一緒に泊めてもらった村長さんのいる村に決めた。
ステラが星読で稼いだお金があるので、ひと月ほどは贅沢しなければ十分に生活できるだけの資金があった。
村長さんのご好意で、僕たちは村の空き家をひとつ貸してもらえることになった。
この村には、ディマーズが昨日の朝のうちに立ち寄っていて、グートの屋敷から逃げ帰っていた女の人たちから大体の事情を聞いていたらしい。
女の人たちは、ディマーズへ口々にこう言ったらしい。
――【皆殺しのセリ】がわたしたちのことをグートから救ってくれた。
――【皆殺しのセリ】がわたしたちの恨みを晴らしてくれた。
村長さんは、セリちゃんがグートをやっつけたと信じているみたいだった。
そして、戻ってきたのが僕だけだったので、僕と一緒にいた女の人がディマーズの探している【皆殺しのセリ】ちゃんだと確信したらしい。
「わしらは何もしゃべらんよ、安心しておくれ。
それよりも、グートを懲らしめてくれたあの人に、会ったらお礼を伝えておくれ。
別に生かしておかんでも、殺してくれて構わなかったんだがなあ、あんな男は……」
村長さんは、そっと僕に声をかけてくれた。
僕は思わず言ってしまった。
「……違う。セリちゃんじゃない……!」
何故だろう。
セリちゃんへのお礼を言われたはずなのに、僕はなんだかすごく悲しくて、そして同じだけ腹がたった。
セリちゃんの泣き顔を思い出した。
セリちゃんと会ったばかりの頃――あの真っ赤な教会で泣いていたセリちゃんのこと。
恩人のナナクサを殺してしまったと、涙を流していたセリちゃんのこと。
セリちゃんは、本当は人殺しなんかしたくないんだ。
なのに、みんなから【皆殺しのセリ】なんて、ひどい呼ばれ方をされている……。
セリちゃんは、きっと嫌でしょうがなかったはずだ。
僕の思いは村長さんには届かなかったみたいだ。
村長さんは、分かってる分かってると言って、にこにこと上機嫌で自分の家に帰っていく。
ちっともわかってない。何もわかろうとなんてしていない。
村長さんに怒りをぶつけるのは違うと分かってる。でも、僕はもう村長さんのことを好きにはなれなかった。
グートに無理矢理連れて行かれた女の人たちも、――生きていた人たちは――無事に戻ってきていた。
村は僕が立ち寄ったときに比べて、見間違えるくらいに活気づいていた。
村の人たちはみんな、グートの身に起きたことを心の底から喜んでいた。
グートなんて殺されれば良かったのに。
【皆殺しのセリ】はこの村の英雄だ。
無事に、ディマーズから逃げてくれたらいいね。
そう言っている人がたくさんいた。
僕はその言葉を、複雑な気持ちで耳にしていた。
僕たちは、セリちゃんが戻ってくるまでの間、しばらくこの村で暮らすことになった。




