piece.7-6
「あーもう! 稼いだ稼いだ! もうやだ! もう星読したくない! あー気分悪い! 頭ぐるぐるする~! ブライト~! 疲れた~! 足と腰と肩と顔がだるーい!! 治して~!」
夕食を食べ終わったあと、いつにも増してステラが大騒ぎをして、ブライトさんを引っ張って馬車の中へと消えていった。
……この人……本当にセリちゃんと歳近いんだよね……? どう考えても僕より子供にしか見えないんだけど……。
セリちゃんがこんな風にわがままになってるところなんて見たことがない。
…………なんだって?
……わがままな、セリちゃんだって……?
……。
「カイン~! 疲れた~! も~歩けない〜!」
セリちゃん、大丈夫? もうちょっとで次の町だからがんばろうよ。
「やだ~! もう疲れたんだも~ん! もう歩けない~! カイン抱っこして~! ぎゅーってしてー!」
もー、しょうがないなあ……セリちゃんったら、ほら僕につかまって?
「きゃー! カイン力持ち~! 大好き~! このままずーっとぎゅーしたまんまがいい~! ずーっとぎゅーってして〜? ね~! お願い~!」
ぎゅー。
……なーんて。
……どうしよう。かわいい。わがままなセリちゃん最高。見たい。見たすぎる。
「お嬢はさ、オレたちに心配させないように、ああしてわざと騒いでるんだぜ?
見えないもんが見えちまうって、オレらには分かんないしんどさがあるみたいでさ。本当は陰で、ぐったりしてるんだ……。オレたち、お嬢の稼いだ金で生かしてもらってるわけだし……本当にあの人には頭が上がんないよな……」
ん? ワナームさん、なんの話?
僕は考えごとに夢中で、ワナームさんが真剣な顔で話している内容を聞き逃してしまった。
なんの話? と、ワナームさんへ聞き返そうとしたその時だった。
「おい。星読の姫とやらがいるキャラバンはここか?」
鋭い女の人の声。一度聞いた声だからすぐに分かった。
ディマーズのアダリーさんだ。レキサさんやゼルヤさんはいない。アダリーさんが一人だ。
僕は思わずロキさんを見た。ロキさんは肩をすくめて困ったような動作をしてみせた。でも僕はそれが何を意味してるのか、さっぱり理解できなかった。もしかしてピンチなのかな……。
「あー、すいません。今日はもう星読は終わりなんで……」
ワナームさんが立ち上がって、アダリーさんの前をふさぐ。ステラの馬車へ近づかせないようにしていた。
「領主グートを刺傷した女の調査に協力しろ。事件が起きる前からお前たちはこの場所に留まっている。
さらには【皆殺しのセリ】と親交の深いエヌセッズを護衛にもしているな。なぜお前たちはこの街に来た? 目的はなんだ?」
どうしよう……。セリちゃんの仲間だってバレちゃう……?
「ご協力いたしますわ。中へどうぞ」
馬車からステラが現れた。
雰囲気が全く違うので、僕は別人が出てきたのかと思った。
冷たく、仮面をかぶっているような無表情。低く、落ち着いた声。薄く開いた目が、アダリーさんを静かに見下ろすように見つめていた。
アダリーさんは勝ち誇ったような視線をワナームさんへ向けると、馬車の中へと入っていった。
「お嬢、大丈夫かな……。ディマーズの姉ちゃんにひどいことされたり……」
「大丈夫大丈夫。アダリンは基本、女の子には優しいから」
心配するワナームさんに、ロキさんが笑って肩を叩く。
しばらくしてアダリーさんが馬車から出てきた。
「すまなかったな。参考になった。さすがは星読姫だな」
「少しでもお役に立てたなら光栄ですわ」
まったく子供っぽくないステラが、静かに微笑む。雰囲気のせいで、今のステラは上品な大人の女性にしか見えなかった。
僕はアダリーさんが十分に離れていってから、ステラに声をかけた。
「もしかして、セリちゃんのこと聞かれたの?」
キッと僕のことを睨むその顔は、いつものステラだった。
「それは口実で、実際はただのクソくだらない恋愛相談よ! 本当にどいつもこいつも女ってやつはなんで恋愛相談しかしないのかしら! 無駄な体力使ったわ!
あーもう! お前の恋愛運なんざ、どーでもいーっつーの!!
あーもう! 日が出る前にここをずらかるわよ! もうどんなに金を積まれたって、星読なんてするかいっ! あー気分が悪い!! クソムカつくわ!!」
キーッとヒステリックに叫ぶステラは、さっきまでの神秘的な美しさの欠片も残っていない。
やっぱりステラは、ただのワガママでうるさくて品がない女の子にしか見えなかった。




