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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第7章 流言の紫 ~deception~
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piece.7-1



 ロキさんが言ったとおり、ディマーズのメンバーはセリちゃんが出ていったあと、昼過ぎには僕たちのいる街までやってきた。


 そのころ僕はまだ眠っていたので、どんな人たちが来たのか、直接は見ていない。


 街の人の噂を聞く限り、リーダーのような女の人が、お供と思われる男の人を二人連れて来ているようだった。


 そして、僕はてっきりグートは死んでしまったんだとばかり思っていたんだけれど、ちゃんと生きていたらしい。街の人たちが、グートが生きていたと噂をしていたからだ。


 僕はその噂を、遅めの朝食――というよりも昼食か――を食べながら耳にしていた。


 生きてはいるけれど魂だけを取られてしまったとか、すっかり人が変わってしまったとか、あれはグートじゃなくて本物はさらわれたんだとか、今までのが偽物で本物はあっちだとか……。


 どの噂も、根も葉もないようなものばかりだった。


 僕が冷めたイモのスープを食べていると、ステラがずかずかとやってきて、僕の隣にどかっと腰を下ろした。


 そして残りのスープが入っていた鍋に直接スプーンを突っ込むと、すごい勢いで口の中にかきこんでいった。


 僕は自分が食べるのも忘れて、ステラを見つめた。決して見とれたんじゃない。あまりにも品のない食べ方に驚いたからだ。

 黙っていれば、そこそこ雰囲気のあるきれいな女の子なのに。あ、女の子じゃなくて、女の人か。


 ……にしてもこの人、本当に見た目とやることのギャップがありすぎる。


 ステラは固まっている僕を見ながら、イモを頬張ったまま偉そうに言った。口の周りがスープだらけだ。

 もしセリちゃんがこの場にいたら、きっと笑いながら口を拭いてあげたに違いない。残念だけど、僕は拭いてあげない。


「そのへんの噂を、まともに相手しない方がいいわよ。『デタラメはせっかちで早起き、真実はのんびり屋でねぼすけ』ってね。そう、まさに今のあんたみたいな感じね。

 さ! 働かざる者食うべからずよ! 食べた分は役に立ちなさいね、ボウヤ?」


 5秒で昼食を平らげたステラは一息つく間もなく、また自分のテントに戻っていく。その後ろ姿は、人のことをボウヤ呼ばわりしているくせに、自分だって子供とたいして変わらない。食べ方だって、僕よりも行儀が悪い。

 

 ステラがセリちゃんと歳が近いなんて、やっぱり全然信じられなかった。


「なんだよ、えらそうに……」


 スープを食べ終えた僕は、文句を言いながらもステラがそのままにしていった鍋と、自分が使ったお椀を洗った。その後は素直に(まき)を割る。


 食べた分は働く。それくらいはわきまえてる。


 薪割りに使っているのは、もちろんセリちゃんの斧だ。

 セリちゃんから借りた斧は、小さくて軽い。それによく手入れがされていて、とても使いやすかった。


 僕は薪割りの手を休めて、一息ついた。ステラのテントに並んでいる行列を見てたら、大きなあくびが出た。


 うーん、まだ眠い。


 セリちゃんが街を発ったあと、ステラはノームからの贈り物である大量のイモを、おもむろに土の中から掘り出した。


 そしていきなり、『悪しき因果が絶たれて、大地が恵みに潤う星が!』とか『悪しき黒い雲が晴れ、大地が富の星回り!』とかなんとか、よく分からないデタラメ予言を語りだして、あっという間に、グートの領地一帯に『掘れば掘るほどイモが出る奇跡』を広めてしまったのだ。


 そんな感じで突如始まった『夜明けの収穫祭』に、僕も完全に巻き込まれてしまい、すっかり日が出て、明るくなるまでイモ掘りを手伝うハメになった。


 さすがに疲れすぎて、そのあとは気を失うみたいに寝てしまった。そして今ようやく起きてきたというわけだ。


 でもステラは昨日の夜から、一睡もしていないみたいだ。

 

 僕は全然知らなかったけれど、ステラは【星読姫(ほしよみひめ)】と呼ばれるほど、占いや予言に関しては有名な女性だった。


 ステラのテントには、星読姫の噂を聞きつけて、占いを希望する人たちが列になって並んでいた。


 全然『姫』なんて(がら)じゃないのになぁ……。


 口の周りがスープまみれのお姫様なんて聞いたことがない。お客さんに笑われちゃえばいいのに。


 僕はそんなことを考えながら、黙々と薪を割っていた。


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