piece.1-6
体の中を引き裂かれるような激痛も、今は何も感じない。
痛みを感じないときの僕は、どこか別のところにいるみたい。
どこか離れた、安全な場所から、痛めつけられる自分の体をながめている。そんな感じ。
僕は少し安心していた。
セリちゃんのことは、まだバレていないみたいだ。
このまま僕がこいつらを引きつけておけば、レネーマもセリちゃんのことを思い出さないかもしれない。
こいつらからもらったお金で、レネーマが好きなだけ食べて、お酒を飲んで寝てしまえば、セリちゃんを無事にこの街から出してあげられるかもしれない。
僕は……明日、ちゃんとセリちゃんについて行けるのかな……。
セリちゃんと一緒に行けば、もうこんな気持ち悪くて痛くて苦しくてひもじくて悲しい気持ち、感じなくても済むのかな。
自分で思いついたことに、自分でびっくりする。
僕はずっと、ここで生きてることが気持ち悪くて痛くて苦しくてひもじくて悲しいって思ってたんだ。
僕は、ここが大嫌いだったんだ……。
だけど、そんなことを今までちゃんと考えたこともなかった。
嫌いだとか、ここから出ていきたいとか、そんなことを僕は一度も考えたことがなかった。そのことに、とても驚いていた。
そこへ、誰かの慌ただしい足音が近づいてきた。
男がもう一人、家に入ってくる。
「おい! あのお尋ね者の女! 見つけたってよ! 来いよ!」
僕の意識が、自分の体の中に戻った。
とたんに頭がガンガンして、お腹の中がぐちゃぐちゃで、その瞬間、僕は吐いてしまった。
「うわ! きったねえ! 興覚めしちまったぜ!」
「よし! じゃあ次はその賞金首の女の塩梅でもみてやろうぜ!」
僕に興味をなくした男たちが、笑いながら一斉に家を出ていく。
「ちょっと! 金は置いていっておくれよ!」
レネーマが男の一人の腕をつかんで金をふんだくっている。
「ねえ、あんたくらいは遅れて行ってもいいんじゃないかい? あたしのことも構っておくれよ……」
レネーマが最後に家を出ようとした三人目の男に、とびきりの作り声を出していた。
「年増より若い女の方が何倍もいいんだよ! 正直お前なんかよりも男のカインの方がよっぽど上玉だしな! いい気分が台無しになっちまう」
頭にガンガン響く大声で笑いながら、三人目の男も出て行った。
家の中には僕とレネーマだけが残される。
僕はがんばって体を起こした。良かった。まだ身体が動く。
「レネーマ。良かったね、あいつら乱暴だから、しない方が良かったよ……」
僕がズボンをはき終わるまで、家の中はすごく静かだった。
不思議に思ってレネーマを見る。お金をもらったばかりなのに、レネーマが静かなことって珍しい。
レネーマは今まで見たことがないくらいの、とても怖い目で僕のことを睨んでいた。
「……お前のせいだ……お前さえいなければ……お前なんか産んだからあたしは不幸になったんだ……」
体の中が一気に冷たくなった。
寒い日に外で寝なくちゃいけなくなったときよりも、ずっと体が冷たくなった。
なにかを考えるより先に、僕は家を飛び出した。
殺される――。
僕はなぜかそう考えていた。
そして、その考えは絶対に合っていると思っていた。