piece.6-7
グートの屋敷の外に出ると、小人のおじいちゃんがセリちゃんに何かを渡していた。すごくキラキラしていた。
あとで分かったことだけれど、それは宝石と呼ばれる、とても高価な石だった。
「悪趣味なものばかりじゃったが、このへんなんかは人間が好きそうな石じゃ。売って路銀の足しにするんじゃな」
どうやらおじいちゃんは、グートの屋敷から宝石を盗み出してセリちゃんへプレゼントしているようだった。
本当なら泥棒は良くないのかもしれないけれど、でも……まあグートのだし……悪いやつだし……うん、いいことにしよう。
僕は見て見ぬふりをした。
おじいちゃんから宝石を受け取ったセリちゃんは、言いづらそうに続けた。
「ありがとう、おじいちゃん。
……ねえおじいちゃん。もう一個、おねがいしてもいい?」
「本当にセリはノーム使いが荒いのう……」
そんなふうに言ってはいるけれど、ノームのおじいちゃんはなんとなく嬉しそうだった。
「ここの周辺の人たち、食べるものがなくて困ってるの……。大地の恵みを増やすことって、できないかな……?」
ノームはふむふむとつぶやいて、土をさわるとセリちゃんに答えた。
「ここの土はもともと十分肥えておるよ。人間たちが心を込めて、きちんと土に手を入れれば、ちゃんと物は育つ。
まあ、奪われるとわかってる作物を愛情込めて育てるのは、難しいのかもしれんがのう」
「飢え死に寸前の人たちもいるの。そんな状態で今から育てろなんて……たぶん難しいと思う……。おじいちゃん……!」
「……まあ、そこまで言うなら……。いまはイモがうまい季節だしのう……。掘ったら……大きなうまいイモが出てくるかもしれんのう」
セリちゃんはノームをぎゅーっと抱きしめた。
つまり、どういうことなんだろう……? もしかして何もないところからいきなりイモが生えてくるってこと? え? そんな、まさか……。
「おじいちゃん!! ありがとう! みんなにたくさん掘るように言っておくね!」
セリちゃんは笑顔をいっぱいにして、走り出した。なんだか今夜のセリちゃんはちょっと子供っぽい気がする。……かわいいから全然いいけど……。
僕がなんとなくノームのおじいちゃんの方を振り返ると、おじいちゃんは僕に向けて親指を立て「野菜も残さず食べるんじゃぞ、少年!」とセリちゃんみたいなことを言って、地面の中へと潜っていった。
・・・
セリちゃんはステラたちと合流すると、すぐにステラへ声をかけた。
「このあたりの村の人たちに、畑を耕してみるように伝えてくれるかな? 食べ物が出てくるはずだから。
それを食べたら、ちゃんと愛情込めて作物を育ててあげてって。きっとおいしい野菜ができるはずだから」
ステラはセリちゃんの言っている意味がすぐに分かったらしい。にやりと悪い笑みを浮かべて返事をした。
「任せなさい。カリスマ占い師の実力、なめんじゃないわよ? 大豊作の星回りってね!」
ステラに声をかけたセリちゃんは、今度はロキさんに声をかけに行く。そしてさっきノームから渡された宝石をロキさんに渡す。
「はいロキ、これ当面の契約料。これでみんなをよろしく。契約者については他言無用でね?
私はディマーズに見つからないように、数日ここを離れるけど、すぐに戻ってくるから。それまでこの領内の村のどこかで待っててくれる?
あ、そうそう。もし契約料がもらいすぎだっていうなら、残ってるグートの兵士たちが弱いものいじめしないように、適当に散らしてくれてもいいからね? 村人さんたちをよろしく」
「……それ、やれって言ってるようにしか聞こえないけどね……。ま、やるけどさ」
ロキさんは困ったように頭をかいて笑った。
――やっぱり、僕はセリちゃんが毒持ちの人間だなんて信じられなかった。
みんなセリちゃんのことが、大好きなふうに見えた。みんなすごくいい人たちだし、とても仲良しに見えた。
セリちゃんも、どこからどう見ても――普通の女の人にしか見えない。
ディマーズに狙われているお尋ね者には……やっぱりどうしても見えない。
それも――【皆殺しのセリ】だなんて、怖い名前で呼ばれるような人には――。
なんで急にそんなことを思ってしまったんだろう。
空と大地の境目が、赤く色づき始めていた。もうすぐ夜が明ける。
朝焼けの色が、まるで大地を燃やしていくみたいに、ゆっくりゆっくりと、赤黒く広がっていった。




